04.06.脱走、そして監禁

 高天原たかまがはら祭最終日。


 「ねえ、得利稼えりかー。今日は休憩させて貰えないかなあ。他のクラスも見に行きたいし、それに、腕が痛くてマッサージできそうに無いんだよね」


 登校早々、何故かこのメイド指圧を取り仕切っている得利稼えりか支配人にそう懇願してみたんだけど。


 「ダメダメ。ダメに決まってるでしょー。姫ちゃん目当てで女の子が集まってきてるの解ってないの?」


 「でもさー、もう腕がぁ」


 「仕方ないなー、得利稼えりかが揉みほぐしてあげようか?」


 わさわさと動かす手つきがやらしい。ちょっと身の危険を感じちゃうよ……


 「えっ、遠慮しとくよ。あれっ、気の所為だったのかな。痛みが無くなったかも?」


 「うんうん、じゃあ、今日も頑張ってねー。そしたら得利稼えりかにもおこぼれが回ってくるから♪」


 「おこぼれってさぁ……」


 やっぱ男だよね、得利稼えりか


 「やったー、姫神ひめがみさんだぁ」


 「いいなー、あたい、もう1回並ぼうかな」


 頼むから止めてよ。

 昨日までは指名も受け付けてたんだけど、「私の所にだれも来ない」って怒りだした支配人によって、そんな制度は廃止された。それは良かったんだけど、結局うちのブースに長蛇の列ができてるし、さっきみたいに並び直す人まで出てきちゃってさ。流石じいちゃん、と言いたいところだけど、もう腕が限界だよ。

 得利稼えりかの奴、僕だけ休憩くれないし。

 そもそも、“うんち姫” なんじゃなかったっけ、僕。臭い移っても知らないよ?


 得利稼えりかは相変わらず、手つきがやらしいしくて、


 「ちょっと、何処触ってんのよっ」


 「えー、ここも気持ちいい筈なんですけどー」


 「姫神ひめがみさんならともかく、あんたに触られても気持ち悪いだけなのよっ」


 なんて怒られてる。その度に、


 「まあまあ、特別に1分だけ姫ちゃんのマッサージをサービスするから、そんなに怒らないでねっ♪」


 なんて言って僕に押し付けてくるし。


 「おかえりなさいませぇ、お嬢様ぁ」


 昨日からもう何回目だろう。もう疲れたよー。


 「(実行委員の者なのですが、一緒に来ていただけないでしょうか)」


 そんなテンションダダ下がりの中、お嬢様から耳元でそんなことを囁かれた。


 「(実行委員?)」


 なんとなくだけど、僕も声を抑えて訊き返す。


 「(はい。準備がありますので。できれば他の方々には気付かれたくないのですが)」


 「(うん。行く、行く。ここから逃げられるなら何処にだって行っちゃうよ)」


 「(では、わたくし、今から意識を失いますので保健室まで運んでいただけますか? 出来ればお姫様抱っこを希望します)」


 え〜、腕がもつかなぁ……って、あっ。


 「ねえ、ちょっと、大丈夫?」


 「どうしたの? 姫ちゃん」


 「なんか息してないみたいなんだけどっ。心配だから保健室まで連れて行ってくるね」


 とまあ、白々しくお姫様抱っこってのをしてみようとしたんだけど、ちょっと重いかも……

 仕方がないので背負っていく事にする。念の為、彼女の名誉のために言っておくけど、僕が非力なだけだからね。ついでに、腕も疲れてたからね。確かに背中に押し付けられているものの存在感は規格外だけど、規格外なのはそこだけみたいだし。

 兎に角、なんとしてでもここから逃げ出さないと。


 「ちょっと、姫ちゃん、呼吸してないなら運んでる場合じゃないじゃん」


 「大丈夫、そこまで深刻じゃなさそうだからさ」


 「息止まってて深刻じゃないってどういうことなのよ。あっ、逃げる気だな、姫ちゃん」


 待ってたまるか。絶対こんなとこから逃げてやる。

 流石に人一人背負って走るなんてことは出来ないんだけど、何故かゾロゾロついてくる女の子達のお陰で得利稼えりかは僕に近づくことが出来なくて、無事に保健室へと辿り着けたのだった。でも、ここからどうすれば……


 「ううっ、何だこれは。ほらほら、関係ないやつは入室禁止だ。とっとと散れっ」


 優しい保健の先生のイメージとはかけ離れたミニスカ白衣のおねえさんの一喝でギャラリーは退散していく。もちろん、得利稼えりかも。


 「お前はあの時の」


 「その節はどうも。覚えてくれてたんですね」


 「私好みの可愛い顔だからな。で、お前が姫神ひめがみって事でいいのか?」


 「そうですけど、こ、好み?」


 「まあ、男じゃなけりゃ興味も半減だ。心配しなくてもどうこうしやしないよ。中に入りな」


 「えっ、ええ?」


 「早くしないかっ」


 「うわぁ」


 保健室に引きずり込み、何故か施錠するミニスカおねえさん。


 「あの、ちょっと……何で?」


 「お前もいい加減気絶したふりは止めろ。他の奴らに呪い殺されても知らないぞ」


 「はーい。夢のようなひと時でしたわ。役得役得っと」


 僕の背から降りる女の子。保健室には他に三人の女の子が居て、僕が来るのを待っていたみたいだ。


 「えっと、何を?」


 「そうだな。先ずは脱いでもらおうか」


 「はぁ?」


 「おい、お前ら、手伝ってやれ」


 「「「「はーい」」」」


 「ちょっと、いやだって。止めてー」


 僕が下着姿にされるのに5秒とかからなかった。水無みなも一瞬だったけど、4人もいると比べ物にならないな。

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