04.16.曖昧な約束

 「昼休みも水無みなさんと何処かに行ってたみたいだし……、ハニートラップ……、かな」


 「ハニーポットだよ、伊織いおりも誘おうと思ったのに、居なかったんじゃないか。そんなことより、今忙しいからさ、続きは家に帰ってからでいい?」


 「そんな事って……」


 「行こう、水無みな。折角見つけたのに見失っちゃうよ」


 「だったら伊織いおりさんもご一緒に」


 「私は……」


 とおるは私の言葉を待たずに行ってしまった。


 セキュリティシステムに誰かが侵入しようとしたってのは知っている。私だって風紀委員なんだから、警告メールは届いてる。でも、何で私には相談してくれないの? 私だって風紀委員なんだよ?


 「伊織いおりさん?」


 「ごめんね、水無みなさん、邪魔しちゃって。私、帰るから」


 私じゃ役に立たないかもしれないけど……、私だってとおると一緒に……

 でも、とおるはそんな風に思ってくれてないんだ……


    ◇◇◇


 「ただい……ま、凜愛姫りあら


 「……」


 お風呂から出て、リビングに向かおうとしていたらとおるが帰ってきた。


 「さっきの続きなんだけど、セキュリティシステムに侵入しようとした奴がいてさ……」


 知ってるよ、そんな事。とおるは私が風紀委員だって事も忘れちゃったのかな。


 「聞きたくない」


 「えっ、でも何か誤解してるんじゃ……、怒ってるよね、凜愛姫りあら


 「別に。もうどうでもいいから」


 とおるは私に興味無いみたいだから、どうでもいい。やっぱり女の子がいいんだよね、とおる


 「良くないっ。ちゃんと説明させてよ」


 良くない……の? 少しは私の事気にしてくれてるの?


 「会長にはメンテナンスルームの鍵を開ける為に来てもらったんだけど、強引に中に入ってきちゃってさ。でも、別に何も無かったからね。だから昼休みは水無みなにも来てもらったし。本当は凜愛姫りあらにも来てほしかったんだよ? でも誘おうと思ったのに何処かに行っちゃったから。水無みなと授業サボったのは実行犯を特定するためで、一人で行こうと思ったんだけど危険だからって水無みなが……、ねえ、凜愛姫りあら、聞いてる?」


 「明後日……」


 「……明後日?」


 「私とデートしよ?」


 私の事気にしてくれてるなら、それぐらいいいよね。私だってとおると二人きりになりたいもん。


 「デート?」


 「嫌?」


 「嫌じゃないけど……、うん、行こう、凜愛姫りあらとデートするっ」


 「私、セスジキノボリカンガルーが見てみたいの」


 「木登りカンガルー? カンガルーって木登りするの?」


 「興味ある?」


 「微妙だけど、凜愛姫りあらが見たいんならいいよっ」


 別に私もそんな生き物に興味があるわけじゃないけど、少し遠くに行きたい。誰にも邪魔されずにとおると二人で。

 でも、ただデートするだけじゃ私のモヤモヤは収まりそうにない。とおるに刻み込まなきゃ、私が居るんだって。


 「じゃあ、現地集合ね。私、寄る所があるから先に行ってるから、入園ゲートに10時ね」


 「だったら僕も一緒――」


 「ううん、一人で行きたいの。昨日も、今日も、私の事なんて見えてなかったみたいだから平気でしょ、そんなの。だから、付いてこないでね」


 「凜愛姫りあら……」


 一緒に行くだけだったら中華街に行ったじゃない。なのにとおるは……

 私だけドキドキして不公平だよ、そんなの。だから今度はとおるにもドキドキしてもらいたい。


 「約束よ。集合場所以外でとおるを見かけたら帰るから、私」


 「……わかったよ」


 こんな誘い方じゃ来てくれないかも知れないけど……、その時は諦めよ。


 「じゃあ、僕、お弁当作っていくねっ。一緒に食べよっ」


 「えっ、うん、楽しみにしてるね」


 約束だからね。待ってるから、私。


    ◇◇◇


 翌、土曜日の夕方、セキュリティシステムからの警告メールが届いた。ただ、前回のとは少し違うような気がする。とおるも慌てて出かけていったし、メールの文面からも致命的って感じが伝わってくる。

 とおるが言ってたハニーポットってのじゃなくて、本物の方に侵入されちゃったのかな。

 でも、私には何も言ってくれないんだ。

 電話の相手は会長なのかな……

 またあの部屋で会長と二人……


 とおるから驚異に対処したって旨のメールが出されたのはすっかり日が暮れてから。帰ってきたのはそれから暫く経ってからで、お風呂に入ってそのまま寝てしまった。

 また会長とご飯食べてきたのかな……


 明日、来てくれるんだよね、とおる……

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