04.09.中間テスト

 ミス高天原たかまがはらになったことで、これまでのとおるに関する噂が一掃されていた。


    『少しだけ応援させて貰ったわ』


 会長の言ったあの一言。つまり、連覇の栄光を捨ててまでとおるが注目されるようにしてくれたんだろう。勿論、いい意味で。

 メイド指圧に人が集まったのだって、もしかしたら会長が……


 そんな高天原たかまがはら祭も終わり、一学期の中間試験が目前まで迫っていた。なのに、とおるは相変わらずパソコンに向かってばかり。大丈夫なのかな。試験前ぐらい仕事減らせばいいのに。


 「とおる、試験勉強しなくていいの?」


 「うーん、そうなんだけど、バグ出しちゃってさぁ、お金は貰えないし時間は取られるしで勉強どころじゃ無いんだよね」


 「お金貰えないのに仕事してるの?」


 「瑕疵対応ってやつ? そういう契約だから仕方ないんだよ」


 流石に試験前は仕事入れてなかったみたいなんだけど、先方も困ってるみたいだし、仕方がないみたい。


 「何か手伝えることない?」


 「えっと……、勉強教えてくれないかな。会長の書き込みって、解説じゃなくて追加情報なんだよね。あれ見ると覚えなきゃいけないことが増えちゃうんだ」


 「へえー、そうなんだ。いいよ、一緒に勉強しよっか」


 「ありがとー、仕事すぐに終わらせちゃうからね。約束だよ。あっ、先に会長の教科書渡しとくね」


 「う、うん」


 結局、瑕疵対応とやらが終わったのは試験の3日前。運良く最後の土日は勉強に当てられるみたいだから、何とか詰め込まないと。結果次第では別々のクラスになっちゃうかもしれないんだから。

 でも今日は……止めとこうか。疲れてるみたいだし、ゆっくり休んで貰って明日、明後日で何とかしよう。テスト期間中は午後も空いてるしね。


    ◇◇◇


 そして、土曜日の朝。


 「女の子っぽくしてないんだね、とおるの部屋」


 「当たり前だよ。これでも男なんだから」


 「チャイナドレスとか着ちゃうのに?」


 「あれは……その……」


 とおるの部屋に入るのは初めてだ。もっと女の子っぽくしてるのかと思ったのに、意外と殺風景だ。ベッドは東側に置いてるのか……。私の移動しようかな、西側に。


 「冗談冗談。時間勿体無いから始めようか」


 「うん、宜しくね、凜愛姫りあら


 「何から始めよっか」


 「数学と地学は大丈夫。授業中に理解出来てるから。会長メモも全部覚えた」


 時間も無いし、そこまで自身満々に言うならいいかな。


 「じゃあ、英語は?」


 「苦手。あんなの態々勉強しなくたってAIが翻訳してくれるのにね」


 「それって、他の事にも言えるんじゃない?」


 「まあ、そうかも知れないけど……」


 「言い訳してても仕方ないから、始めようか」


 「……うん」


 今日はずーっととおると一緒だ。隣に座って一緒に勉強する。学校でも隣に居たらいいのにね。でも、それだとお昼寝できないか、とおる

 とおるの机はパソコンに占領されちゃってるから、床に座って小さなテーブルで勉強してるんだけど、時々肩が触れ合うんだ。ちょっとドキドキする。


 「凜愛姫りあら?」


 「えっ、ああ、そろそろお腹空かない?」


 「そうだね。じゃあ何か作ってくるよ」


 「ううん、いいの。とおるはここ見直してて。私が作ってくるから」


 「でも……」


 「大丈夫だから」


 とは言ったものの、料理なんて殆どしたことないんだった。お母さんはお義父とうさんと出かけちゃったし、どうしようかな……


 「えっと、凜愛姫りあら?」


 「これは……その……、そう、食材が無かったのよ、食材が」


 「そうだったかなあ」


 「そうなのっ」


 結局、お昼はカップラーメンになってしまった。我ながら情けない。


 「一緒に勉強すると、嫌いな英語も古文も現国も、地理や世界史でさえも楽しいね」


 「そ、そう。それは良かったけど」


 文系科目全滅って……


 「だから、今度一緒に料理しようか。きっと楽しいよ?」


 「うん。折角だから教えてもらおうかな」


 とおると一緒に料理か。ちょっと楽しみだな。


 「じゃあ、まずは鯵の三枚おろしからねっ」


 魚も捌けるのか、とおる……


 「いきなり難しくない? 先ずはカレーとかシチューとかでどうかなあ」


 「そんなのブートキャンプでやったでしょ?」


 う、うん、ほとんどは水無みなさんが、だけどね。


    ◇◇◇


 中間テストも終わり、数日後、結果が張り出された。

 会長メモのお陰か、私は満点に近い点数が取れている。当然1位だ。とおるは……、なんと2位になっていた。しかも、自身満々だっただけあって、数学と地学は満点取ってる。


 3ヶ月の停学となった三人は中間試験も受けられない。だからなのか女子二人は自主退学、残る一人も12組への転落が確定していた。

 本来なら、試験の結果を受けて上位クラスの下位二名と下位クラスの上位二名が入れ替わるんだけど、今回に限り、下位クラスの上位三人が繰り上がるという措置が取られるみたい。


 「驚いたな、とおるさん」


 「伊織いおりさんに教えてもらったのかしら。抜け駆けはずるいですわよ?」


 「確かに教えてもらったんだけど、抜け駆けってのは……」


 「次は私達もご一緒させていただきたいですわね、武神たけがみさん?」


 「うん、そうだね。とおるさんさえ良ければ」


 「教えるのは僕じゃ無くて伊織いおりなんだから、そういうことは伊織いおりに聞いてよ」


 私は……とおると二人きりがいいんだけど……


 「別に、構わないんじゃ、ないかな。みんなで勉強した方が楽しいかな、うん」


 「そんな……、この俺が最前列から落ちるなんて……」


 とおるが2位になったことで、当然順位が下がる人も出てくる訳で、こうして順位表の前で項垂れているのは正清まさきよさん。そう、成績上位者を鼻に掛けていた正清まさきよさんだ。彼の定義では、上位五名が成績上位者ということなんだけど、試験の結果は6位。自分で定義した枠から外れてしまった事になる。


 「成績上位者グループから弾き出されちゃったみたいだね〜。まっ、水無みなに『近づかないで』な〜んて言われてたんだから、丁度良かったのかな?」


 とおるの細やかな反撃、かな。結構根に持ってるみたいだからね、とおるも。


 「ふん、何を言っているんだ、姫神ひめがみ。これは、愛する者に席を譲ったまでの事。俺への気遣いなど不要だ」


 気遣いじゃなくて嫌味……だと思うんだけどな……

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