04.08.ウザ男

 漸く校内パレードが終わったんだけど……


 「さて、パレードも終わったことだし少し二人で話さないかい? マイ・プリンセス」


 兎に角、この男がウザくて仕方ない。何がマイ・プリンセスだよ。


 「いやー、折角だけどお断りしようかな」


 「おいおい、どうしたのかなあ。そうか、照れてるんだね? そういう女性も嫌いではないよ。でも、遠慮は必要ないさ。さあ、僕の愛を――」


 「いえ、照れてるわけでも、遠慮してるわけでも無いから。単純に興味がないだけなのでこれで失礼するね」


 あー、ほんと気色悪い。一秒でも早くこの場を立ち去りたかったんだけど――


 「待ち給え」


 「ちょっと、痛いって。離してよ」


 腕を掴まれてしまった。非力なこの体では振り解けそうにないよ。


 「あまりシツコイのもどうかと思うのだけれど、その辺り、どう考えているのかしら? 十六夜 いざよい 葉月はづきさん」


 いいところに!


 「会長〜、この人ウザいんです。助けてくださ〜い」


 「おやおや、誰かと思えば高天原たかまがはらを追われた元女神さまじゃないか。僕と付き合えなくなったからといってやっかみというのはみっともないんじゃないかな?」


 「おかしいわね。その件ならば私の方から断らせてもらったはずなのだけれど、年中無休で桜が咲いている頭では覚えていられなかったようね、十六夜 いざよい 葉月はづきさん? そんな事も覚えていられないようなら、今お付き合いしている女性の名前も覚えて無いんじゃないかしら。ひょっとしたら、誰かとお付き合いしていると思い込んでいるだけなのかもしれないわね。だいたいから――」


 「ちょっと待ってくれるかなぁ。僕が誰と付き合ってるのか逐一把握してるんですか? 元女神さま」


 「確かにそうね。十六夜 いざよい 葉月はづきさんが何方とお付き合いしようと私にはどうでもいいことだもの。こんなことをしている時間も勿体無いわね。行きましょうか、姫神ひめがみさん」


 「はい!」


 「待ちなって」


 会長の方に行こうとするも、ウザ男に引き戻される。


 「痛いって。離せ、変質者っ」


 「とおるっ」


 ウザに絡まれていると、凜愛姫りあら武神たけがみさんが現れた。


 「伊織いおり武神たけがみさんも。こいつがしつこくてさ。離してくれないんだよ」


 「なんだい、君たちは。メイド姿でマイ・プリンセスの追っかけとは変わった趣味を持ってるようだね。まあ、美少女は大歓迎だ。どうだい、君たちも僕のプリンセスになってみないかい?」


 「うっ、気色悪っ」


 だよねえ、凜愛姫りあら


 「これはこれは。マイ・プリンセスもお友達も、男の良さを解ってないと見える。いいだろう、僕が直々に教えてあげようじゃないか」


 「あら、貴方なんかよりもこちらの二人の方が比べ物にならないぐらい素敵な男性なのだけれど、何を教えるというのかしら?」


 「何っ? 男だと?」


 「知らないようだから教えてあげるけど、姫神ひめがみさんのクラスの出し物はメイド指圧。男子がメイド姿で指圧してるのよ。そういえば、女の子は執事だったかしら。姫神ひめがみさんの執事姿が見られなくて残念だったわ。今度、個人的にお願いできないかしら?」


 「ダメです、個人的になんて」


 「まあ、姫神ひめがみくんったら、冗談よ。それより諦めた方がいいわよ、十六夜 いざよい 葉月はづきさん。貴方、姫神ひめがみさんに嫌われてるみたいだから」


 「そんなはずは――」


 「さっきからそう言ってるだろうがっ」


 「何っ」


 「とおるさんも怒っているようだし、聞き分けないなら実力行使に移らせててもらう」


 「このっ、上級生に向かって――」


 「高々1年先に生まれた程度で上級生面とは。そういうことは上級生らしい振る舞いが出来るようになってから言って欲しいものだ」


 そんな武神たけがみさんの一言を切っ掛けに、ウザ男の取り巻きと思われる男子四人に取り囲まれる。


 「おいらたち五人を相手に勝つ気満々かい?」


 「思い知らせてやろうじゃねえか」


 「それくらいにしておくことね。校内の言動が記録されていることも忘れてしまったのかしら?」


 「ちっ」


 「そうだ。今日は予定があったんだった。また会おうじゃないか、マイ・プリンセス」


 何だか訳の分からないことを言い残してウザ男とその取り巻きは去っていった。

 はぁ、漸く開放されたよ。鬱血しちゃってるし、こいつマジで嫌い。


 「良く似合ってるわよ、姫神ひめがみさん。流石は私が気に入った娘ね。そちらの二人もとても可愛いわよ。女の子に間違える程にね。どうかしら、三人とも私とお付き合いしてみる気はない?」


 「あの……、ありがとう御座います。あと、何かごめんなさい」


 「それは残念ね」


 「いえ、そうじゃなくて――」


 「気にしなくていいのよ。投票の結果なんですから。それに、選ばれると色々と忙しくてね、少しだけ応援させて貰ったわ」


 「忙しい?」


 いきなり着替えさせられて連れてこられただけだもん。何も聞いてないよ?


 「あら、聞いていなかったの? 学校紹介のパンフレットに始まり、何処かの部が活躍でもすればコメントも求められるし、OB向けの会誌にもコラムを掲載しないといけないわね。まあ、この辺りはゴーストライターが上手くやってくれるかも知れないけれど、毎回写真撮影があるから、こればっかりはどうにもならないわね」


 「ええっ?」


 「まあ、頑張ってね。応援してるわ」


 そう言い残して颯爽と去っていく会長。


 「まあ、いいか。伊織いおり武神たけがみさんもありがと。どうなることかと思ったよ」


 「こっちも怪しそうだね」


 「うん。応援って、ね……」


 「ん? 何のこと? 何が怪しいの?」

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