第3話 魔女との出会い

「何だ……ここ……? ハンドライト……」


ピカァッ!


 気が付くと俺は真っ暗闇の中にいた。どうやらどこかの洞窟の奥まで入り込んでしまったようだ。魔法で明かりを灯しても前も後ろも分からない、つまりどこから引き返せば外に出れるか分からないのだ。こんなひどいことってあるかよ……ただでさえ全てを失ったのにこんな状況にさらされてしまうなんて。


「ははは……俺はもうおしまいだ……俺の人生は終わったんだ」


 そうだよ、このまま生きて出られることなんてできない。こんな場所からどうやって生きて脱出できるっていうんだ? ……いや、違うか。脱出できたとしてもその後どうする? 俺にはもう帰る場所など無いじゃないか。


「これから生きてどうすんだ? はは……ははは……あっはははははは!」


 俺の人生に意味があったのだろうか? 恵まれているかと思ったら、才能が無いから期待されず、相手にされず、誰にも見てもらえない、そんな人生なんて恵まれてないと俺は思ってしまう。挙句の果てに、最後は俺の手でその薄っぺらな関係さえも壊してしまったのだからどうしようもないじゃないか。もはや笑えてしまう。いっそ笑い話にしてしまいたいくらいだ。


「はははははは! 笑え! 笑えよ! はははははは!」


 気付けば大笑いしていた。こんなに笑ったのはいつぶりだろうか。覚えてないや。


「誰か俺を笑ってくれよ! ははははははははははははは!」




(何が笑えよ、何を笑うっていうのよ)




「は? えっ?」


 女の声が、それも俺と同い年くらいの少女の声が聞こえた気がした。ついに幻聴まで聞こえてしまうとは俺って精神崩壊早すぎじゃね?


(ふふふ、ついに私は狂てしまったのね。男の子の笑い声が聞こえてくるなんて馬鹿みたい)


「……ま、また聞こえてくる、確かな声で……げ、幻聴じゃない?」


(え?まだ聞こえる? あれ? 向こうにも私の声聞こえてるの?)


 あれえ? 女の声がまた、聞こえてきたと思ったら向こうから『狂ってしまった』とか『男の子』とか聞こえてしまった。……これ、もしかして幻聴じゃない? なんだか怖くなった、幻聴じゃなくて本当に女の声が聞こえてくるということは……まっ、まさか!?


(そうだとしたら……ねっ、ねえ! もしかして私の声が聞こえ……)


「ギャアアアアアアアアアアアア! 幽霊だ―!!」


(は?)


 俺は確信した! 今聞こえているのは、きっと幽霊の声だ! そうじゃなければこんな場所で女の声が聞こえてくるはずがないじゃないか! 多分、この洞窟で迷い込んで死んだ女の幽霊なんだ!


(ゆっ、幽霊って私!? 違うわ! いや、ていうか誰かいる! 幻聴じゃない!)


「わああああああああああああ! ひいいいいいいいいいいいい!」


(助かった! ちょっと落ち着いて! 私は幽霊じゃないから!)


「なんてこった!! いくらなんでも最後は幽霊と遭遇かよおおおおお!!」


(私の話を聞け! 聞いてよ! ねえ!)


「だっ誰か助け……」


(ユ・ウ・レ・イ・じゃないっていってるでしょうがあああああああああ!!)


「ひいいいいい! ごめんなさい!」


(聞きなさい! 私は幽霊ではなく封印された可哀そうな女の子よ!)


「…………え?」


 情けないことに、女の声に叱られるまで俺は取り乱し続けてしまった。心が壊れそうなほど絶望していたのに幽霊が怖くて喚き叫ぶとは実にみっともない。……それにしても、幽霊じゃなくて封印された女の子とはどういうことだ?


「封印された女の子? なんでまたこんな場所にそんなのがいるんだよ」


(やっと、落ち着いて聞いてくれるのね。)


「ああ、まだ幽霊じゃないか少し疑ってるがな」


(もう! 幽霊じゃないから!)


「あ~分かった。とりあえず近くにいそうだから探してみるよ」


(そう、良かった)


 とりあえず声の主を探してみることにした。魔法の明かりの光を強くして、より広範囲を照らすようにしてみた。すると、声の主からこんな声が。


(ああ……光が……光が見えるわ! うう、……何年ぶりの光……)


 ……どうやら光を見ただけで泣き出したんだろうが、こんなとこに何年も封印されたなんていったいどんな奴なんだ? 封印される理由があるとすれば危険だからというのがセオリーだよな? でも、声からして女の子の声だったし……他には罠にはまったとかかな? まあ、会ってどんな奴か会って話せば分かるか。


(ぐすっぐすっ……少年、私はここにいるわよ……早く来てよー)


 周りを明るくしたことでなんか違和感を感じた。洞窟の内部はどこかの古代遺跡のような造りが見えるような……うん、なんかの遺跡にしか見えないな。よく見ると、周りの壁に見たことのない文字が描かれてるし、床は整ってる気もする。グオーラム山にこんな古代遺跡があるなんて聞いたことが無いけど? ……もしや俺が第一発見者? 歴史的な大発見を見つけたことになるんじゃねえのか!?


(こっちよー。早く来てよー)


「分かった、待ってろよー」


 これは手段によっては全く別の方法で皆を見返すチャンスかもしれないな。命を懸けて(嘘)歴史的発見を見つけたと宣伝すればあるいは。……そう思ったけど、今は生きて脱出する方が大事だ。希望が見えてもこの状況を打開しなければ意味が無い。今は声の主の女に会いに行こう。希望を見出せたことには感謝しよう。


(ああ! 光が強くなった! すぐそこにいるのね! ここよ! ここ!)


「……そうか、ここにいるのか」


 その通りだ。俺は声の主がいると思われる部屋の扉の前にいる。でっかくて頑丈そうな扉だ、こんな立派な扉があるなんて。……本当にどんな奴が待っているんだ? 今更だけど、ヤバイ奴じゃありませんように。おや? 扉を開けようとしたが開かないな。鍵がいるのか? めんどくさいなあ。


(え? どうしたの? 早く扉を開けてよ?)


「ぶっ壊すか」


(え?)


ドゥオッカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーン!!


 俺は魔法を使って扉を破壊した。そこそこの威力を出したから、いい感じに扉が破壊された。うん。我ながら見事だ。部屋の中で土煙が舞う。……あれ、女は無事なのか?


「……扉が壊れた。ふう、焦ったわ」


「すまねえ、怖かったか?」


「ええ、怖かったわ。見捨てられるんじゃないかって思ったから」


「……ああ~なるほどな~」


 俺は二つの意味でなるほどと言った。一つ目は彼女の言ったことと、二つ目は彼女の状態からだ。なにしろ、体中を鎖で縛られた挙句に下半身が壁に埋まっているんだから。彼女の下には大きな魔法陣が見えるし。おっ、土煙が晴れて彼女の顔が見え…………


「ん? どうしたの?」


「…………」


 そこで俺が見たのは、人形のような整った顔立ちに、床に届くほど長く真っ黒な髪、そして宝石のような赤い瞳の少女がそこにいた。ものすごい美少女だ。彼女の顔色は悪そうだが、じっとその目で俺を見つめていた。なんだか不思議な気持ちだ。


「ねえ、何か言ってよ」


「!? はっ!」


 危なかった。もう少しで俺の心が奪われるところだった。彼女がどんな少女かまだ分かっていないのに。そもそも、相手は封印されてんだから。見惚れてどうする。


「やっと会えたな。んじゃ自己紹介しよう。俺の名はゼクト。お前の名前は?」


「私の名は『ミエダ・ボリャ』」


「ミエダ? ボリャ? 変わった名前だな?」


「……そう、やっぱりそう思うよね」


 なんだか寂しそうな顔になったな。彼女、ミエダは俺からしたら外国人なのかな? まあ、それはこれから質問して確認していくか。嘘の対策もできてるしな。


「ミエダ、単刀直入に聞こう。どうしてお前はこんな岩山の洞窟に封印されているんだ?」


「岩山? 洞窟? 何言ってるの、ダンジョンの間違いじゃなくて?」


「え!? ダンジョンだって!?」


 ダンジョンだと!? 魔物がわんさか住み着いているあのダンジョンのことか!? 古代遺跡だと思ったけどそれでも納得できるぞ、なんてこった! ダンジョン攻略なんてやったことないのに! 俺の中の希望が新たな絶望に変わった! どうしよう!?


「マジか!? グオーラム山にダンジョンが隠されてたってのか!?」


「グオーラム山? そんな風に呼ばれてるんだ、今は」


「今は、だと? 一体どれぐらい前にお前は封印されたんだよ? 全部しゃべってくれないか」


「もちろんそのつもりよ。私が何者か全部聞いてもらうわ、ゼクト君。落ち着いて聞いてね」


「もちろんだ。言っとくけど俺に嘘は通じないからな」


「分かってるわ。嘘感知魔法ね。」


「!! 何でそれを!? 何者なんだよ!?」


「だから落ち着いて聞いてよって」


「ああ悪い。始めてくれ」


 俺がミエダを見つける前に発動していた嘘感知魔法に気付くとは。この女、かなり上級の魔法使いか? とりあえずそういうことはミエダの話を聞いてからだな。

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