運命、変えられるってよ!

「――俺、好きな人既にいるんだけど」

「うん、知ってた」

『知っとるが?』

「……………………あれ?」


 ……ねえ、俺、今重大なカミングアウトしたんだよね? なんでこんな「何今更」みたいな表情されなきゃいけないの? 


 ……考えてみれば、神様が知ってるのは当然か。俺の心の中読めるらしいし。


 でも、何で唯音が知ってるの? お兄ちゃん恋愛相談なんてした覚えもないし、そもそも唯音の前でその人物の名前出したことすらないよ? 確かに通ってる学校同じだし、気が付く可能性だって絶対にないとは言い切れないかもしれないけどさ……それでも、そう簡単にわかるものか? ……はっ! まさか唯音はお兄ちゃん大好きっ子で、俺については何でも知ってるとか……?


「キモい」

「ぐはっっ!」


 ところがどっこい。今現在、俺は妹に体重を込めた腹パンを食らいました。まだ朝食食べてなくてよかったわぁ……食べてたら胃の中がすっからかんになってたところだったよ。


 つか、痛みでツッコむの忘れそうだったけど、何で俺の考えてることが分かったの? 恐ろしすぎるんだけど。そういう才能でもあったりするのか……?


 んなことよりも、だ。


「……で、なんで俺に好きな人がいることを知ってたくせに『妹が運命の相手だ』みたいなこと言ってきたわけ?」


 俺は殴られた腹をさすりながら、神様に尋ねる。


 いや、もし唯音が本当に俺の運命の人なんだとしたら、言わなくてええやん。運命の相手なら自然に結ばれるんだろうし、俺に現実を突きつけなくて良くない?


 好きな人がいる人に、「君が将来結婚するのは別の人だよ」とか、普通言わなくていいよね? 悲しいじゃん。今自分が抱いている感情って、無駄なのかな……とか、考えちゃうじゃん。


『んー、簡単に言うと、運命の相手というのは必ずしも変えられないわけではないのじゃ。お主らが頑張れば運命に逆らうことだってできるかもしれんが……まあ、お主らの努力次第ということよ。もし儂が決めた運命の相手と変わったとしても、そのときはその時じゃし』

「な、なるほど……ってことは、俺は必ずしも唯音と結婚するってわけじゃないのか。安心安心!」

「……兄貴、もう一発行っとく?」

「ごめんなさい妹様謝るのでどうかもうやめてください」


 洗練された、完璧な姿勢の土下座で謝ると、唯音はふん、と鼻を鳴らして拳をひっこめた。つか、お前も俺と結婚したくないだろ? なんで殴ったのさ……。


『……さて、伝えたいことも伝えたことじゃし、そろそら儂はこれでおさらばとするかのぅ』


 そう神様が言えば、突然俺の小指に結ばれていた赤い糸が細かな粒子となって消えていった。うぁおファンタジー。神様が存在する時点でファンタジーだけどな。


「感謝すればいいのかわかんないけど、取り敢えずありがとうとは言っとく。……まあ、ある意味あたしたちにとって迷惑な話だったけど、兄貴と結婚なんてヤだし、頑張って彼氏探すことにするわ」

「んじゃ俺も、早く彼女作るために頑張るか。こんな妹と結婚なんて、断固拒否したいし」

「兄貴に彼女なんて百年……いや、百回人生繰り返してもできないでしょ」

「冗談を言うのはまずそのひねくれねじ曲がってる性格を直してからだな」

『お主ら……儂が消えるときくらい喧嘩するのやめんかい!』

「「は? なんで?」」

『……もう儂消える』

「「あっそ」」

『…………ぐすん』


 悲しそうな声を残して、神様が脳内に音を届けるためにつかってたのであろうなにかしらの接続が切れる感覚がした。改めて、神様ってなんでもありなんだな。脳内に声届けるっての、要するにテレパシーだろ? 便利そうで羨ましい。


「……で、この後どうするの?」

「うーん……もっかい寝る」


 時計を確認すれば、まだ朝の六時。

 早起きしてもやることが無いし、たとえあってもやりたくない。いつもの俺の休日の起床時間は十時頃だからな。それまでは睡眠の時間。


 それに、今日は唯音と一緒のベッドで寝ていたせいで、狭くてぐっすりと寝れなかった……って、聞くの忘れたけど俺達が同じベッドで寝てた原因、あの神様のせいだよな? 一発ぶん殴りたかったわ。誤解生ませた恨みと、早起きしてしまった恨み……ん? なら二発か。よし、次会ったら二発殴る。あでも、ちょっと足りない気もするから、俺の気が済むまで殴らせてもらおっと。


 そんなことを考えながらふと唯音を見れば、何やら浮かない……というより、なんだろう、なんとなく不安そうな顔をしていた。


 どうかしたか、と聞く前に、唯音が口を開いた。




「――兄貴は、兄貴だよね……?」



「は?」


 唯音の言葉の意味がわからず、思わず眉間に皺がよる。


「……いや、なんでもない。それじゃあ、あたしは部屋戻ることにする。あたしたちが本当の兄妹じゃないってのも、後でお父さんたちに二人で聞くことにしよ」

「あ、ああ。わかった。んじゃ、おやすみ」

「あ、そうそう。私との添い寝させてあげたんだから、後でお金頂戴ね」

「はぁ!? 俺のせいじゃないんだし、それはないだろ!」

「……ならお父さんに報告――」

「すまん、それは止めろ。……千円でいいか」


 俺は土下座するかの勢いで頭を下げた。

 いやー、うちの父さんはちょっぴりドタコンなところがあって、唯音と添い寝したとでも言おうものなら、色々と説教されるであろうことは想像に難くない。父さんにだけは、バレちゃいけないんだ。


 渋々財布から千円札を取り出し、唯音に渡す。……妹に脅迫されるとか、兄としての威厳もあったもんじゃないな。でも、しょうがないんだ……! うわぁぁぁっ!


 とまあ誰に対しての言い訳かわからないが、心の中で悔しさと懐状況から来る悲鳴を上げる。


「うわぁ、兄貴やっさしー」

「せめて感情を込めてから言えよな……」


 どう考えても嘘と分かるような棒読みの唯音に、思わず溜め息。


 だが、その後唯音はどこか上機嫌そうに「兄貴、おやすみ~」と言って俺の部屋を出てった。ほんと、現金な奴だな。金さえもらえれば嫌ってる兄に対してもこんな上機嫌な反応してくれるだなんて……将来、パパ活とかしないよな? 兄ちゃんは心配です。


 とはいえ、俺もまだまだ眠いために唯音についての思考をすべてシャットダウンし、ベッドに倒れこんだ。


 いやぁ……朝っぱらから情報量半端なかったな……。


 ……つか、唯音はなんで俺に好きな人がいること知ってたんだろな……後で……いや、いつか聞こう……。聞くのに一苦労はするだろうし。


 そして……唯音はなんで言ったんだろうな。あの時の唯音の表情を見ると、なんだか心がモヤモヤする……けどまあ、突然の意味不な行動はなんだかんだいつも通りか。


 そんなことを考えながら、俺は深い眠りに落ちていくのだった。







☆あとがき

良ければ☆等お願いします。

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