第10話 少年の禁術

キュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!


 ゼクトは、今確かに、強食魔法・ハイパードレインと言った……。それって、もしかして、魔界でも危険な魔法に分類されていたあの『超禁術シリーズ』の魔法なんじゃ!? もしそうだとしたら危険だわ!! 私じゃなくて使用者のゼクトの身が!! 


 私が本で知った超禁術シリーズの魔法は、使用者に何らかの負担をかけることで恐れられていた。最悪の場合死ぬこともあると言われている。私と違って、魔王だった父でさえも好き好んで習得さえしなかった。そんな危険な魔法を人間のゼクトが何で使えるの!?


 魔法を発動すると同時にゼクトの体が青白いオーラに包まれた。しかも、ゼクトの体からはっきり魔族の魔法が感じられる! さっきまでは少ししか感じなかったのに!


「止めなさい! ゼクト!」 「……なんで?」


「強食魔法は私も聞いたことがある! 術者はただでは済まないわ!」 「はは! そうだな! でも、それぐらいしないと封印は壊せないと思うぜ!」


「どうしてよ!? どうしてそこまでするのよ!? 会ったばかりの私のためにどうしてそこまでしようとするのよ!? もし、仮に助かっても私には何もないのよ!」


「それは俺も同じだ! 俺は少し前に全てを捨てちまった! 俺だって何もない! だからだ! 俺とお前は同じなんだよ!」


「!?」


「つーか、お前ばっかりしゃべりやがって! お前も俺のことを聞いてもらわないと俺の気が済まないんだよ!」


 話を聞いてもらうってどういうことだろう? 全てを捨てた? ゼクトも何もない? 一体、何を言っているんだろう? ……そういえば、ゼクトは何故ここに来たんだろう? 最初はたしか、大笑いしてたけど、今思えば悲しそうな笑い方をしてた気がするけど……? ああ! ゼクトが苦しそうにしてる! それと同時に封印魔法の魔法力場が揺らいでるけど、やっぱり私の知る超禁術シリーズの魔法なんだ!!


「苦しそうじゃない! もう止めなさい! 話なら聞いてあげるから!」


「ここまで来て、今更引き下がれるか! 封印も弱まってるだろ!」


「そうみたいだけどこのままじゃゼクトが!」


「ミエダの方はどうなんだ!? 封印が弱まって魔力が戻ったりしねーのか!?」


「そんなことって……あれ? この感じは? 私の? 魔力? 嘘!?」


 信じられないことが起こった……。私の体から少しだが魔力が戻った!! 奇跡が起こったんだ!! もしや、封印魔法の魔法力場がゼクトの魔法で揺らいだ影響なの? だとしたら、今私のするべきことは……!


「ミエダ! 魔力が戻ったんなら俺に回復魔法をかけられるか!?」


「やってみる! その者の痛みを奪い癒しを与えよ! 回復魔法・ギブアンドテイク・ヒール!!」


「おお! 助かるぜ!」


 私の回復魔法が発動した。回復魔法・ギブアンドテイク・ヒールを使用したのは、今のゼクトに必要な処置が必要だと思ってのことだ。ゼクトの顔色がよくなる様子が見える。やった! 私の魔法が通用する! ゼクトに使えるなら、この封印にもきっと……!


「回復魔法は成功した! 魔法が使えるぞミエダ! そっちから封印を破れないか!?」


「これから試してみるわ! こうなったら最後まで付き合うわ!ゼクトのためにも!」


「やっとその気になったか! 期待してるぜ!」


「その憤怒の思いを激情のままに振るい憎き者を踏みにじれ! 憎悪魔法・ファイヤーキック!」


ドオンッ!


 私は、今使える攻撃魔法を放った。私が使った魔法は、ゼクトと同じ、超禁術シリーズの魔法だ。普通に使えば危険だけど、私は超禁術シリーズを独自に研究していたため、少し術式を改良して負担を魔力の消費だけにすることができる。その分威力も軽減されるけど、強力なのは確かだ。実際、国一つ滅んでるしね。私の魔法を受けて、封印魔法が揺らぐ!


「私の魔法が効いたわ! もうこっちのものよ! 私の魔法! 見せてあげるわ!」


「おう! やっちまえー!」


「この嫉妬の思いを呪いに変え敵を打て! 羨望魔法・カーススティング!」


グッサァ!


 封印が揺らいで不安定になるたびに、私の魔力が戻ってくる! 魔力が全快に近づけば、本当に封印魔法そのものを壊せるかもしれない。だとすれば、考えもしなかった最大最高のチャンスが来る! 呪われた運命の解放どころか、自由の獲得が現実に!! ゼクトのおかげで捨てた夢が……! って、頭から血が!


「ゼクト! 出血してるじゃない!」


「何で!? いつの間に!? どこも痛くないのに!? 痛覚がマヒしてんのか!?」


「ゼクトは休んでて! 後は私一人でやる! まだ魔力が全部戻ってないけど、ここまで希望が見えたら全力でやる!」


「魔力が一部しか戻ってなくて何が全力だ! 強食魔法が途中なのに休めるか!」


「それなら私も急がないとね、一瞬だけでいいから私の魔法とタイミング合わせて強食魔法の出力を上げられる!?」


「やってやるさ! 任せろ!」


「いくわよ! 我に触れる愚かなる罪人に我は傲慢な裁きを与える! 尊大魔法・カイザーエンド!!」


「強食魔法・ハイパードレイン!! 出力最大!!」


「「いっけええええええええええええええええええええええ!!」」


キュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!


 もはや時間がない!! 私はゼクトと同じタイミングで、負担覚悟で尊大魔法・カイザーエンドを使う! この魔法は負担を軽減できないけど、私の最大の魔法だ。自分の周り全体に攻撃ができる。こうでもしない限り、封印を壊して、自由の獲得もゼクトを休ませることもできない。ここまですれば、封印魔法もひとたまりもないはず。


「「はああああああああああああああああああああああああ!!」」


キュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!


 魔法陣が点滅し、半透明に変化した魔法力場にひびが入り始めた。もうすぐよ! もう少しで封印が壊せる! ……まずい! ゼクトの目が虚ろになってきてる! このままだと命に係わる! もうすぐ壊れそうなのに、死なないで! 


「ゼクトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 私は大声で叫んだ。こんなに叫んだのは、父と母が死んだ時以来だ。私の叫びと同時に、赤と青の強烈な魔力光が広がった。

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