02.07.毛虫からの警告
「君は……
目の前のJKにそう語りかける。魔法はもう効かない。
「大丈夫。君の姿は皆んなに見えないし、君の声は誰にも聞こえない」
まるで空気みたいに……、違うね、空気は無かったら困るけど、君が居なくなっても誰も困らない。
「期待して裏切られるよりも、何もしないで無視されてる方が楽だよ」
鏡の中で無表情のJKが頷く。嘔吐感は無くなった。
リビングに降りて、用意された朝食を食べる。おいしい……。ちゃんと味がする。なんだ、最初からこれで良かったんだ。
「
うん、もう大丈夫。元に戻ったから。もう心配いらないよ。
「ねえ、
平気だってば。
「何とか言って、ねえ、
ほらね、僕の声は誰にも聞こえない。だから、もう大丈夫。
◇◇◇
「あっ」
すっかり忘れてたけど、僕の上履きには時々毛虫が入り込む。足裏に伝わるむにゅっとした感覚と、それに続く液体が滲み出る感触。なんだか懐かしい。こうやって、身を挺して危険を知らせてくれてるんだ。今日は嫌なことがいっぱい起こるけど頑張ってねって。
「うん。ありがとう、毛虫君。僕は大丈夫だから」
でも、気持ち悪いから、次からは違う方法で教えてくれると嬉しいんだけどな。
裸足でペタペタと歩き、購買へと向かう。すれ違う女の子の視線は冷たく、男子のそれは好奇に満ちていた。今更気にもならないけど。
指定のソックスと上履きを購入し、教室へと向かう。
ロッカーの前で困り顔をしているのは、
「私の教科書が無いんだけど、誰か知らない?」
そっか、教科書ないんじゃ大変だよね。毛虫君、警告する人間違えちゃったのかなぁ。僕も教科書取り出さなきゃ。
「それ、私の教科書」
教科書なんてどれも同じじゃない。ここは僕のロッカーなんだから、
「間違いない。この印、私の教科書だよ。何で貴女がっ」
確かに同じ教科書が2冊あるような……
「他人の教科書を隠すとは、何考えてるんだ? 貴様」
こいつは、『火のない所に』って言ってたやつか。
隠す気なら自分のロッカーに入れるわけ無いだろ。最前列に居るくせに意外とバカなんだな。それとも、敢えて言ってるの? 僕の事、攻撃したら楽しいから?
「何とか言ったらどうなんだ」
まあ、何を言っても僕の声は聞こえないんだけどね。不満げに「ちっ」って言ってたけど、残念だったね。こういうの慣れてるから。挑発には乗らないよ。
「落書きとかされてないか? 確認してみた方がいいぞ」
「うん、ありがとう、
そんな事があって、1限の授業が始まった。
そうか、毛虫君の警告はこれの事だったのか。開いた数学の教科書には、びっしりと落書きされていた。
死ね
うざい
極太マジックでデカデカと書かれたそんな文字の周りに、卑猥なマークがカラフルに書かれている。元々そこに何が書いてあったのかわからないぐらいに。だから、教科書を閉じた。
「どうした、
僕の事は放っといてくれていいのに。
「先生、今の発言は問題なのでは?」
「
口が滑るのもこれが初めてじゃないし、気にしてないからどうでもいいけど。しかし、レベル低いな、この学校。落書きといい、教師といい。特選なんだよね、このクラス。
退屈な授業が延々と続く。
特選の授業は1コマ90分で構成されていて、8:30からのホームルームに続いて、1限は9:00〜10:30、2限10:40〜12:10、昼休みを挟んで3限13:10〜14:40、4限14:50〜16:20、5限16:30〜18:00なんだよな。
次の2限、英語の教科書はページが破り取られてた。
3限の体育は、ロッカーに置いていたジャージに落書きされていた。股間の部分にでかでかと、二重丸っぽいマークがね。どうせ僕の事は見えないから、こんな事しても無駄なのに。あれ、皆んなクスクス笑ってたから、まだ見えてたのかな。
4限の生物、高校でこのレベルの顕微鏡入れてるところは少ないんだぞーって自慢の顕微鏡は数が限られてるから二人一組で、だって。25人のクラスだから、当然余った僕は一人で使えるわけで、ちょっとラッキー。こうして微生物眺めてると落ち着くな~。
でも、5限のプログラミングは最悪だった。ログインした瞬間、卑猥な映像が流れ始める。勿論、大音量で。そして勿論、僕だけ。屈辱的だ。でもアドミン権限でこんなことされたんじゃね……
毛虫君。君の予知能力は今も健在みたいだね。でも、僕は大丈夫だから、命を無駄にしないでね。
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