10.11.小さな悩み

 「今日はとおるの家に寄ってくね」


 「そうだね」


 高天原たかまがはら祭も無事(?)終わり、体験授業も無事(?)終わり、待っているのは1学期の中間試験。昨日はうちに来たんだけど、姫花ひめかが居るからとおるが集中できなくて。

 それに、お母さんもちゃちゃ入れに来るから落ち着かないし。折角なんだから、誰にも邪魔されず二人きりになりたいよ。


 「ちょっと着替えてくるね」


 「うん。先に始めてるね」


 つい1ヶ月程前までスカートで通学してたし、家でも割と素足を出している事が多かった所為なのか、男子の制服は苦手なんだって。

 とおるが着替えてる間、私はリビングで先に勉強を始めることにした。引っ越したばかりの時は事件現場が再現されてたんだけど、今はキレイに片付けられてダイニングテーブルが置かれている。今日はここで一緒に勉強する事になっているんだ。


 「お待たせ、凜愛姫りあら


 ゆったりとした膝丈のスウェットに着替えたとおるが私の隣に座るんだけど、サイズ合ってないよね、それ。ずり落ちそうだよ?

 まあ、勉強するだけだからそんな事は気にしなければいいだけなんだけどね。


 思い返せば、昨年の今頃もこうして二人で勉強してたんだな。あれからもう一年経つのか……

 私が元に戻って、とおるが元に戻って、結婚だって約束したんだよ?

 なのにとおるったら。


 「ねえ、とおる……」


 こうやってキスはしてくれるんだけどな。触れる程度のね。でも、もうちょっと……、その……、あれよ、もう少し先に進んでもいいんじゃないの? 私達。折角元にもどったんだしさ。


 「私ってそんなに魅力ない?」


 「とっても可愛いよ♪ 天使にしか見えないもん」


 「そういうんじゃなくて、もっと生物的なっていうか……、本能的にっていうか……」


 水着姿の会長には興奮してたくせに(怒)

 思い出したら怒りが込み上げて来た。私にだって興奮してよねっ。

 |詰め寄ると座ったまま椅子ごと遠ざかるとおる

 もう、何で。

 もう一度詰め寄る。今度は立ち上がって逃げようとしてるし。


 「逃げないでっ」


 「うわあ」


 バランスを崩して床に倒れ込むとおる。私は咄嗟にとおるのスウェットを掴んだ……、はずだった。


 「見た?」


 「えーっと……」


 スウェットだけを掴むつもりだったんだよ。


 「ねえ、見たの?」


 「ごめん、とおる、こんな事するつもりじゃなかっ――」


 「見たんだ」


 慌てて隠してたけど、見ちゃったっていうか、見えちゃったっていうか……


 「ほんとにごめん。でもね、大穴牟おおなむち先生も『サイズを気にするのは男だけだぞ』って言ってたじゃない? 私も気にしないよ? だから――」


 「小学生だよね」


 「え?」


 「低学年レベルかな、これじゃ」


 確かに……、じゃなくて、何とかしなきゃ。そうだ、


 「ほら、顔立ちとバランス取れてていいんじゃないかなあ。顔は女の子のときのままなんだからバランス崩れちゃうじゃない?」


 「凜愛姫りあらもそうだったの?」


 「えっ、私は……」


 私のは……


 「うん。そうだよ。だから、大丈夫だから」


 「こんなんじゃなかったんだもん……」


 こんなんじゃって……


 「自信、失くしちゃったの?」


 「……」


 「た、試してみよっか、二人で」


 「でも――」


 私だって自信あるわけじゃないよ。でも、とおるともっと恋人っぽいことしたいの。


 「経験有るわけじゃないから上手く出来ないかもしれないけど……、とおるは私が上手く出来なかったからって嫌いになったりするの?」


 「そんなわけないよ」


 「でしょ? 私も同じ。だから、ね? とおる。 大好きだよっ♡」


 「凜愛姫りあら、僕も凜愛姫りあらのこと大好きだよ」


 「とおる


 「凜愛姫りあら


 相変わらず触れる程度の、か。こうなったらもう……

 そのままとおるを押し倒して……、唇を重ねてたら、なんか不思議な気分に……


 「いいよ、とおる


 とおるの手を取って私の胸へと……


    ピーンポーン


 興味、あるよね……


    ピーンポーン ピーンポーン


 とおるにだったら触らせてあげてもいい、結婚の約束だってしてるんだから。


    ピンポン ピンポン ピンポン ピーンポーン


 もう、誰よ、もう少しなのにぃ(怒)


 「とおるちゃーん、居ないのー? 凜愛姫りあらが帰ってこなくて。急に出かけなくちゃいけなくなっちゃったから姫花ひめかを預かって欲しいんだけど」


 お母さん! 何でっ、何でなのよっ。とおるといい感じになるといつも邪魔しに来るんだから(怒)


 「凜愛姫りあら義母かあさんが」


 「わかったわよ、続きは今度ね。でも、あと一回だけ」


 うん……、さっきよりは上手く出来たかな。


 「ねえ、とおるちゃーん、出てきてよー、居るんでしょ」


 玄関へと向かうとおる


 「待って、そのままじゃ……」


 「ううぉー、そうだった」


 また見えちゃったよ。

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