04.04.乱心

 「ねえねえ、セフレ募集してた特選の娘、男装してマッサージしてるみたいよ?」


 「へえー、どんな娘なの? “うんち姫” でしょ? うち、見たこと無くてさあ」


 「だよね〜、特選クラスってぇ、ちょっと近づきづらいもんね〜。ねえ、行ってみようか。すご~く気持ちいいんだって、彼女のマッサージ」


 などと駄弁っている女子が居るように、“うんち姫” の噂が学校中に知れ渡ったお陰(?)なのか、とおるの顔を一目見ようと男子だけではなく女の子までもがメイド指圧に殺到し、入場規制を行う事態となっていた。

 実際、セフレ募集は募集してないんだよ? 会長の話、聞いてたよね?


 「お帰りなさいませ〜、お嬢様♪」


 そんな事を言われているとは知らないとおるは満面の笑顔でお嬢様を迎え、おじいちゃんに鍛えられたという指圧テクニックで女の子達を骨抜きにしていったのだった。

 もう、肩だけって約束したのに腰とかお尻とかまでマッサージしちゃってるし。それに、何故かこっちを気にしながら2組の評議委員の女の子とコソコソ話してたし。

 別にとおるが誰とデートしようと構わないんだけどさ、構わないんだけど……なんかモヤモヤするのよ。

 それに、女の子……選ぶんだ、とおるは。


 そんなとおるにマッサージされたい女の子で長蛇の列ができ、勝手にこの場を取り仕切り始めた大金おおがねさんが男子禁制という謎の入場規制を行い始めた。お陰で私達は暇なのだ。そもそもメイド指圧じゃなかったっけ? ここ。


 「学校中に広まってるみたいだね、とおるさんのマッサージの評判」


 「そうみたいだね。皆んなとおるの事嫌ってたのに」


 「周囲の見る目が良い方に変わるなら良い事なんだろうけど……」


 武神たけがみさんも複雑な気持ちなのかな。モヤモヤしてるのかな。暇だから余計なこと考えちゃうよ。


 そんな中、彼は現れた。スカート捲りの罰として、一週間の停学処分を受けたのに、未だにとおるに付き纏ってるあの男が。


 「うげっ、変態」


 私もそう思う。

 確かに、うちのクラスの男子はメイドに扮してるんだけど、正清まさきよさんは何故か制服姿。何故か女子の。しかも、サイズが合ってない。何処で手に入れたのか知らないけど、スカート短いからはみ出してるのよ、下着が……、白いのが……


 「ちょっと、みさおくん、何のつもりなの? 警察呼ぶわよっ!」


 「な、何を言ってるの? 誰かと勘違いしてるんじゃないかしら」


 「それで変装してるつもりだったんだ……、ビックリだよ」


 得利稼えりかさんの言う通り、ただ制服着て来ただけにしか見えない。話し方は変えてるみたいだけど……


 「き、気持ち悪……、近寄るなっ」


 でも、とおるのそんな一言で素に戻ったみたい。


 「姫神ひめがみ、照れなくて良いんだ。自分の気持ちに素直になれ。俺を受け入れろ」


 「いい加減にしてよね、みさおくん。営業妨害だから出てって」


 うん、ボディーガードっぽい。とおるを守るボディーガードだ。でも、そんな大金おおがねさんの制止を振り切って、一歩、また一歩ととおるへと近づいていく。


 「とおるさん、こっちへ」


 「うん、ありがとう武神たけがみさん」


 とおる武神たけがみさんの元へと駆け寄る。はあ、これで安心かな。


 「武神たけがみ、またお前か。見苦しいぞ、男の嫉妬は」


 「君はまだそんな事を。全く懲りていないようだね」


 「懲りる? ああ、愛の試練の事か。そんな物、何度でも乗り越えてみせる。さあ、そこをどけ。俺の姫神ひめがみを開放しろ」


 正清まさきよさんが武神たけがみさんに突進していく。


 「うおぉぉぉぉー」


 雄叫びを上げながら。前傾姿勢になり、両手を突き出して武神たけがみさんに掴みかかる。

 ……までは良かったんだけど、そのまま一回転して床に叩きつけられてた。無様に足を広げてね。


 「うわっ、何か汚らしい」


 そんな事を口にする大金おおがねさんに引きずられていく。教室の外……、もっと遠くかな。


 「こんなの置いといたら客足が遠のいちゃうよ、まったく」


 うん、そうだね、大金おおがねさん。


 「大丈夫? とおるさん」


 「うん、ありがとう。 助かったよ武神たけがみさん」


 「大した事無いよ。しかし、困ったものだね、正清まさきよさんも」


 そうよ。何でなのよ。元々とおるの事軽蔑してたはずだし、酷いこと言ってたのに。


 「かっこよかったね、彼」


 「うんうん、私もあんな風に守ってもらいたーい」


 「姫神ひめがみさんとはどういう関係なんだろう」


 「お似合いだよね、あの二人」


 そんな声が聞こえてくる。

 お似合い……か。

 武神たけがみさんは告白しようとしたんだもん、とおるの事好きなんだよね。とおるはどう思ってるんだろう、武神たけがみさんの事。あんな風に守ってくれたら好きになっちゃうのかな……


    『大丈夫、とおるは私が守るから』


 なんて言ったのに、全然守れてないな、とおるの事……

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