04.15.追跡

 モニターには校内の見取り図と、そこにプロットする形でウザ男と水野みずの、それに水無みなと僕の居る場所が表示されている。勿論、ウザ男と水野みずのの現在位置は本物だけど、水無みなと僕のは出鱈目、というか、この画面で好きな所に変えられるようにしてある。


 「とおるさん、いったい何を?」


 折角なので、水無みなにも来てもらってるんだけど、今僕たちが居るのはセキュリティー・システムのメンテナンスルーム。


 「犯人の確認、といったところなのかしら?」


 当然ながら、この部屋に入るために会長にも来てもらっている。正直に言えば、水無みなに来てもらう必要は無かったんだけど、また会長と二人で居るところを見られたらね……

 まだ怒ってるみたいで、今朝も口効いてもらえなかったし、本当は水無みなじゃなくて凜愛姫りあらを誘おうと思ってたのに昼休みになった途端にどこかに行っちゃったんだよね。


 「ここからじゃないと偽情報も流せないから」


 スマホから出来るようにすることも難しくないんだけど、恒久的に使うわけでも無いし、昨日は背後に会長が居たから集中できなくてそこまで作り込めなかった。それに、変な穴を開けるのも嫌だしね。GUIでの操作もできないからコンソールからコマンドを入力して水無みなと僕の位置を変えていく。

 偽の僕らが向かう先は、2体裏。先に水無みなを移動させ、水野みずのが2体裏に着いてから僕を移動させる予定だ。


 「とおるさん、この人って……」


 監視カメラの映像に映し出されたのは慌てて廊下を走っていく水野みずのの姿。大きなお腹を揺らして必死の形相で走っている。といっても、そんなに早くは無いんだけど。

 水無みなが向かっているのは2体裏だもんね。縁のない水野みずのだって、“告るならここ” って話ぐらいは聞いたことがあるんじゃないかな。水無みなが告りに行くのか? 誰かが水無みなを呼び出したのか? って焦ってるに違いない。


 「最低ね、この男」


 水無みなが言ってるのは先約が居たら遠慮するってのなんだけど、水野みずのは何の躊躇もなく2体裏へと踏み込んだ。


 「暗黙のルールも知らないのかしら」


 「うわー、どうする気だったんだろ、本当に水無みなが居たら……」


 そういう僕らもこうして覗き見してるんだけどね。


 「愛されているようね、水無みなさん」


 「やめてください、神楽かぐらさん」


 「へ~、水無みなって会長の事名前で呼ぶんだ」


 「ええ、家同士の付き合いもあるので、神楽かぐらさんとは長い付き合いになるんです」


 「姫神ひめがみさんも神楽かぐらと呼んでくれて構わないのだけれど」


 「え……」


 僕は “会長” でいいんだけど……。名前で呼んだりしたら凜愛姫りあらが怒りそうだし……

 むぅぅぅ、そもそも何で怒ってるんだよ、凜愛姫りあら。別に凜愛姫りあらに遠慮する必要なんて無いじゃんっ!


 「か……かぐ……」


 「こっちも動き始めたみたいね」


 「とおるさんを追いかけてるってことですのよね?」


 「……そう、だね」


 モニターに写ってるのはウザ男の姿。水野みずのみたいに必死に走ってる。

 水野みずのは何が起きているのか理解できてないのか、2体裏でキョロキョロと辺りを見回している。スマホを見れば水無みなはそこに居ることになってるんだから。興味が無いから僕の情報は見てないのかな? 今僕もそこに居ることになってるんだけど。

 ちなみに、校内の監視カメラはしっかりと音声も拾ってる。誰も居ないからってこんな所で告白しても全部記録されてるってことなんだよね。


 『水野みずの……』


 『十六夜 いざよい先輩……、何でここに』


 『マイ・プリンセスが告白でもされたらと来てみたんだが……、出鱈目の情報を流していたと……』


 『そんなっ、昨日は確かに届いていたはずです、姫神ひめがみの場所が』


 昨日はね。お陰で鬱陶しかったけど気付いてなかったの? 今日は僕も水無みなも教室から一歩も出てなかったってことにさ。流石にそんなわけないじゃん。


 「この二人が犯人なんでしょうか」


 「会話から察するにウザ男は水野みずのから僕の情報貰ってたみたいだけど……」


 映画とかだとおデブだけど超優秀なエンジニアとか居るけど、水無みなを追っかけてるデブはどうなんだろうね。

 何れにしても、この映像突きつけて警告すればこの件は解決って事でいいかな。実際にはシステムに侵入されたわけでもないしさ。


 『放課後、いつもの所で待っているからね。覚悟して来ることだ』


 『違うんです、これは……僕じゃなくてあいつが』


 『あいつ? 誰の事を言ってるんだい?』


 『姫神ひめがみに一泡吹かせたくないかって。セキュリティシステムに侵入して位置情報を取れるようにしてくれるって言うから』


 穏便に済ませてあげようと思ったのに。僕に一泡? 誰なんだ? 名前を言え。


 『彼女に潮を吹かせていいのはこの僕だけだ』


 潮じゃなくて泡だよ……、ほんと気持ち悪いな、こいつ。


 「姫神ひめがみさんに潮を吹かせるのが誰かは置いておくとして、実行犯が別に居るようね」


 「会長まで……」


 「潮の事はともかく、もう少し彼らを追ってみたほうがいいんじゃないかしら。実行犯にコンタクトする可能性もあると思うの」


 「み、水無みな……」


 結局、この後も名前を言うことはなく、昼休みの間は誰とも接触する様子もなかった。だから、放課後、水野みずのを尾行することにした。校内で接触してくれればセキュリティシステムで捉えられるんだけど、外だと自分で追跡するしか方法が無いわけだ。

 水野みずのを拷問するという選択肢も無いことはないけど、出来れば接触したくない。


    ◇◇◇


 「ドキドキしますわね、とおるさん」


 「そうかなぁ」


 水無みなは真面目だからこんな事するのは初めてだと思うけど、僕はそうでもないから。

 僕と水無みなは5限の数学をサボり、昇降口で奴が来るのを待っていた。というのも、特選クラスは奴のクラスよりも授業時間が長い。全部受けてたら奴に帰られてしまう。


 「来ましたわ」


 水野みずのの姿を確認し、尾行する。ウザ男に呼び出されてたから、その前に実行犯に接触するんじゃないかと思って。そして、読み通り、水野みずのは近くの公園で一人の男子生徒に接触していた。ここからだと顔が見えないんだけど。


 「どうなってるんだよ、システムに侵入出来たんじゃなかったのか?」


 「ハニーポット……かな。中々やるねぇ、 姫神ひめがみさんも」


 「感心してる場合じゃないよ。この後十六夜 いざよい先輩に呼び出されてるんだよ、何とか出来るんだろうねっ」


 「何とかって言われてもー、時間が足りないかな」


 「そんな……、昼休みにメールしただろっ、何もしてくれなかったのか?」


 「校内でやったら簡単に俺までたどり着かれちゃうし、何より道具が足りないかな。って事で、今日のところは諦めるんだね」


 実行犯と思われる男子生徒は水野みずのを残して立ち去った。

 水野みずのはこの後リンチされるんだろうけど、そんなの見てもどうしようもないし、助ける義理も無いからそのまま男子生徒を追いかける。それには水無みなも同意してくれたし、男子生徒の正体を確かめないとね。


 「行こうか、水無みな


 男子生徒を目で追いながら水無みなに声を掛けたんだけど、返事がない。

 振り返ると、そこには鬼が立っていた。


 「今日は水無みなさんとなんだ。授業もサボって」


 「伊織いおり、何でここに?」


 「何処で何をしようと私の勝手じゃない?」


 「そうだけど……」


 じゃあ、僕が何処で何をしようと僕の勝手だよね?

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