04.03.親衛隊の任務

 待ちに待った高天原たかまがはら祭。

 なのに私は……

 会長に言われて1組のブースの前に並んでる……


 「そんな顔してると神楽かぐら様に怒られちゃうんだぞ?」


 「一刃かずは、あんた何でそんなに幸せそうなの」


 「だ~って~、神楽かぐら様から直接お願いされちゃったんだぞ? 嬉しいに決まってるじゃな~い」


 「それは……、そうだけどさ……」


 何でよりにもよって姫神ひめがみの……

 だいたいから、神楽かぐら様は姫神ひめがみに優しくし過ぎなのよ。確かに入学早々色々あって、神楽かぐら様が助けてあげなければ大変なことになってたんだろうけどさ……


 「ほらほら~、マッサージして貰って~、適当に気持ちよかった~って触れ回ればいいだけだぞ?」


 「しっ、声が大きい」


 一刃かずはの言う通り、神楽かぐら様からの指示は姫神ひめがみのマッサージを受けてその感想を周囲に伝えるだけ。でも、最低だった、とか言ってほしいわけじゃないよね、神楽かぐら様。何で私がこんなサクラみたいなこと……。姫神ひめがみの為なんかに……

 それに、友人に……、なれるのかな……


 「考えすぎだぞ~、霊雷れいらは。やることやったら神楽かぐら様に喜んだ貰えるんだから、それで良いんじゃないのかな~」


 確かに、そうだけどさ……


 「お待たせしました~、メイド指圧、開店で~す」


 遂に始まってしまった。ほんの10分……、10分耐えるだけでいいんだ。後は適当に親しげに振る舞ってれば……


 「誰かご指名ですか?」


 先頭に並んでいた私にゴツい執事が訪ねてきた。その風体でその喋り方はきつすぎないか……


 「私は姫神ひめがみさんを指名しちゃうんだぞ?」


 「はいはーい。でも順番だからちょーっと待ってねー」


 「いや、彼女が先で構わない。私の連れだから」


 そうだな、一刃かずはの様子を見てからにしよう。


 「その後で私も……、姫神ひめがみ……さんに」


 「二人共姫ちゃんですねー、さあさあ、中へどうぞー」


 1組のブースにはかなりの数の女子が集まってきていた。目当ては学年主席の姫神ひめがみ 伊織いおりと次席の武神たけがみ 刃瑠香はるか。この二人がメイド姿に扮してマッサージをするという。

 とはいっても、対象となるのは男子だけ。男子が女子にマッサージするのは色々と問題有るからな。こいつらは二人のメイド姿見たさにやってきてるんだろう。バカバカしい。

 実際にマッサージ受ける為に並んでるのは私達だけだぞ、恥ずかしい。しかも指名までして。


 「おかえりなさいませ〜、お嬢様♪」


 姫神ひめがみ……とおる……。

 近くで見ると確かに……


 「おかえりしちゃったんだぞ~。疲れたから気持ちよくして欲しいな~」


 くっ、一刃かずは、そこまでするのか。私にできるだろうか……


 「お任せ下さいませ~。じゃあ、ここにうつ伏せになっていただけますか」


 「こうでいいのかな?」


 「はい。では始めますね♪」


 姫神ひめがみがうつ伏せになった一刃かずはの肩に触れようとしている。靭やかな真っ白な手。整えられた指先。そんな執事が何処に居るっ。


 「はうっ」


 「どうした一刃かずは、何かされたのかっ」


 「き、気持ちい……」


 なんだ、そういう事か。驚かせるな。


 「ううっ、はぁ……、あん」


 こら一刃かずは、そんな誤解されるような声を出すんじゃない。


 「そんなに凄いの?」


 「私もやってもらおうかな」


 周囲の女子たちからそんな声が聞こえてくる。

 まあ、目的は達成しつつあるからいいのか……。態々ふれ回るまでもなく、一刃かずはの誤解を招きそうな声だけで女子たちが注目し始めている。しかし、私にできるだろうか、このような真似が……


 「ん、ふあぁ、もう……、だめ……」


 そんな戯言を最後に、一刃かずははピクリとも動かなくなった。なるほどな。それなら私にも出来そうだ。参考にさせてもらおう。


 「お嬢様、いかがですか?」


 「う~ん……」


 おい、一刃かずは、そこまでしなくても良いんじゃないか? アヘ顔というやつか……、涎まで垂らしてだらしない。


 「はい、お時間です。いかがでしたか? 姫ちゃんのマッサージは」


 一刃かずは、終わったぞ。もう良いんじゃないのか?


 「お嬢様?」


 「もっと~、もっと気持ちよくなりた~い」


 「次のお嬢様もお待ちですので、ご希望でしたら列の最後尾にお並びいただけますか?」


 「さい、こうび……、うん、わかった~」


 わけのわからん事を言いながらもう一度列に並ぼうとする一刃かずは


 「はい、では次のお嬢様、おまたせしました」


 いよいよ私の番だ。ゴツい執事に進むよう促される。


 「おい、一刃かずは、大丈夫なのか? 一刃かずはっ」


 「おかえりなさいませ〜、お嬢様♪」


 姫神ひめがみ……


 「こちらへどうぞ♪」


 「待て、只の指圧なんだろうな。変なことしないんだろうな」


 警戒していると、ゴツい執事に押さえつけられる。


 「お嬢様、営業妨害はおやめ下さい。普通の指圧ですわよ、当店は。さあ、姫ちゃん、始めちゃって」


 「はい。では、失礼しますねっ」


 そして、私への指圧が始まった。


 「はう~ん」


 何故、何故だ、口から勝手に……変な声が漏れてしまう。こんなはしたない真似は――


 「はぅ ううーん」


 だめだ、もう止めてくれ、こんな姿は見られたくない……、こんな……


 「お嬢様、お嬢様ぁ、起きて下さい」


 私は……、意識を失ってしまったのか。見れば姫神ひめがみ待ちの長蛇の列ができていて、一刃かずはが「気持ちよくて、気持ちよくて」と連呼している。


 役目は果たしましたよ、神楽かぐら様。


 私も……もう一回並ぼうかな……

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