04.02.戦闘系執事とバトルメイド

 5月も残す所あとわずかとなり、高天原たかまがはら祭、平たく言うなら学園祭が2週間後に迫っていた。

 今日はクラスの出し物を決定しないといけない。

 全てに置いて成績至上主義が貫かれるこの学校では、クラスの代表である評議委員も成績で決定される。つまりは、私と武神たけがみさんというわけだ。評議会に出席するだけではなく、こうしたクラスの決めごとでも意見をまとめなければいけなかったりする。


 「では、何かやってみたい事がある人は――」


 「はいはーい。 得利稼えりか、メイドマッサージがやりたいでーすっ」


 武神たけがみさんが言い終わるよりも早く、大金おおがねさんが自分の願望を吐露してきた。


 「えーっと、メイドマッサージ?」


 「うんうん」


 「不健全なイメージを持ってしまうのはぼくだけなんだろうか」


 「不健全なんかじゃないってばー。男子がメイドの格好してー、女子が執事の格好して指圧をするだけだよー。勿論、男子は男子に、女子は女子にねっ。逆はなし」


 「なるほどね。それだけなら問題ないのかもしれない。他にやってみたい事がある人は?」


 確かにそう聞くと問題ないようにも思えるけど、大金おおがねさんの提案ってところがね。やたらとスキンシップを取りたがって困ってるって水無みなさんから聞いてるし。とおるなんてベタベタ触ってきて気持ち悪いって言ってたかな。

 って、とおるったら突っ伏して寝てるし。ちょっと仕事減らしたほうがいいんじゃないの?


 「伊織いおりさん?」


 「えっ、何?」


 「他に意見も無いようなので、1組はメイドマッサージって事で決まりかな」


 「うん。でもちょっといかがわしい感じが……」


 「そうだね。実状に合わせてメイド指圧でどうだろう。多少なりとも不健全さは消えてると思うんだけど」


 とまあこんな具合に出し物が決まってしまったわけだけど、爆睡していたとおるには帰り道で教えてあげた。

 そうそう、例のパパ活疑惑以降、私はとおると一緒に帰るようにしている。勿論、打ち合わせにも同席させてもらっている。やっぱり心配だし、それに……


 「僕は執事になるのかぁ。元々男だから特に気にならないし、いいんじゃない? それに、凜愛姫りあらのメイド姿も楽しみだね♪」


 「えっ、うん、そう?」


 「うん♪」


 とおると一緒に居ると楽しい。


 「あっ、指圧って言っても肩だけだからねっ、変なとこマッサージしちゃダメなんだからねっ」


 「わかってるよー。得利稼えりかと一緒にしないでほしいなぁ」


    ◇◇◇


 数日後、レンタルする衣装のサンプルが届けられた。何人かで試着して本番で着用するものを決定する為だ。

 着替えたとおるたちが教室に入ってきた。何故とおるかって、それは評議委員の権限によるものなのだ。だってとおるの執事姿が早く見たいし、嫌がらせしてた負い目なのか、他の人たちも文句は無いみたいだし。

 執事の衣装は3種類。基本的には全部黒なんだけど、シャツやベストの色が違ったり、鎖?みたいなのが着いてるのがあったりと、多少の違いはあるみたい。どれもアニメに出てきそうな感じなんだけど。


 「とおる……」


 「どうどう? 似合ってる?」


 「……うん。かっこいいよ」


 久しぶりに見る男の子バージョンのとおる……、というには無理があるかな。やっぱ。かっこいいっていうより、可愛い、かな。後ろで一つに纏めてるけど髪も更に長くなってるし、胸だって膨らんでるしね。


 「ねえねえ、 得利稼えりかもかっこいい?」


 「どうかしら、 得利稼えりかさんの場合は……そうですね、執事というよりはボディーガードといった感じでしょうか。とても強そうに見えましてよ?」


 「水無みなちゃん、ひっどーいっ」


 うん、私もそう思う。


 「ねえねえ、姫ちゃーん」


 「う、うん、良いんじゃないかな、戦闘系執事」


 水無みなも中々かっこよく変身してたけど、多数決でとおるが試着した衣装に決まった。

 女の子達は衣装っていうよりもとおるの執事姿にぽーっとしてたみたいだったのがちょっとモヤッとするけど。とおるのこと “うんち姫” とか呼んでたくせにさ。


 次はメイド服の試着。こっちは2種類だけ。フリルがたくさん付いてて動きづらそうな感じのライトブルーと、その黒バージョン。こんな感じの、とおると初めて逢ったパーティーに着て行ったっけ。


 「普通に女の子にしか見えないね」


 「そうだろうか。あまり気が進まないのだが……伊織いおりさんも綺麗だよ」


 「えっと、うん、ありがとう」


 更衣室から戻ってくると、執事姿のとおるが……無反応?

 初めて逢った時のとは違うけどウィッグも着けたのにぃ。これじゃダメだった?


 「……凜愛姫りあら


 漸く口を開いたと思ったら、なんてこと言うのよっ。


 「あら、気になりますわねぇ。またその名前。凜愛姫りあらさんというのは」


 「ああ、えーっと、幼馴染にそっくりだったんでつい……」


 「えー、こんな可愛い幼馴染が居るのー、姫ちゃーん。今度紹介してっ、ねっ、いいでしょっ、ねっ」


 「えっ、うん、いいけど、ほら僕引っ越しちゃってるからさ、最近会ってないんだよね」


 「うんうん、で、何時会えるの?」


 「えーっとー、何時かなぁ……」


 大金おおがねさんのお陰で誤魔化せた、かな?

 もう、気をつけてよね、とおるったら。


 「とおるさん、どうかな」


 「うーん、こうやって、こんなふうにしてみて」


 「得利稼えりかさんには聞いてないんだけど、ちょっと、止めてくれないか」


 とおるに訊いたのに何故か 大金おおがねさんに変なポーズを取らされる武神たけがみさん。


 「よし、できたっ! どう、姫ちゃん」


 「バトルメイド……」


 バトル……何?

 確かに強そうだけど……

 筋骨隆々ってわけじゃないけど、どちらかって言えば痩せてると思うんだけど引き締まってて、何かオーラが出てそうで……


 「武神たけがみさんのご実家は道場ですもの。もちろん、武神たけがみさんもお強いんですのよ」


 「そうなんだ~、僕も武術とか習ってれば良かったな~」


 羨望の眼差し? とおるがキラキラした目で武神たけがみさんの事を見てる。

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