04.10.もう一つの司令

 問題を起こした1組の生徒三人は3ヶ月の停学となった。うち二人は自主退学、残る一名も中間テストを受けられないから自動的に12組への転落が確定する。


 神楽かぐら様からのもう一つの司令、


    『姫神ひめがみさんと友人になってくれないかしら』


 これを達成するには同じクラスになるのが手っ取り早い。接する機会も増えるだろうから。

 神楽かぐら様の情報では、姫神ひめがみの入学時の順位は22位。問題を起こした三名を除けばクラス最下位ということになり、このまま待っていれば2組に来る可能性もある。

 でも、読めないのは空席となった3枠の扱い。学校側からは何の発表もない。このまま空席のままなのか。もうしそうなら、先程の予想通り待っていれば姫神ひめがみはやってくる。

 空席を作らず補充するのか。その場合、待っていても姫神ひめがみはやってこない。


 更に悩ましいのは評議委員になれるかどうか。神楽かぐら様と接する機会が全然変わってくるから。

 クラス替えで1組から来た生徒は評議委員にはなれない。元々2組に居た生徒の中から上位2名が評議委員となる決まりだから。つまり、通常ならクラスで3位と4位になった生徒が次の評議委員というわけなんだけど……、例の3枠の扱いによってはこれも変わってくる。

 私はどうすれば……


 「そんな顔してると眉間のシワがとれなくなっちゃうんだぞ?」


 「一刃かずは、相変わらず呑気でいいね」


 「ん?」


 「中間テストの事。1組に行くべきか、それともこのまま2組に残るべきか。その場合も、評議委員になるにはどうすればいいか」


 「そんなの考えたってどうにもならないよ。それとも、霊雷れいらは狙った順位を取れるの?」


 「それは……、確かにそうだけど」


 一刃かずはの言う通り、思い通りにはいかないだろう。でも……


 「それに、私は特選に行きたいんだぞ。神楽かぐら様と同じ特選に」


 「神楽かぐら様と同じ……か……」


 確かにそういう考え方も有るかな。入試の成績は私が26位で一刃かずはが27位。そのまま学力が落ちていなければ十分特選を狙えると思う。評議委員にはなれないけど、神楽かぐら様と同じ特選に。


    ◇◇◇


 「やっほー、筆おろしさせてあげた一刃かずはちゃんだぞ! 宜しくね、るっち」


 「誤解を招く言い方は止めようよ。あと、るっちは止めて、頼むから……」


 「えー、じゃあ姫っち?」


 「それも、なんかやだ」


 「あっ、思い出した、一番最初のお客さんだよね、姫ちゃん」


 出たな、ゴツい執事。制服姿もゴツいんだな。


 「ふ~ん、姫ちゃんか。私もそう呼んじゃうんだぞ! 宜しくね、姫ちゃん」


 「う、うん、宜しく、一刃かずはちゃん……でいいのかな」


 「うん、うん、一刃かずはちゃんって呼んで欲しいんだぞ!」


 流石一刃かずは……、私も……


 「あの……、鹿島かしま 霊雷れいら……です。宜しく……」


 「うん、宜しくね、霊雷れいらちゃん」


 「ちゃんっ」


 「あっ、ごめん、馴れ馴れしかったよね、鹿島かしまさ――」


 「大丈夫……ですから。ちゃん……で」


 「えっと、じゃあ、宜しくね、霊雷れいらちゃん」


 「宜しくです、姫……ちゃん」


 霊雷れいらちゃん……か、一刃かずはにだって呼ばれたこと無いのに……


 「武神たけがみ 刃瑠香はるか。宜しくね」


 「宜しくなんだぞ!」


 「宜しく……」


 やっぱイケメンだな、この人。姫……ちゃんの彼氏だって噂になってるけど。


 「火神かがみ 水無みなですわ」


 神楽かぐら様と家同士の付き合いがあるというのは彼女か。なんと羨ましい……


 「得利稼えりか得利稼えりかだよっ」


 知ってる、ゴツい執事。いや、ゴツいJKか。


 「愛しい女よ、新しい友達か? ならば俺にも――」


 この男……

 校内でスカート捲りして処分されたのに、何を勘違いしてるのか姫……ちゃんに付き纏ってるという。どう見ても嫌がられてるのに何故気づかない……


 「キモい、うせろ」


 姫……ちゃんの声に答える様に二人の間に学年主席が割って入った。


 「とおるに近づかないで」


 「なんだ伊織いおり、お前まで嫉妬か? まさか、禁断の愛というやつか」


 ストーカー男が学年主席に掴みかかろうとしている。このままじゃ……


    バシッ


 「糞っ、スタンガンなんか持ち込みやがって」


 「そんなもの持っていない」


 「じゃあ何なんだ、お前のスキルか? 能力者なのか?」


 「馬鹿じゃないの?」


 「てめえ――うおっ」


 「止めないか、正清まさきよさん」


 ストーカー男は武神たけがみさんに関節をきめられて動けなくなった。


 「わかった、わかったよ武神たけがみ。今日のところは引き下がってやる。だから離せ」


 いつもこんな感じなのか……、大変だな、姫……ちゃんも。


 「ねえ、どうやったの?」


 「あっ、えっと、これは只の静電気で……、私貯めやすい体質みたいで……」


 「じゃあ触ったらビリってくるんだ」


 「い、いや、今放電したばかりだから、だいじょうぶ……」


 学年主席がそっと私の手に触れる。


 「本当だ。私は姫神ひめがみ 伊織いおり。さっきはありがと」


 そのまま握手とか、積極的だな……


 「いえ、別に……大したことじゃ……」


 「あれ~、霊雷れいらが赤くなってるんだぞ? もしかして~、タイプだったりしちゃったわけ?」


 「これは、そんなんじゃ……」


 お、男になんて触られたこと無いから……、初めてだから緊張してるだけで……、別にタイプっていうわけじゃ……


 とまあ、こんな感じで私と一刃かずはは1組へと移動となった。


 「あの、彼は?」


 「えっと、彼は……三田村みたむら――」


 「男色だから気をつけたほうがいいんだぞ! いおりんが好みみたいだから特にね」


 姫……ちゃんが三田村みたむらを睨みつけたように見えたけど……、姉弟だからかな。

 もう一人は男色の三田村みたむら。空いた3枠を埋める形で、2組から3名が繰り上がりとなり、1組から2組へ移動する生徒はいなかった。結局、何も考えてない一刃かずはが正しかったわけだ。

 これで神楽かぐら様の司令には答えられそうかな。一刃かずはのお陰でいい感じ……だと思うし。

 それに……、姫神ひめがみ 伊織いおりか……


 「霊雷れいらったら、じーっと見つめちゃったりしてるんだぞ!」


 「別に見つめたりなんか……」

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