第12話 少年の話

 私はゼクトのすぐそばまで寄り添い、回復魔法をかけ続けた。ゼクトは頭からの出血と、魔力の消耗による疲労という状態だった。意識を失って、危険な状態だった。だけど、私のために頑張ってくれたゼクトを、こんなところで死なせない! 絶対に!!


「その者の身に我が血を与える! 回復魔法・ブラッドテイク・ヒール!」


「その者の痛みを奪い癒しを与えよ! 回復魔法・ギブアンドテイク・ヒール!」


「わが命を削りその者を癒す! 強欲魔法・サクリファイス・ヒール!」


 超禁術シリーズの強欲魔法・サクリファイス・ヒールも使った。これは、詠唱の言葉通り、私の命を削って回復させる魔法だ。もちろん、その負担は私の削られた命そのものだ。


「うぐっ! ……くうぅ……」


 やっぱり……これは、きっついわね。だけど効果はあった。ゼクトの容体は安定し、出血も止まった。今は、スヤスヤ寝ているだけ。


「……ああ、良かった。もう大丈夫そうね。私も回復しなきゃ」


 私は、自分自身に回復魔法を使おうとしてあることに気付いた。


 ……………………………………………ふ、封印……封印魔法から、解放されてる!! 


「……………………は、はは、はははっ、……く、くふふ、う、うは、ははは、……ふひ、ひはははは、あはっは!! あはっ!! あはははは、あはっ!! ははははっ、はははっ、はははは、あはははっは!!」


 私は大声で笑った。人生で一番と言っていいほど大笑いした。


 当然でしょ!! 私は今!! 呪われた運命から解放されて!! 自由を獲得したんだから!! 封印されてから、諦めてしまった、自由を!! 今日!! ここで!!


「あーはっはっは!! 自由だ!! 私は自由なんだー!! あーはっはっは!! 」


 私は涙を流しながら、変な笑い方をしながら喜び続けた。膝枕してあげてる男の子に、心から感謝しながら。





※数時間経過


「うふふふふ。早く起きないかな~? うふふ!」


 私は今、気分が高揚している。ゼクトの寝顔を見ているだけで嬉しく感じる。私の膝の上で、気持ちよさそうにしてくれているのだから。当然だ、愛おしくてたまらない。私のために頑張って、私だけのために全てをかけてくれた男の子なんだ。もう、私のものなんだ。……いや、ちょっと違うかな? 私がゼクトのものかな~? うふふふふ!


「は!」


 あっ! ついにゼクトが起きた!


「ゼクト! 目が覚めたのね!」


「ミエダ!」


「良かった! 早くお礼が言いたかったの!」


「ちょっ、ミエダ!?」


 私は目を覚ましたゼクトをすぐさま抱きしめた。私の人生で初めて、父以外の男を抱きしめた。……実はすでに、笑い終わった後にゼクトを抱きしめてたから、これで2回目かな? 父が生きていたら、ゼクトはひとたまりなかったわね。


「封印を……壊せたんだな……」


「うん! そうよ!」


「俺たちで……俺たち二人で!」


「そうよ! ゼクトのおかげよ! 本当にありがとう! 私ひとりじゃダメだった! ずっと寂しかった! ずっとこのままだと思ってた! 死ぬしか助からないと思ってた! ゼクトが終わらせてくれた この私の生涯をかけても感謝しきれないわ! うわああ~ん!」


「ミエダ……」


 私はまた、嬉しくて泣き出してしまった。私を救ってくれた人が目を覚まして喜んでくれているからだ。私のために命を懸けてくれた人がいる、こんなに誇らしいことはない。心からそう思えるわ。だから感謝しきれないんだ。





 しばらくして私が泣き終わった後、やっと落ち着いた私はゼクトと話し合うことができた。だけど、私の興奮は収まっていない。まだ、胸が熱いのだ。ゼクトがいるから。


「ゼクト、私にできることがあれば何でも言って! 私の命ある限りあなたの望みを叶えるわ」


「じゃあまずは、俺の話を聞いてほしいな」


「ええ、もちろん。約束だし」


 どんな話になるか分からない。ゼクトは人間だ。だけど、私を助けたくなるような人だ。過去に何かあることだけは分かる。私のような混血でもないのに、魔族の魔力を持っていたしね。


「まず、人間と魔族の争いに決着がついた頃までさかのぼる。その当時の魔王『エルロウド』が勇者に倒されたんだ。正確には5人の勇者にな。」


「エルロウド? ……聞いたことないんだけど、ガルケイドはどうなったの?それと勇者って何?」


「俺はミエダに会うまで魔王の名はエルロウドしか知らない。魔族側の情報は滅多に入らないからガルケイドってやつがどうなったかは知らない。勇者というのは人類の歴史上において、魔王軍の幹部を倒したり戦争で大きな功績を上げたりすることで、各国に戦力・人格が認められた者のことを指すんだ。」


「『聖女』とは違う形で人間側の英雄ってわけね。5人がかりとはいえ、人間が魔王を倒すなんて……。時代が変わればそんなこともあるのね」


「さっき言った通り魔王が倒されたことで戦争が終わって、もうすでに16年の月日が経ってるんだ。その間は平和な世の中さ。勇者が馬鹿な子供を作るほどにな」


「人間と魔族の争いに決着か。平和な世の中になるなんて実現しないと思ってたわ。世界は変わったのね。ん? 勇者が馬鹿な子供を作るってどういうこと?」


「お前の目の前にいるのが馬鹿な勇者の子供だ」


「え? え? ええ!? ええええええええええええええええ!?」


 人間の英雄が勇者で、その勇者が魔王を倒して、倒してから16年の間に子供を作って、その子供が馬鹿で、私の目も前にいる? それって!?


「ゼクトが勇者の子供!? 勇者の息子なの!?」


「そうだ。そんな風に見えないかな?」


「いや、そんなことは……! そうか、分かった! 勇者の子供だから才能があって魔族の魔法や禁術を使えたのね!」


「違うな。むしろ逆だ。勇者の子供なのに魔族の魔法や禁術を使ってしまった、だからここにいるんだ」


「え? どういうこと? 勇者の子供なのにって……」


「俺は勇者の子供なのに才能が無かった。期待を裏切るほどに、それで誰も俺を見なくなった、どれだけ努力してもな」


「……ゼクト?」


「俺はそんな環境が嫌になって強さを求めたんだ。皆を見返せる強さを」


 どういうこと? 才能がない? あんな力を持ってるのに?


「努力だけじゃ足りないかった。それで俺は強くなる方法を模索した。そしてある本に行き着いたんだ。魔族の魔法もそこから覚えた。そこに魔王の魔法が紛れていたんだ」


「魔王の魔法!? そんなことが!?」


「俺はその魔法を大勢の前で見せてしまった、魔王を倒した親父にもな」


「…………どうなったの?」


「魔王のことを知る大人は親父を含めて怒りを向けていたよ。後は怖がらせちまったな。お袋だけは悲しそうにしてたがな。今思えば当然さ。全人類の最大の敵だった魔王の魔法を、勇者の子供が使うなんて、恥知らず、人間の誇りが無いって糾弾されるよ」


「そんな……」


「俺は絶望した。怒りと悲しみで頭がいっぱいになって、親父を殴り飛ばし、怒りの声も心配する声も聞かないで、すべてから逃げ出したんだ。行き着いた先がここだったんだ」


「!? ……そうだったの」


 ……ゼクトの話をまとめると、ゼクトの努力を認めない周りの馬鹿どもが無暗にプレッシャーを与えたせいで、ゼクトは追放されてしまったというのだ。なんて話よ……。

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