05.08.後悔先に立たず

 「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、マジでヤバイ」


 結局、姫ちゃんのハイレグビキニは見られなかった……

 何でこんなタイミングなんだよ。

 いや、過去の事はもうどうにもならない。問題は明日だ。今日で夏休みが終わっちまう。どうする……

 俺はどうすればいいんだー!!


    ◇◇◇


 「はぁ、ダメだ」


 結局、朝になっても碌な対策は思い浮かばなかった。それどころか、制服だって用意できてねえ。どうすんだよ、マジで。入んのか、これ……


 「おはよう、得利稼えりか……。体、鍛えてた?」


 「あっ、うん、ちょっとね」


 「何か、声も変わったね。まだ風邪治らないの?」


 「そ、そうなんだ。喉の調子が悪くてねー」


 「ふーん、マスク外したら髭ボウボウだったりして?」


 「や、嫌だなー、姫ちゃん。そんな訳無いでしょー」


 鋭いな、姫ちゃん。結局今まで通りの格好で登校しちまったけど、バレたら只の変態だな、俺。でも仕方なかったんだよ。用意してなかったんだから。


 俺の名は大金おおがね 裕人ゆうと。そう、得利稼えりか改め裕人ゆうとだ。

 要は元の男に戻っただけなんだが、さんざん女子の体触りまくってた手前、ごめーん、実は男だったんだー、なんて口が裂けても言えねえ。バレたら袋叩き間違いねえだろうからな。


 「どしたの、ぼーっとして。次、体育だよ?」


 「えーっとー、そうだっけー。体調悪いから今日は見学にしよう、かな」


 「そっかー、じゃあ、先行ってるね」


 「う、うん」


 なんかほっとしてねえか、姫ちゃん……

 よりによって1限から体育だよ。この体で女子更衣室に入れるわけねえだろうが。


 「あら、得利稼えりかさん、貴女が女子更衣室を拒むなんて天変地異の前触れなのかしら?」


 「やだなあ、水無みなちゃん……、得利稼えりかだって体調悪い日があるよ?」


 「そうだったかしら。いずれにしても、傷が広がる前に対策した方がいいかしら。どう立ち回るのか、楽しみですわ」


 「あ、うん。そうだよねー」


 気付いてるのか……

 確かに水無みなちゃんの言う通り、素直に白状した方がいいんだろうなー。女装してるってのがバレたら洒落になんねえもんな……

 正清まさきよ みさお……、ああはなりたくねえもんな。

 嫌われちまうんだろうな、姫ちゃんにも、クラスの女子にも。

 あー、何で治っちまったんだよ……

 何であんなことしちまったんだよ、得利稼えりか……


    ◇◇◇


 「すまん、姫ちゃん。実は俺……」


 「俺……ね。まあそんな気がしてたけどさ」


 「許してくれるのか?」


 「そうは言ってないけど?」


 「だよな……」


 這いつくばって床に額を擦り付ける。


 「この通り。反省してる。もう二度としない。だから、許してふぎゅ」


 「上を見るな、変態」


 姫ちゃんに頭を踏みつけられた。ちっ、パンツでも拝んでやろうと思ったんだが……、まあ、これはこれでありか。


 「本当に反省してるの?」


 「ひてぃるしてるはからうるしへだからゆるして


 姫ちゃんの足が遠のいていく。いや、だめ、もうちょっと……


 「ふぎゅぅぅぅ」


 「だから上見るなって」


 こんなことがあって、姫ちゃんには何とか許してもらえた。

 水無みなちゃんは元々気づいてたみたいだし、そもそも触らせてももらえてねえから特に怒ってるわけでもないみたいだ。

 他の女子からは……、まあ軽蔑されてるけど気にしたら負けだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る