第9話 魔女の希望

キュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!


 ハイパードレインは対象となる魔法や強力な『力』を我が身に取り込み、何らかの形で処理するという魔法だ。何らかの形というのは、魔法や力によっては術者の強化か術者の弱体化だったり、状態異常や身体的変化だったりするそうだ。……最悪の場合は死に至ることもあるらしい。


 俺がこの魔法を禁術と呼ぶのは、親父に魔王の魔法と呼ばれた魔法と同じ系統だからだ。カリスにぶつけた魔法と皆から逃げた時の魔法と同じ。多分、呪いがかかるんだろうがそんなことはどうでもいい。今更だ。ミエダが助かるなら安い代償じゃないか。……俺が死んだら安いとは言えなくなるけどな。


 魔法を発動すると同時に俺の体が青白いオーラに包まれた。なんだか奇妙な感じになってきたな。もう封印魔法の力が流れてきたんだろうか?


「止めなさい! ゼクト!」


「なんで?」


「強食魔法は私も聞いたことがある! 術者はただでは済まないわ!」


「はは! そうだな! でも、それぐらいしないと封印は壊せないと思うぜ!」


「どうしてよ!? どうしてそこまでするのよ!? 会ったばかりの私のためにどうしてそこまでしようとするのよ!? もし、仮に助かっても私には何もないのよ!」


「それは俺も同じだ! 俺は少し前に全てを捨てちまった! 俺だって何もない! だからだ! 俺とお前は同じなんだよ!」


「!?」


「つーか、お前ばっかりしゃべりやがって! お前も俺のことを聞いてもらわないと俺の気が済まないんだよ!」


 ミエダは俺の話をまだ聞いていない。俺の過去をミエダにこそ聞いてもらいたい。それなら、助ける前に俺から話してもいいんだが、どうせなら助けた後で話した方がいい気がした。そんな気がしたのだ。格好がいいからな。


 うぐっ! ちっ、苦しくなってきたな。てことは俺の体の限界が近いってことか? やべーな。ん? ミエダの下の魔法陣が歪んできたぞ? 封印ももう少しで限界ってことか?


「苦しそうじゃない! もう止めなさい! 話なら聞いてあげるから!」


「ここまで来て、今更引き下がれるか! 封印も弱まってるだろ!」


「そうみたいだけどこのままじゃゼクトが!」


「ミエダの方はどうなんだ!? 封印が弱まって魔力が戻ったりしねーのか!?」


「そんなことって……あれ? この感じは? 私の? 魔力? 嘘!?」


 どうやらミエダの方は魔力が戻ったらしい。魔法の勉強をしていた頃に、封印が弱まると中にいる魔物の魔力が戻る前例があることは知ってたからもしやとは思ったんだ。昔のミエダは魔法使いだったみたいだから、魔力が戻れば心強いだろう。


「ミエダ! 魔力が戻ったんなら俺に回復魔法をかけられるか!?」


「やってみる! その者の痛みを奪い癒しを与えよ! 回復魔法・ギブアンドテイク・ヒール!!」


「おお! 助かるぜ!」


 ミエダの魔法が発動した。詠唱から始まって魔法陣が出現する基本的な回復魔法……あれ? 赤い光が俺に放たれたと思ったら一気に全回復したんじゃないか!? いやそれどころかすごく気分もよくなったぞ! 魔力も増えてる! ヨミやブレンよりも魔法に長けてやがる! やっぱり俺の想像以上の魔法使いだったんだな。


「回復魔法は成功した! 魔法が使えるぞミエダ! そっちから封印を破れないか!?」


「これから試してみるわ! こうなったら最後まで付き合うわ!ゼクトのためにも!」


「やっとその気になったか! 期待してるぜ!」


「その憤怒の思いを激情のままに振るい憎き者を踏みにじれ! 憎悪魔法・ファイヤーキック!」


ドオンッ!


 ミエダが炎に包まれた足で見えない『何か』に蹴りを放った。あ! 魔法陣が大きく歪みだした! 攻撃魔法の方が得意なのかもしれないな。


 ていうか憎悪魔法? 俺の魔法と同じ系統みたいだけどその話は後にしよう。やっとミエダが参戦してくれるんだし!


「私の魔法が効いたわ! もうこっちのものよ! 私の魔法! 見せてあげるわ!」


「おう! やっちまえー!」


「この嫉妬の思いを呪いに変え敵を打て! 羨望魔法・カーススティング!」


グッサァ!


 今度は指先に魔力が集中し、槍のように突き刺した! おお! 見えない『何か』が半透明になって揺らぎだしたぞ!


 ん? なんで俺の視界が赤く見えるんだ?……いや待てよ、赤ってことは……俺、今出血してる!?


「ゼクト! 出血してるじゃない!」


「何で!? いつの間に!? どこも痛くないのに!? 痛覚がマヒしてんのか!?」


「ゼクトは休んでて! 後は私一人でやる! まだ魔力が全部戻ってないけど、ここまで希望が見えたら全力でやる!」


「魔力が一部しか戻ってなくて何が全力だ! 強食魔法が途中なのに休めるか!」


「それなら私も急がないとね、一瞬だけでいいから私の魔法とタイミング合わせて強食魔法の出力を上げられる!?」


「やってやるさ! 任せろ!」


「いくわよ! 我に触れる愚かなる罪人に我は傲慢な裁きを与える! 尊大魔法・カイザーエンド!!」


「強食魔法・ハイパードレイン!! 出力最大!!」


「「いっけええええええええええええええええええええええ!!」」


キュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!


 ミエダの体全体から強烈な赤黒いオーラが発生した。それが一気に広がって封印魔法全体に攻撃する様子から、尊大魔法・カイザーエンドは全体攻撃系のようだ。ミエダの尊大魔法のタイミングに俺の強食魔法を出力最大にしたんだ。封印魔法もひとたまりもないはず。


「「はああああああああああああああああああああああああ!!」」


キュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!


 魔法陣が点滅し、半透明になってた『何か』にひびが入り始めた。もうすぐだ! もう少しで封印が壊せる! ……まずいな……意識が飛びそうだ……ミエダが何言ってるかさえ分からない……そんな顔するなよ……喜べよ……笑えよ……たとえ俺が死んでも……


「ゼクトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 俺が最後に見たのは……赤と青の強烈な光と……俺の名を大声で叫ぶミエダの悲痛な顔だった。

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