04.14.ハニーポット

 真夜中、突然の警告メール。

 発信元は、校内のセキュリティシステム。正確にはセキュリティシステムを監視しているシステムからなんだけど、どうやらセキュリティシステムが外部から攻撃を受けているようだ。セキュリティシステムは何らかの問題を検知すると管理者である風紀委員と生徒会役員に発生した事象を通知することになっている。このため、最低限ではあるものの外部との接続を持っているんだけど、そこから侵入を試みてるみたい。

 ……なんだけど、実はこれ、僕が用意したハニーポット。

 セキュリティシステムといっても、生徒の問題行動を監視するためのシステムだから、夜間に稼働している必要性は殆ど無い。通知されても駆けつけるわけじゃ無いからね。夜間は記録だけ。学校は施錠されるし、部外者の物理的な侵入に関しては警備会社が頑張ってくれてるから、夜間に何かが映るって事は今まで一度も起きてない。

 だから、夜間は外部と切り離している。といっても論理的にね。その気になれば侵入出来ないことも無いかもしれないけど、その前にハニーポットの方に辿り着くかな。


 で、今攻撃してきてる奴はそんな事も知らずに足跡を残しまくってくれている。間抜けなら攻撃者のPCにたどり着けるんだけど……、そこまで馬鹿でもないのか。

 ちなみに、このハニーポットには僕のPCからもログイン出来ない。代わりに時々侵入者の残したログを送ってくれるだけ。なるべく本物そっくりにって事で、本物に存在しない侵入経路は極力排除しているのだ。


 今回の侵入者がやりたかった事、それはつい先日僕が対処した生徒の位置情報を盗み出す仕組みの復活。しかも、その対象は僕と水無みな……。


 「これじゃ犯人バレバレなんだけど……」


 僕の情報だけだったらウザ男の仕業なんだろうけど、水無みなもとなると付き纏ってたデブしか考えられない。名前は……、まあいいや。

 いや、他にも水無みなを狙ってる奴が居るかも……


    ◇◇◇


 セキュリティシステムにログインできるのは、そのメンテナンス専用の部屋だけに制限をかけていた。例の亀島かめしまがいかがわしいことしてた部屋ね。

 以前は学内WiFiからもログイン出来てたんだけど、必要無いからアクセス出来ないようにして、この部屋も僕と会長の持つ2つの鍵が無いと入れないようにしてある。

 というわけで、会長にお願いして部屋を開けてもらった所だ。


 「侵入者を罠に嵌めて引きずり出すということなのね、面白そうだわ」


 「ありがとうございます、会長。後は僕一人で……、えっと、会長?」


 「面白そう……と言ったつもりなのだけれど、聞こえなかったのかしら?」


 つまり、一緒に居るつもりだと……


 「いいですけど、集中したいから相手しませんよ」


 「ええ、それで構わないわ」


 「あと、この中狭いんですけど」


 「知っているわ。それが何か?」


 「いえ……別に」


 放置で良くて、狭くてもいいのならとメンテナンスルームに入る。

 コーソールを開くと、後ろから会長が覗き込んできた。


 「あの、会長」


 「なに?」


 「隣の席空いてますけど」


 「そこからだと何をしているのかわからないじゃない。私のことは気にしなくていいから、作業に集中なさい」


 集中しろって言われても、会長の息が耳にかかって擽ったいんだけど。


 「で、何をしているのかしら?」


 何をしてるか解ってないんじゃ後ろで見てる意味ないじゃん。それに、相手しなくていいって言ってたのに……

 仕方なく、敵が侵入したのがハニーポットで、これから偽の情報を流すようにシステムに手を加える旨を説明してあげる。説明を聞いて周囲を見回す会長。


 「なるほど、ハニーポット……。私も誘い込まれてしまったのかしら」


 えっ? この部屋? そんな意図はないし、そもそも無理矢理入り込んできたのは会長じゃんっ!

 あっ、相手するの止めよ。


 「……作業に戻ってもいいでしょうか、会長」


 「勿論よ」


 その後は、特に何事もなく、ここでの作業を終えた僕は部屋の外へと出る。勿論、会長も一緒に。


 「何処にも居ないと思ったら……、鍵まで掛けて、中で二人で何してたの?」


 そこに居たのは般若の形相をした凜愛姫りあら


 「何って――」


 「ハニートラップよ。楽しませて貰ったわ、姫神ひめがみさん」


 「ハニー……」


 それ色仕掛けのやつじゃんっ!


 「いや、違うって伊織いおり、ハニーポットだよハニーポット。侵入してきた奴を罠に嵌めようと――」


 「嵌ったんだ……、罠に……」


 「えっ、何――」


 「会長の罠に……、嵌められちゃったんだ」


 「ないない、嵌ってないから。そもそも女の子同士なんだからそんな事には」


 「女の子同士……ね。楽しかったんだ」


 「別に楽しい事なんて……」


 何で言い訳してるんだろ、僕。別に楽しい事してたっていいじゃん。してないけどさ。


 「心配なら貴方も罠に嵌ってみたらどうかしら? 中に入れば監視カメラの映像も確認できるわよ、私と姫神ひめがみさんの秘め事のね」


 「会長、何かしたなら兎も角、してもないのに変なこと言うの止めてくださいよ。そもそも伊織いおりだって何で怒ってるの?」


 「私は……、そうだね、透がとおるが誰と付き合おうと私にとやかく言う資格はないね」


 「だから、付き合ってないって」


 「ごめん、邪魔しちゃって。私、先に帰るね」


 「伊織いおりっ」


 凜愛姫りあらは振り返りもしないでそのまま行ってしまった。


 「少しからかい過ぎてしまったようね」


 「知りません。勝手に怒ってればいいんじゃないですか」


 「姫神ひめがみさんがそれでいいなら私は一向に構わないのだけれど……、この後食事でもどうかしら?」


    ◇◇◇


 「ただいまー」


 玄関を開けると、ちょうど凜愛姫りあらがお風呂から出てきたところだった。


 「……」


 でも、無言。そのまま階段を昇っていってしまった。

 怒ってるんだよね……凜愛姫りあら。会長と二人でいたからなの?

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