第4話 少年との出会い

 気が付くと真っ暗闇の中で、声が聞こえた。どういうこと? 今更、こんな声が聞こえてくるはずがない。夢? いつの間にか私は夢を見ていたの? そっか。私は夢と現実の区別も分からなくなっていたんだ。……ただでさえ全てを失っているのに。こんな夢を見るなんて。


(ははは……俺はもうおしまいだ……俺の人生は終わったんだ)


 そうだよ、こんな闇の中を進んで入ってくる人なんていない。こんな場所に入ったら、暗くて戻れるはずがない。こんな場所に来るのは、帰る場所がない自殺希望者かただの馬鹿くらいだろう。


(これから生きてどうすんだ?はは……ははは……あっはははははは!)


 私の人生には何の意味があったんだろう? 父と母に愛されて育って、幸せに暮らしていた。それが続くかと思ったら、私のことを思っての行動がそれを台無しにした。つまり、私のせいで父と母は死んだ。挙句の果てに最後は、私は魔女だからという理由でこんなところに封印されてしまった。笑い話じゃ済まされない。


(はははははは! 笑え! 笑えよ! はははははは!)


 笑い声が聞こえてくる。こんなに笑った声を聞くのはいつぶりだろうか。覚えてないわ。




(誰か俺を笑ってくれよ! ははははははははははははは!)




「何が笑えよ、何を笑うっていうのよ」



 夢とはいえ、笑い声がうるさく聞こえてくるから答えてみた。口を動かすなんて久しぶりな感じがする。



(は? えっ?)



 男の声が、それも私と同い年くらい、正確には私が封印された同い年くらいの少年の声が今も聞こえてくる。夢じゃなくて? つまり幻聴かな? 精神崩壊がやっと来たんだ。


「ふふふ、ついに私は狂てしまったのね。男の子の笑い声が聞こえてくるなんて馬鹿みたい」


(……ま、また聞こえてくる、確かな声で……げ、幻聴じゃない?)


「え?まだ聞こえる? あれ? 向こうにも私の声聞こえてるの?」


 あれ? 男の声がまた、聞こえてきたと思ったら向こうから『また聞こえてくる』とか『幻聴じゃない』とか聞こえちゃった。……これ、もしかして幻聴じゃない? 確かに聞こえたってことは、幻聴じゃなくて男の声が聞こえてくるということは……まっ、まさか!?


「そうだとしたら……ねっ、ねえ! もしかして私の声が聞こえ……」


(ギャアアアアアアアアアアアア! 幽霊だ―!!)


「は?」


 男の声が叫び声に変わった。私はもう確信した。大声でしっかり叫んでる、今聞こえているのは夢でも幻聴でもない! もちろん、私が幽霊というわけでもない!


「ゆっ、幽霊って私!? 違うわ! いや、ていうか誰かいる! 幻聴じゃない!」


(わああああああああああああ! ひいいいいいいいいいいいい!)


「助かった! ちょっと落ち着いて! 私は幽霊じゃないから!」


(なんてこった!! いくらなんでも最後は幽霊と遭遇かよおおおおお!!)


「私の話を聞け! 聞いてよ! ねえ!」


(だっ誰か助け……)


「ユ・ウ・レ・イ・じゃないっていってるでしょうがあああああああああ!!」


(ひいいいいい! ごめんなさい!)


「聞きなさい! 私は幽霊ではなく封印された可哀そうな女の子よ!」


(…………え?)


 はしたないことに、私は初対面の男を怒鳴ってしまった。いや、顔が分からないから、初対面じゃないよね? しかし、情けない男の子のようね。笑い続けてたと思ったら幽霊が怖くて喚き叫ぶなんて実にみっともない。……落ち着いて私の話を聞いてくれるかしら?


(封印された女の子? なんでまたこんな場所にそんなのがいるんだよ)


「やっと、落ち着いて聞いてくれるのね」


(ああ、まだ幽霊じゃないか少し疑ってるがな)


「もう! 幽霊じゃないから!」


(あ~分かった。とりあえず近くにいそうだから探してみるよ)


「そう、良かった」


 とりあえず、声の主は私を探してみることにしてくれたみたい。すると、かすかに光が見えてきた。これは魔法の光! 本当に探してくれるんだ!


「ああ……光が……光が見えるわ! うう、……何年ぶりの光……」


 ……どうしよう、光が見えただけで感動してしまった。涙が止まらない。でも、それは仕方ない。私はもう何年も封印されたんだから、こればかりはどうしようもない。しかし、まだ喜んではいられない。早く私を見つけてもらって、この呪われた運命から解き放ってもらわなければならない。泣き止んで声をかけ続けなければ……。


「ぐすっぐすっ……少年、私はここにいるわよ……早く来てよー」


 私は彼を少年と呼んで、早く来るように呼び続ける。焦りは禁物というが、焦らずにはいられない。少年が近づくにつれて光も強くなり周りの景色が分かるようになる。私の封印されている部屋の内部も。……何これ、何この部屋? 周りが明るくなったことで初めて部屋の中の違和感に気付いた。周りの壁に見たことのない文字が描かれてるし、床は整った造りになっている。ダンジョンの中なのは知ってたけど、これは……。


「こっちよー。早く来てよー」


(分かった、待ってろよー)


 一見すると、どこかの古代遺跡のような造りが見えるような……まあ、関係ないか。誰が何のために、いつ作ったのかもわからないダンジョンの中なんだもの。そんなこと考えるだけ無駄ね。希望が見えてもこの状況を打開しなければ意味が無い。今は声の少年に会うことが大事。希望を見出せたことに感謝しなきゃ。


「ああ! 光が強くなった! すぐそこにいるのね! ここよ! ここ!」


(……そうか、ここにいるのか)


 その通りよ、少年。私の見ている扉から少年の声が聞こえるから。その扉を早く開けてきてくれないかな。……どんな子がやってくるんだろう? 私って友達いなかったから、仲良くはできないだろうなあ……。あれ? なんかガチャガチャって聞こえる? 何で?


「え? どうしたの? 早く扉を開けてよ?」


(ぶっ壊すか)


「え?」


ドゥオッカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーン!!


 ええ!? 扉が爆発した!! 何で!? ……何かすごい威力で扉が破壊されたけど、これってもしかして……。


「……扉が壊れた。ふう、焦ったわ」


「すまねえ、怖かったか?」


「ええ、怖かったわ。見捨てられるんじゃないかって思ったから」


「……ああ~なるほどな~」


 何が「なるほど」何だろう。本当に怖かったのよ、ここで見捨てられて千載一遇のチャンスを逃すんじゃないかって、そんな想像をしてしまったのよ? 土煙が舞っているせいで、少年の顔が見えない。あっ、その土煙がやっと晴れた。少年の顔を見よう。


「ん? どうしたの?」


「…………」


 人間だ。でもなんか違和感がある。映像水晶で人間の姿は知ってるんだけど、なんか違和感を感じるのはなぜだろう? 少年は真っ白な髪をした短髪で、人間の世界の青空のような青い瞳をしている。顔つきはごく普通だ。私が違和感を感じるのは、白い髪の人間を初めて見たからかな? 少年は沈黙して私を見つめている。どうしたのかな?


「ねえ、何か言ってよ」


「!? はっ!」


 私が声をかけてみると、少年は一瞬驚いたみたいだ。どうやら、私の状態を観察してたみたい。無理もないわ。ガッチガチに封印されてるんだから。こんな姿をした女を見る機会はそうないだろうな……。


「やっと会えたな。んじゃ自己紹介しよう。俺の名はゼクト。お前の名前は?」


「私の名は『ミエダ・ボリャ』」


「ミエダ? ボリャ? 変わった名前だな?」


「……そう、やっぱりそう思うよね」


 ……なんだか寂しくなった。でも、そうよね。少年……ゼクトからしてみれば、滅んだ国の人の名前なんだから、聞いたことなんて無いに決まってる。おや? これは魔法の気配?


「ミエダ、単刀直入に聞こう。どうしてお前はこんな岩山の洞窟に封印されているんだ?」


「岩山? 洞窟? 何言ってるの、ダンジョンの間違いじゃなくて?」


「え!? ダンジョンだって!?」


 ゼクトが驚いている。岩山の洞窟と思ってたんだ。悪いこといちゃったかな? ゼクトの顔が絶望に染まっていく。非戦闘タイプなのかな? でもそれはないか、あの分厚い扉をぶっ壊した後なのに、疲れた様子はないんだし。実戦経験が乏しいだけか。


「マジか!? グオーラム山にダンジョンが隠されてたってのか!?」


「グオーラム山? そんな風に呼ばれてるんだ、今は」


「今は、だと? 一体どれぐらい前にお前は封印されたんだよ? 全部しゃべってくれないか」


「もちろんそのつもりよ。私が何者か全部聞いてもらうわ、ゼクト君。落ち着いて聞いてね」


「もちろんだ。言っとくけど俺に嘘は通じないからな」


「分かってるわ。嘘感知魔法ね。」


「!! 何でそれを!? 何者なんだよ!?」


「だから落ち着いて聞いてよって」


「ああ悪い。始めてくれ」


 やっぱり、嘘感知魔法を使ってたんだ。でも都合がいい。私がこれから話すことはすべて真実だって分かってくれるんだから。

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