04.12.黒タイツの策略
「ちょっと相談に乗って欲しいのですけれど」
「最近、誰かに監視されているような気がするのです。それに、特徴的な風貌をした男性を良く見かけるようになったというか、私が行く先々にその生徒が居るのです。なんだか気持ち悪くて」
これは他人事ではない。僕も
「奇遇だね、君もお花摘みかい?」
って言われてもねぇ。特選クラスと一般クラスって校舎別なんだけど、なんでこっちのトイレに来てるわけ?
「この場に相応しくない気配がするので誰かと思えば、ミスター
「また君か。誰かは知らないが、口の利き方に気をつけたほうがいいんじゃないのかい?」
「ふん、馬鹿への接し方など、これで十分。例え先輩だろうとな」
そして、
ちなみに、セキュリティシステムの話はとんとん拍子に進んで、既に契約までは終わっている。システムを使えば何とか出来ないことも無いし、ひょっとしたら……
「校内だけなら何とか出来るかも知れないけど、会長に相談してみないとね」
「校内だけでも助かりますわ。ずっと
「うん、じゃあ聞いてみるね」
というわけで、気は進まないけど会長の元へ。気が進まない理由、それは……
「ちょうど風紀委員長のポストが空いているのだけれど」
「ええ、知ってます」
「風紀委員長は当校のセキュリティに絶大な権力を持っていることは――」
「それも聞きました」
「つまりは、それを知った上で私の所にやって来たというわけね」
「いえ、上位代行であらせられる会長様にシステム利用の許可を貰えればと思ったわけで……」
「私が忙しいというのも伝えていたつもりだったのだけれど」
「ええ、そうですね」
「そう、それを承知で私を使おうだなんて、代償に何を差し出してくれるのかしら?」
……やっぱりこうなった。
「そうね、今夜私と――」
「そうだ、契約が終わっただけで、まだ引き継ぎ受けてないですよね。このままじゃ保守なんて出来ないですよ?」
「まあ、確かにそうなのだけれど、契約上は7月からということになってるわ。そんなに焦らなくても――」
「うーん、まあ、そうなんですけど、不正してた人が管理してたシステムをそのまま放置してていいんですか? バックドアが仕掛けてあるかも知れないですよ? 情報漏れちゃってるかも知れないですよ? 盗撮だってされちゃってるかも知れません!」
「それは確かにまずいわね」
「ですよね? 今月分は無報酬でいいですからちゃっちゃと引き継いじゃいましょう」
仕方ない、取り敢えずはアクセス権を手に入れないと。
「でも、何故そんなに積極的なのかしら? 評議委員会をサボろうとする人が」
「それはまあ……」
隠すようなことでもないかな。
「最近、ウザ男に付き纏われてるのと、クラスメイトも誰かに監視されてる気がするって言っててですねぇ」
「それでセキュリティシステムを私的利用しようと」
「うーん、それもありますけど、セキュリティシステムから情報が漏れてるんじゃないかと思って。だって、ウザ男もクラスメイトに付き纏ってる奴も、トイレに行くたびに居るんですよ? 校舎違うのにあり得なくないですか? ランチしてると必ず現れるし、毎日場所変えてるのに。もう、行動を把握されてるとしか思えないじゃないですか」
「私的利用ってところは否定しないのね?」
「否定しますよ。校内で行われている迷惑行為への対応じゃないですか。偶々僕とクラスメイトがその対象ってだけで」
「……いいわ。許可しましょう。私のお気に入りに何かあったら大変ですものね」
「ありがとうございます、会長!」
「ただし、条件があるわ。一介の評議委員にそんな権限を与えられないのは理解できるわよね」
「まあ、そうですけど、健全な条件でお願いしますね」
「当然よ。会長権限により、貴女を風紀委員長代行に任命するわ。期限付きでね」
「期限付きでいいんですね?」
「そうね。システムの運用にも目処がついたことだし、7月以降については評議委員会で正式に新たな風紀委員長を決定することになるわ。代行はそれまでということでどうかしら? もちろん、セキュリティシステムに関する事以外には関わらなくてももいいわ」
それって実質的にウザ男対策以外はやらなくていいって事になるのか。
「そんな条件でいいなら喜んで受けますよ、代行」
と、そんな感じで風紀委員長代行に任命され、運用業務の引き継ぎも行われた。引き継ぎといっても、会長から設計資料を渡されただけだけど、アクセス出来るようになりさえすれば問題ないのだ。
肝心のセキュリティシステムの方はというと、校内各所に設置された監視カメラからの映像を瞬時に識別し、誰が何時何処に居たって情報がデータベースに蓄積されるようになっていた。ついでに、その時の所持品なんかも記録されてるみたい。
会長は『大したシステムでもない』って言ってたけど、Tesla®を16基搭載したマシンを8台も使って顔認識してたり、データベースもちゃんとエンタープライズ版だったりと、結構お金掛かってると思う。しかも、ちゃんと冗長化してるし、検証環境とかいって同じ物が更にもう1セット存在してるんだよ。
気になってた情報漏洩はというと、バックドアというか、それ以前の話で構築時のアカウントっぽいのがそのまま残ってるし、前任者のアカウントもそのまま残ってた。まあ、これらはログインした形跡がないんだけど、他にも幾つかアカウントが存在してて、しかも、時々ログインして情報を抜き取ってるみたいなんだ。
痕跡を消そうとしてるみたいなんだけど、中途半端なんだよね。
◇◇◇
「――というわけなので、現状、不要なアカウントを全て削除した他、sshのポート番号を変更、公開鍵認証でしかログイン出来なくしておいたよ。ついでに、ファイアウォールもちょっといじっちゃったから、もうアクセス出来なくなったかな。あとはcronで定期的に情報を送信するコマンドが実行――」
「その辺でいいわ。多分誰も理解できないでしょうから」
今は、評議委員会で調査して解ったことと、取り敢えずの対処を説明していたところ。勿論、会長の命令でね。
「さて、今ので
まあ、そうだろうねー。ちょと自信在るよ、僕。
「加えて、先の投票において、私を押さえてミス
ん?
「では、2つ目の議案に移るとしましょう。
はあ?
「満場一致ということでいいみたいね。では、7月より風紀委員長――」
「はい、はーい。異議あり、異議ありでーす」
「今更一人反対した所で覆ったりはしないのだけれど、聞くだけ聞いてあげましょうか。何ですか?
「今月までって約束だったじゃないですか。ずっと続くなんて聞いてませんよ」
「正確には、7月に正式に委員長が任命されるまで、だったかしら?」
「そうですよ。約束守ってくださいよ」
「あら、まるで私が嘘つきみたいに言われているのだけれど、約束通りではないかしら?」
「いや、だって今委員長にって」
「ええ。7月からは貴女が風紀委員長。それまでは貴女が委員長代行よ? 委員長の候補から除外するなんて約束した覚えはないのだけれど」
「それは……そうかもしれないけど」
そんなのありなの?
「納得して貰えたかしら。では、副委員長は評議委員のなかから適宜選んで7月からは新体制を発足できるように頼んだわよ」
「そんなぁ。
「私は……
「そう、か。じゃあ引き受けようかな。
「うん、勿論」
こうして、僕は風紀委員長にはなってしまったけど、情報が漏れなくなったことで校内での付き纏いの件は無事に解決したから良かったことにしようかな。
ついでなので、貰った権限は最大限利用させてもらうことにした。
具体的には、ウザ男が接近するとスマホアプリが警告を鳴らしてくれるようにしちゃうのだ。情報が漏れなくなったから待ち伏せされることはないけど、偶然でも会いたくないからね。もちろん、
ついでだから、
「程々にね」
ううっ、会長、鋭いね。
でも、互いの位置把握は私的利用じゃないからね? 助けを呼ばなきゃいけない事態も想定しておいたほうがいいじゃない? そうだ、その機能も付けよっと。
とにかく、僕と
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