10.10.体験授業(2)

 とうとうこんな姿でやってきてしまった体験授業。

 流石に全員を纏めてというわけにもいかないんだろうな、だいたい四人一組で色んな学科に割り振られてるみたいだった。これも成績順だから僕は凜愛姫りあら武神たけがみさんと水無みなと一緒。体験先は理工学部情報科学科ということだった。


 「はじめまして。今日一日貴女たちをサポートするM2の 理香りかよ」


 リリカ……じゃないのか、名字が理一文字で名前にも理が付くんだ。しかも “リカ” ってね。


 「同じくM1の曰理わたり 侑里香ゆりかだよ~。今日は宜しくね~」


 こっちもリカ……じゃなくてユリカか。音的には “リカ” だけど。


 「はじめまして、紅葉坂もみじざか 凜愛姫りあらです。こちらこそ宜しくお願いします」


 凜愛姫りあらは “リ” だけだね。


 「た、武神たけがみ 刃瑠香はるか……、です」


 武神たけがみさんは “カ” か。スカートを気にしながら何だかたどたどしいなあ。いつも凛々しいのにスカート履くとこんなんなっちゃうんだ。可愛いね。


 「火神かがみ 水無みなです。どうぞ宜しくお願いいたします」


 水無みなはいつも通りだね。名字に“カ”が付いてるな。僕は……、あれ、僕だけどっちもついてないっ!


 「(とおる)」


 ん? ああ、リリカさんの所為で “リ” と “カ” が気になっちゃってたよ。


 「僕は――」


 「僕?」


 「えっ?」


 眉間にシワを寄せて僕を睨んでくるリリカさん。


 「ほらほら、ボクっ娘ってやつですよ~、先輩。顔、怖いですよ? 怯えられてますよ?」


 「済まない、男は苦手なんだ。さっきから男の気配がしてたので、つい。しかし……」


 全身を舐め回すように見てくるリリカさん。僕の事疑ってる?


 「姫神ひめがみ とおるちゃんだよね~。名簿は鳳凰院ほうおういんってなってたんだけど」


 「色々あって名字が変わったので」


 「やっぱそうなんだ~。去年のミス高天原たかまがはらよね」


 「ええ、まあ」


 今年もだけど。ついでに、ミスターもだけど。


 「そんな娘が男なわけないじゃないですか」


 「確かにそうね。そもそも女子大に男を送り込んで来るはずがないか」


 「そうそう。私も高天原たかまがはら高卒業なんだ。仲良くしようね」


 突然抱きついて来る侑里香ゆりかさん。


 「ちょっと!」


 「ほら、おっぱいだって……」


 胸へと伸びてきた手が一瞬固まる。


 「どうした?」


 「やわらか~い。先輩も触って確かめてみます?」


 「そこまでする必要は無い。男でないならそれでいいのだ」


 と、そのまま今日の体験授業の段取りを説明していくリリカさん。その間も侑里香ゆりかさんは僕に抱きついたまま胸のあたりをもそもそと弄ってる。


 「(へ〜、君、面白いね)」


 耳元でそんなことを囁かれた。


 「あの……、とおるにくっつき過ぎです(怒)」


 凜愛姫りあらが助け舟を出してくれた……わけじゃなくて怒ってるんだね。


 「なになに? 凜愛姫りあらちゃんだっけ? 君も触ってほしいのかな?」


 「そこ、静にしないか。侑里香ゆりかもいい加減その娘を開放して準備に取り掛かったらどうだ?」


 「は〜い」


 侑里香ゆりかさんは僕を解放して部屋を出ていく。すると、すかさず凜愛姫りあらが腕を組んでくる。


 「(もう、何で抵抗しないのよっ)」


 「(変に抵抗したらバレちゃうかと思ってさ)」


 「(触らせたら偽物だって判っちゃうじゃない)」


 「(そうだけど……)」


 多分そこばバレてる。パッドが変な動きしてたもん。今もちょっとずれちゃってるしさ。


 「(兎に角、これ以上の接触は避けること、いいわね)」


 「(ありがとう、凜愛姫りあら)」


 ずっとこうしてるわけにはいかないから侑里香ゆりかさんには近づかないようにしないとな。念の為リリカさんにも。


 「(では、こちら側は私がお守りしましょうか)」


 空いている腕に水無みなが絡みついてきた。


 「(とおるは私が守るから水無みなさんはお気遣いなくっ!)」


 「(あら、でももしものことがあるといけないわ。しっかり両側をガードしておかなくちゃ。何なら武神たけがみさんに背後を任せましょうか?)」


 「(必要ないからっ)」


 武神たけがみさんはスカートを押さえて顔を真っ赤にしている。これじゃ何かあっても頼れそうに無いかも。

 凜愛姫りあら水無みなのやり取りは徐々にエスカレートしていき、何よりも全く話を聞いていないその態度がリリカさんを刺激してしまっていた。


 「聞く気が無いなら説明は以上だ。日程表に従って好きに体験していくがいい」


 と不機嫌そうに出ていってしまった。


 「これで一人クリアね」


 「そのようですわね」


 結果的にそうかもしれないけど、いいのかな、それで……


    ◇◇◇


 結局、リリカさんは何処かに行ってしまい、代わりに侑里香ゆりかさんが僕達の対応に追われていたので無益な接触が行われることもなく、無事に体験授業は終了した。いや、するかに思われたんだけど……


 「じゃあ、皆んな気をつけて帰ってね〜。あと、とおるちゃんには大事なお話しがあるから少し残ってもらえるかな?」


 「僕……だけ?」


 「そ。心配しなくてもほんの1、2分だから。ほら、他の皆んなは帰った帰った、凜愛姫りあらちゃんもね」


 と凜愛姫りあら達を追い出した侑里香ゆりかさん。


 「個人的に興味があるんだけど〜、今度お姉さんとデートしない?」


 「デートって……」


 「大丈夫。女の子の格好でもいいからさ。はい、これ私の連絡先」


 やっぱバレてたね……

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