05.07.永遠の愛

 何も決められないまま8月8日、つまりは凜愛姫りあらの誕生日がやってきてしまった。

 せめてご馳走ぐらいは気合い入れて作ろうかな。


 「ねえ、とおる。映画に行かない?」


 「えっ、うん、じゃあちょっと待っててね」


 外はお出かけ日和、なんかじゃなくて、相変わらずの猛暑日なんだけど、凜愛姫りあらの誕生日だしね。


 「みなとみらいね」


 ってことは料理する時間はなくなっちゃうってことか。あれ持っていこうかな。何も無いよりはいいよね。


   ◇◇◇


 「何観よっか」


 「観たいのが有ったんじゃないの?」


 「とおると出かけたかっただけだもん」


 「みなとみらいに?」


 「そう。みなとみらいの思い出を私が上書きするの」


 思い出って……、みなとみらいに来たのは武神たけがみさんとだけなんだけど……


 「ついでに中華街と元町もねっ」


 「えーっと、それは――」


 「で、何観る?」


 「じゃあ、この恐竜出てくるのは?」


 話しちゃったんだね、武神たけがみさん。まあいいけどさ。


 「へー、こういうのが好きなんだ」


 「まあ、男の子ですから?」


 「男の娘ね」


 「ん? 違う字じゃないよね、今の。ねえ」


 「どうかな」


 映画の後は中華街で饅頭を買い、食べながら元町へと向かう。武神たけがみさん、何処まで話したんだろう。なんか、同じコースなんだけど。

 結局、そのまま例のジュエリーショップに。


 「いらっしゃいま……」


 そんな、また来たの? って顔しなくても。まだ3回めだよ?


 「「どうも」」


 「今日は二人一緒みたいで安心しましたわ」


 それって一緒じゃない時に来たって言ってるようなもので……、まあ、どうせ武神たけがみさんが話しちゃってるんだろうからいいけどさ。


 「それで、今日は何をお探しですか? 婚約指輪?」


 「「婚約っ」」


 「冗談ですよ」


 「もう、ちょっと覗いただけですから」


 「何か欲しい物あるの?」


 「別に? 本当に覗いただけだから。行こっか」


 欲しい物があるならちょうど良かったんだけどな。


 「ねえ、この先に港の見える丘公園があるんだよね」


 「うん」


 「行ってみようか」


 「凜愛姫りあらが行きたいなら」


 丘って付くだけあって、小高い丘の上にある公園で、展望台からはこれまた名前の通り横浜港が見える。ベイブリッジもね。

 凜愛姫りあらは花火の上がる中渡してくれたんだっけ。まだ夜景って時間じゃないけど、待ってたら帰りが遅くなっちゃうし、場所的にはありかな。


 「あのね、凜愛姫りあら


 「なに?」


 中身のことも武神たけがみさんさんから聞いちゃってのかなあ。流石にそこまでは話さないでいてくれてるかなあ。


 「別に真似したわけじゃなくて、本当に偶々なんだけどさ……」


 「ん?」


 「はい、これ」


 どう頑張ったってこれしか無いもん。凜愛姫りあらにあげたいもん。


 「ねえ、知ってた? これって……、永遠に変わらない愛を約束するって意味も込められてるんだよ?」


 「ふえっ」


 「つまりは、そういう事?」


 「そういう……」


 ちょ、ちょっと、心臓くん、落ち着こうよ。苦しいってば。凜愛姫りあらも知ってた。知ってて僕にこれを……


 「凜愛姫りあら……も?」


 「んん?」


 「だって、そういう事だよね……これも」


 「えーっと……それは……」


 顔が熱い。凜愛姫りあらの顔も真っ赤だ。そのまま暫く見つめ合うことしか出来なかったよ。


 「「帰ろっか」」


 帰りの電車もドキドキしっぱなしだった。

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