10.12.暴走

 昨日の凜愛姫りあらはどうしちゃったんだろう。

 義母かあさんが来なかったら流されて行く所まで行っちゃいそうだったんだけど、やっぱ、これじゃね……

 何が『そんな急激に大きくなったりはしないものさ』だよ。一ヶ月経っても全然変わらないじゃないか。

 とはいっても、眺めていても成長するわけでも無いし、着替えて凜愛姫りあらを迎えに行くことにした。


 「おはよう、凜愛姫りあら


 「おはよっ。今日もとおるの家に行くね。一緒にしよっか、勉強」


 「うん……」


 勉強は、ね。一人で勉強してたんじゃ成績下がりそうだし、勉強は一緒にしたいかな。


 「昨日の……続きも……」


 「それなんだけどさ……、やっぱり――」


 「おいてくよ」


 「ちょっと、待ってよ凜愛姫りあら


 学校では今まで通りなんだけど、帰り道で二人きりになると歩き辛いぐらいくっついてくる。


 「とおる


 「うん」


 人目が無くなるとキスしたがるし、おまけに舌まで入れてくる。それは……、嫌じゃないんだけど。するのかな、続き……

 気にしないって言われても僕は気になるし、本当にこんなに小さくなかったんだよ?


 駅から家まではそんなに遠くはないけど、何度も何度もキスをして、そしたらやっぱり気持ちはそういう方向に行くわけで……

 でも、やっぱり自信は無いし……、どうしたら……

 そうこうしている間にマンション前まで来てしまった。そして、エレベーターに乗った途端、凜愛姫りあらが抱きついてくる。


 「まって、凜愛姫りあら


 「私、もう我慢できないっ」


 「防犯カメラに写ってるから」


 「そっか……」


 落ち着こう、落ち着こうね、凜愛姫りあら

 でも、エレベーターなんてあっという間。玄関のドアを開けたらもう……、何の障壁も無くなってしまう。


 「とおる、早くぅ」


 「笑わない?」


 「まだそんな事言ってる」


 「がっかりするよ、きっと」


 「気にしないって言ったじゃない。それに、今更……、じゃない?」


 「そうだけど……」


 確かに昨日見られてる。見られてるけど……


 「だったら何でそんなに嫌がるのよ。やっぱり私より会長の方が……」


 「それはないっ! 絶対ないから!」


 「じゃあ、行動で示して。不安なの……、私」


 「なんでっ、僕は凜愛姫りあらの事が――」


 「産めないかもしれないのよ、私。普通にとおるの赤ちゃん産めないかもしれないの……」


 「それは、前にも言ったじゃない、赤ちゃんが欲しくて結婚するわけじゃないって」


 「今はね」


 「今はって」


 「今はそうなんだろうなって私も感じる。ちゃんと私のこと思ってくれてるんだなって。でも、5年後は? 10年後にも同じ気持ちだって言えるの?」


 「勿論だよ」


 今のこの気持はずっと続くに決まってる。


 「知ってる? とおる。恋愛感情は3年しか持続しないんだって。今のこの気持はホルモンの影響によるもので、そのホルモンが3年後には分泌されなくなるの。その時、同じことが言える? 子はかすがいって凄い言葉よね。恋愛感情が無くなったら子供ぐらいしか二人を繋ぎ止める物がなくなっちゃうのかな。私にはそれが……。だから、今だけでも、こうして私の事見てくれてる間だけでもとおるに愛されてたい。とおるの事好きな女の子がいっぱいいて、会長だって、水無みなさんだって、武神たけがみだって……、それにとどろきさんだって女の子に戻ったらとおるの赤ちゃん産めるんだもん。何でだろう……、何で私だけ……。私も産みたい。今すぐでもいい。ううん、今すぐ欲しい。とおるに抱かれたらそれが刺激になってちゃんと赤ちゃん産めるようになるかもしれない。だから……、お願い、とおる


 泣きながら必死に訴えてくる凜愛姫りあら。ここまで言われたら無理、なんて言ってられないよ。自信が無いからなんて……


 「そこまでよ、凜愛姫りあらとおるちゃん困ってるじゃない。それに、近所迷惑よ、内容が内容だけにね。とおるちゃんが住み辛くなっちゃうでしょ?」


 静かに現れたのは義母かあさんと、義母かあさんに抱かれた姫花ひめかだった。


 「お母さん、何で? いつから?」


 「何でって、朝から貴女の様子が変だったからよ。ごめんね、とおるちゃん。ふしだらな娘で」


 「冷やかさないでよ。それに、聞いてたんなら姫花ひめかを連れて帰ってよ。私はこれからとおると……」


 「出来るわけ無いでしょ、そんなこと。とおるちゃんもいいわよね、それで」


 「僕は――」


 「何で、何で邪魔するの、お母さん。試してみればって言ってたじゃない、あの時」


 「今すぐなんて言ってないわよ」


 「とー、うー」


 姫花ひめかが僕に向かって手を伸ばす。


 「はい、はい。とおるちゃんに抱っこしてもらおうか~。取り敢えず上がらせてもらってもいいかしら。通報されそううよね、こんな所で大声出してたら」


 「凜愛姫りあら


 姫花ひめかを受け取り、泣きじゃくる凜愛姫りあらの肩を抱いて部屋へと入る。


 「さてと、何でこんな性欲剥き出しになっちゃったのかな? うちの娘は」


 「剥き出しなんかじゃ無いもん……。とおるが何もしようとしないから……」


 「だから強引に迫ったのね」


 「そんなんじゃ……、ないもん。私はただ……、不安だったの。とおるの周りには女の子がいっぱいいて、皆んな赤ちゃん産むこと出来るんだもん……。私なんか……」


 「凜愛姫りあら、覚悟は出来てるって言ったわよね、あの時」


 「出来てるっ! 覚悟なら出来てるよ。だからとおると……」


 「とおるちゃんがそれを望んで無いのに?」


 「それは……、私に魅力がないから……。私には産めないから……」


 「もう、違うって言ったじゃん!」


 「へぇ、へぇ、へえええん」


 「ごめん、姫花ひめか。怖くないよ~」


 凜愛姫りあらが変なことばっか言ってるから大きな声出しちゃったよ。びっくりしたね~、姫花ひめか~、大丈夫だからね~。


 「凜愛姫りあらに魅力が無いんじゃなくて、自分に自信が無いだけなんだって」


 「確かに身長は女の子の時と変わってないように見えるけど、そんなに気にする程の事かしら?」


 義母かあさん、そうじゃないんだって。ああああ、もういいや。


 「身長のことじゃなくて、アレ……だよ」


 「あれ?」


 「うううう、小さくなっちゃったんだよ、中学の時よりも」


 「……そんなこと?」


 「僕にとっては重要な事なんだっ!」


 「ごめん、ごめん、でも、たけしさんの血を引いているんだから心配しなくても立派になるわよ。びっくりするぐらいね」


 びっくりするぐらいなんだ、あいつ……


 「そういう事みたいだから、凜愛姫りあらものんびり待ってあげたら? 今無理に迫ったらショックで不能になっちゃうかもしれないわよ?」


 「それは……、困るけど……」


 「別にしちゃダメって言ってるわけじゃ無いのよ。お母さんも貴女ぐらいの時には経験済みだったしね」


 そうなんだ……


 「でも、こういうのはお互いの気持が大事なんじゃないかな」


 「とおるの気持ち……」


 「そう。とおるちゃんがしたくてたまらないーってなるまでね。その時にはきっと立派になってるわよ」


 「わかった……。信じていいんだよね」


 「えっと……、立派になるかどうかは……」


 「じゃなくて、私と……」


 そっちじゃなくて、そっか……


 「うん。信じて、僕のこと」

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