翻る落ち葉

阿紋

麻子1

「これあげる」

彼女は自分の味玉を、僕のどんぶりの中に入れる。

「嫌いなの」

「ここの味玉、美味しいから」

「ありがとう」

公園でぼんやりと空を見ていた。

「シュン君だよね」

麻子に声をかけられた。

シュン君なんて呼び方をされたのは、いつ以来だろう。

そう思いながら、僕は相手の顔を見る。

「麻子だよ、覚えてない」

微笑みながら彼女は言った。

「覚えてないよね」

見覚えがある気がした。多分、子どもの頃。

母さんに引きずられるように、

僕は小学校を転々とした。

母さんは、逃げているようだった。

ただ、何から逃げているのか、子どもの僕にはわからなかった。

そうか、この辺にも住んだことがあった。

「アサちゃん」

僕と母さんが住んでいたアパートのそばに、町工場があった。

アサちゃんはそこの娘だ。

アサちゃんとはよく遊んだ。

「覚えててくれたんだ」

「なんとなく、そうかなって」

ちょうど夏休みだったこともあって、

僕は母さんから逃げるように、

アサちゃんの家に入り浸りだった。

「ねえ、ラーメン食べに行こうか」

そう言って、麻子は僕の手をつかんだ。

懐かしい手の感触。

僕はアサちゃんに手を引かれて、

アサちゃんの家まで行く。

優しい麻子の両親が羨ましかった。

「ねえ、おじさんとおばさんは元気なの」

「あたし、今ひとりぼっちなの」

麻子は明るく、僕にそう答えた。

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