第23話 うまい!
ドラゴン(羽無し)の料理はミエダが担当することになった。俺もある程度はできなくはないが、いくら何でも魔物を料理するのは経験がない。俺は少し手伝うだけだ、魔法でな。
「こっち切ってもらえる?」
「おう、チェイサースラッシュ !」
ザクッ!
「この部位を殴ってほぐしてくれる?」
「ハンマーパンチ!」
ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ!
「火を用意して」
「ハンドファイヤー!」
ボウッ!
……とまあ、こんな感じだ。大雑把な作業をこなしているだけだけどな。一方、ミエダの作業はというと、……あれ? 何であんな鍋や皿があるんだ? いつの間に? どこから持ってきた? ここって森の中、ていうかダンジョンの中なんだぞ!?
「あの~、ミエダさん? それはどうしたのかな?」
「ん、何? ああ、鍋と皿のことかな? 魔法で作ったのよ」
「はい? 魔法で? 魔族にはそんな便利な魔法があんの?」
「そういうわけではないけど……どっちかというと私のオリジナルの魔法かな?」
「自分で魔法を作れんのか! すごいな!」
「私って友達いなかったから、魔法の研究をしてたら作れたのよ、すごいでしょ?」
「お、おう、すごいな……」
そ、そういうことだったのか……。友達いなくて魔法の研究に打ち込んだって……悪いこと聞いちゃったな。
俺たちは、切った肉と骨の一部を鍋に入れて、水魔法で水を加えてそのまま煮込んだ。俺は火加減を調節して、ミエダは丁寧に灰汁を取った。
十分に込んだところで早速食べられる段階に入った。いい匂いがする! 自分たちで作って食べる、これも俺にとっては初めての経験になるが、その出来栄えと味は……!
「うま~い!! うまい、うまい、超うまい!! 肉がうまい、出汁がうまい!」
「うん!! おいしいわ!! 食事なんて何年ぶりかしら!!」
すごく美味かった! 骨から染み出る出汁からいい味を出し、肉が柔らかくて食べやすく、何よりたくさん食べられる! 最高だ! 思わず泣きそうになる! あ、もう泣いてる人がいる。やっぱり、数年ぶりの食事は泣けるんだな……。もらい泣きしそう。
女の子なのに人目も気にせず夢中で食べるミエダ。正直、はしたなく見えなくもないが、俺も夢中で食べる。それぐらいうまく感じるのだ。
「おいしい! おいしいよ~! 今日まで生きててよかったって、本当に思うわ!」
「そうか……! そんじゃ、食えるだけ食っちまえ!」
「うん! モグモグ!」
こんな時に魔物がやってきたら面倒だが、その心配はない。なぜなら、俺たちは今、でっかい鍋の中にいるのだ。これもミエダの魔法で作った。さっき倒したドラゴンもどきの力に耐えられる強度にもなってる。家一個分くらいあるこの鍋の中にいれば、魔物は入り込む余地がない。鍋の中で食事とは、ちょっと複雑な気がしないでもないが。
ガシャン! ガシャン! ガシャン!
「グルルルルル……」
おや? 匂いにつられて寄ってきた魔物がいるようだが、どこか悲しそうに鳴いている。いいにおいがするのに食べられない、そんな風に思ってるんだろうな。悪いが俺たちも食べ終わるんだ、残念でした!
「ふう……もっと食べたいけど……お腹いっぱい……久しぶりにお腹が膨れたわ……」
「ああ、美味かったな……まだ残ってるけど……」
そうなのだ……。まだでかいトカゲ……ドラゴン(?)の肉が残っている。俺たちの腹にもう入らないが捨てるのはもったいない、だからといって他の魔物に譲る気もない。保存食にしたいがどうすればいいんだろう?
「ゼクト。残ったお肉は凍らせて、切り離した皮に包むわよ」
「それで保存できるのか?」
「ええ。食べるときに解凍すればいいだけだから。皮に包めば長く冷凍できるわ」
「なるほど、にしても詳しいな」
「昔読んだ本にそう書いてあったの、読書も趣味だったからそういう知識もあるのよ」
「そうか……」
それも友達がいなかったおかげだと聞こえると複雑だ。まあそれは置いといて、肉を凍らせればいいらしいな。初級魔法のハンドフリーズでいいかな?
「わが怒りは冷気に変わり敵を……」
「ハンドフリーズ!」
シュー!
「……包む! 憎悪魔法・ブラストフリーズ!」
シュウウウウウウウウウウウ!
ミエダの詠唱が終わる前に俺のハンドフリーズの冷気が肉を包む。後からミエダの魔法が重なる。その結果、肉は見事に氷漬けだ。おや? ミエダが俺の顔をじっと見てるけど、どうしたんだろう?
「あの~、ゼクトく~ん、ちょっといいかな?」
「うん? どうした?」
「何で詠唱がないの? 今更だけど……」
……本当に今更だな。
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