第24話 おいしい!
ドラゴンはちゃんと料理をして食べる。何でかというと、ただ単純に火であぶれば食べられるなんてことは無いから。魔物の体は人間や魔族よりも複雑で、食べ方や食べられる部位も決まっている。幸運にも、私はそれを本の知識で知っている。実際に、魔界で購入できる魔物の肉で調理もしたこともあるのよね。ゼクトには私の指示に従って調理を手伝ってもらう。
「こっち切ってもらえる?」
「おう、チェイサースラッシュ !」
ザクッ!
「この部位を殴ってほぐしてくれる?」
「ハンマーパンチ!」
ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ!
「火を用意して」
「ハンドファイヤー!」
ボウッ!
ゼクトが単純な作業をしてくれてる間に、私は岩や石の形を変えて、鍋や皿を作る。錬金術とかいう古代技術を応用して作った魔法なら、どんな岩や石も粘土のようにできるのだ。……ん? 何かしら? ゼクトが目を丸くして見てくる?
「あの~、ミエダさん? それはどうしたのかな?」
「ん、何? ああ、鍋と皿のことかな? 魔法で作ったのよ」
「はい? 魔法で? 魔族にはそんな便利な魔法があんの?」
「そういうわけではないけど……どっちかというと私のオリジナルの魔法かな?」
「自分で魔法を作れんのか! すごいな!」
「私って友達いなかったから、魔法の研究をしてたら作れたのよ、すごいでしょ?」
「お、おう、すごいな……」
魔法を作ること自体はそんなに難しいことだったのかな? ゼクトが人間だから? そういえば、魔界で新しい魔法が作られたっていう発表を聞いたことなかったわね……。もしかして私……とってもすごいことができてたんじゃ!? ……でも、何故だろう? ゼクトが私を可哀そうな人を見るような目で見るのは何で?
ゼクトが切ってくれた肉と骨を鍋に入れて、水を加えて煮込む。水と火もゼクトが用意してくれる。それにしても、ハンドウォーターとハンドファイヤーね。生活魔法っていうらしいけど、人間は随分面白い魔法を考えるのね。時代の違いかな、人間と魔族の争いが終わったみたいだしね。
ゼクトが火加減を調節して、私が灰汁を取る。そうすること30分、ついに食べられるくらいに煮込めた。魔物の肉は、時間をかけて煮込まないと食べられないから、とっても厄介なんだけど……ああ、あああ、やっと食べられるんだ!! 私とゼクトは、「いただきます」も言わないで食べ始めてしまった。その感想は……!
「うま~い!! うまい、うまい、超うまい!! 肉がうまい、出汁がうまい!」
「うん!! おいしいわ!! 食事なんて何年ぶりかしら!!」
とっても美味しい! 味が染みたお肉は柔らかくて食べやすく、骨から出汁を取ったスープが体を温める! 倒したドラゴンの数だけ食べられる! もう最高! ああ、久しぶりの食事が美味しすぎて涙が出ちゃう……。
「おいしい! おいしいよ~! 今日まで生きててよかったって、本当に思うわ!」
「そうか……! そんじゃ、食えるだけ食っちまえ!」
「うん! モグモグ!」
ガシャン! ガシャン! ガシャン!
グルルルルル……」
んん? 何か変な音が聞こえる、無粋ね。壁の外から魔物が暴れてるみたいね。壁と言っても、鍋の壁だけどね。私達は安心して食事をとるために、私が作った大きな鍋の中にいる。魔法を重ね掛けして、かなりの耐久性があるから人安心できる。蓋までは作る暇が無かったから、上からは丸見えだけどね。
「ふう……もっと食べたいけど……お腹いっぱい……久しぶりにお腹が膨れたわ……」
「ああ、美味かったな……まだ残ってるけど……」
結構、食べたけど、食べられるお肉はまだある。今後のためにも、残ったお肉は保存食として持って行かなきゃいけない。保存する準備はもうできてるんだから。
「ゼクト。残ったお肉は凍らせて、切り離した皮に包むわよ」
「それで保存できるのか?」
「ええ。食べるときに解凍すればいいだけだから。皮に包めば長く冷凍できるわ」
「なるほど、にしても詳しいな」
「昔読んだ本にそう書いてあったの、読書も趣味だったからそういう知識もあるのよ」
「そうか……」
ドラゴンの皮はいい素材になる。持ち運ぶ袋に加工できる。ゼクトにそう言って、うまく切り離してもらってよかった。後は持っていくお肉を凍らせるだけ。憎悪魔法・ブラストフリーズを最小レベルで使えばいいか。
「わが怒りは冷気に変わり敵を……」
「ハンドフリーズ!」
シュー!
「……包む! 憎悪魔法・ブラストフリーズ!」
シュウウウウウウウウウウウ!
……ハンドフリーズ? ああ、ゼクトの生活魔法か……。タイミングがずれたわね。……じゃなくて! なんか違和感があるって思ってたけど、やっと分かった! ゼクトの魔法にはどれも詠唱が無い! 本当にどういうことなんだろう? 気付くのが遅いよ私……。
「あの~、ゼクトく~ん、ちょっといいかな?」
「うん? どうした?」
「何で詠唱がないの? 今更だけど……」
本当に気付くのが遅いよ私……。
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