情報量多すぎない???

『――お主ら二人は、運命の相手同士じゃ』


「「…………は?」」


 あまりに突然のことで理解が追い付いていないのか、俺達の口から出たのはそんな言葉だけだった。


 俺と唯音が運命の相手同士?


 どういうこっちゃ。


 それ以前に……


「……運命の相手ってのは、どういう意味だ?」

「……兄貴、そんなのもわかんないの?」

「…………」


 こんな状況でも俺を罵倒することを忘れない唯音。俺が言えることじゃないが、もうちょっと空気読も? シリアスめなシーンじゃんここ。まあいちいち反応するのもめんどくさいし、無視すっけどさ。


 それに、俺だってわかってるんだよ。どういう意味なのかってのは。


 でもよ……常識的に考えたらあり得ないし、もしかしたら別の意味でもあるんじゃないかって考えちゃうのは仕方ないだろ。


『む? そんなの、将来を誓い合う仲となるという意味に決まっておるじゃろう』

「だよねー……」


 うん、わかってた。というか合ってた。


 要するに、夫婦になるってことだろ? 付き合って、結婚して、子供が出来て……って、妄想すんな俺。妹との結婚生活を頭に思い浮かべちまったじゃねぇか。実の妹と結婚なんて、マジありえないっしょ。


 よく言う、「家族には発情しない」ってのはその通りだと思う。俺だって今神様から言われるまでそういう風に意識したことなかったし、する予定もなかった。逆にあるやつの方が少ないだろ。


「……で、何であたしたちが運命の相手同士になってるワケ?」

「あ、それ俺も気になる」


 唯音が訝しむように眉をひそめたので俺もそれに倣う。


 妹と結婚とかありえないだろ。運命の相手になるからにはそれなりの理由があるはず……って、ちょっと待て。


 実の妹と結婚って、出来ないよな。


 別にしたいと思ってるわけではなく、純粋な疑問……というよりは事実として、法律上できないんじゃなかったか?


『ふむ……その前に、駿朔君の問いに答えてあげよう』

「……兄貴何考えてたの」

「ん? 普通に、兄妹じゃ結婚できないだろってこと考えてた」

「あ、確かにそうじゃん」

「おい唯音。大丈夫かお前」

「うっさい」


 唯音の足が俺の足から退かされて、膝裏に蹴りを入れられる。痛いって。


 んなことより、兄妹で結婚ができないことを忘れてた唯音に俺は驚いた。……もしかして俺、妹の恋愛対象に含まれてた感じ? いやん。


 ……などとどうでもいいことを考えていると、神様はさらに俺達に驚愕の事実を突きつけた。






『お主ら、本当の兄妹じゃないぞ』






「「……………………は?」」



 先程よりも長い沈黙の後、告げられたのは俺達が本当の兄妹ではないということだった。


 ……え、待って。流石の俺でもそれは理解出来んぞ。


「俺達……本当の兄妹じゃないのか? だったら……え、俺達ってどんな関係なわけよ」

「珍しく兄貴がいいこと言ってる……あたしも意味わからな過ぎて理解できないんだけど」


 ボソッと言われたその言葉だが、隣にいる俺に届くには十分。


 珍しくって何よ? 良いことくらい普通に言うわ。つか、この空気の中で人を貶すなよ。


 イラついた俺は、唯音のことをギロリと睨む。そして蹴る。さっき蹴られたのと同じ場所を。


「うるせぇ黙れ空気の読めない妹よ」

「ちょ、あたし女の子なんだから蹴んないでよ。傷でもついたらどうすんのよ」

「知るか。つか、蹴ったくらいじゃ傷なんてつかねぇだろ。ちょっとくらい頭使えよ」

「わかんないじゃん。兄貴が蹴ったせいで転んで大けがしたら、貰い手いなくなるかもしれないし。どう責任取ってくれるの?」

「ハッ! そのセリフを妹に言われても嬉しくなんてないな。それに、このクソジジイ曰く俺達が運命の相手同士らしいし、んなもん気にしなくていいだろ?」

「誰が兄貴みたいなクソ陰キャ顔面偏差値低すぎて測定不可と結婚なんてするかっ! 運命の相手ってのもどうせクソジジイの間違いでしょ? 絶対に兄貴みたいな人と生涯を共にしたいとは思わないから」

「お前……! ちょっとかわいいからってイキってんじゃねぇぞ? お前みたいな性格ブスこそ、一生相手なんてできないね」

「……ははっ、兄貴、言うじゃん」

「そっちこそ。昔は従順で俺の後をひょこひょこついてくるだけだったのによォ」


 お互いに額にピキピキと青筋を浮かべ、メンチを切りあう俺達。


 あと少しで殴り合いにまで発展するのではないかというところで、邪魔する声が。


『ちょちょちょ、お主ら! 喧嘩するでない! 落ち着くのじゃ!』

「「ん? 落ち着いてますが?」」

『ひぃぃぃっ! ……怖い……でも儂、頑張るのじゃ!』

「「キッッッモ」」

『ひぃぃぃっ!』


 本当ならばストレス発散に唯音と気が済むまで口喧嘩かこのジジイに気が済むまで罵声を浴びせたいところだが、このままでは話が進まないので我慢して大人しく話を聞いてやることにした。感謝しろクソジジイ。


「……で、俺達が本当の兄妹じゃないってのはどういうことなんだ?」

『うーむ……果たして儂が話していいものか……こういうのを伝えるのは親の役目じゃろうし……』

「あー、確かにな。んじゃ、そのことについては父さんにでも聞くとして……」

『案外反応薄いんじゃな……普通なら親じゃなく儂を問い詰めるじゃろうに……』


 そうぼやくように神様が言うが、実際俺は驚きはしたがそこでひたすらに質問攻めするほどではなかった。ま、たとえ本当の兄妹じゃなくたって、何か変わるわけでもないし。真相が気になりはするがな。


「……どーせあれでしょ? 兄貴の場合『本当の兄妹じゃなかったとして、何か変わるか?』みたいなこと考えてんでしょ」

「当たり前だろ。……それに、パッと俺の心情が想像できるってことはお前こそ同じこと考えてんだろ」

「……否定はしない」

『……む? これはあれか? 巷で言う、ケンカップルとか言うやつかの?』

「「んなわけあるかっ!」」

『……儂にはもうよくわからんわ……』


 トホホ、という声が聞こえてきそうな口調の神様の声。


 ……あのな、ケンカップルってのはお互いに深く愛情を持ちあった二人が、素直になれない状態で照れ隠しのために喧嘩してしまって、でも時折自分の心に素直になりデレる……みたいな、尊いものなんだよっ!


 それを俺達みたいな最低限の家族愛しか持ち合わせておらず――いや、それすらも持っているかわからない、心の底から嫌いあっている二人に当てはめるだなんて、ケンカップルへの冒涜だ!


 なんて、神様に文句を心の中で言いながら、ふと俺は自分にとっての重大な事実を思い出した。


「あー、そういえばなんだけどさ……」


 今までの話を根本的に覆す内容となるために、少し言いにくい。


 だが、言わねばならないのだろう。言わなかったら……特に何か起きるわけでもないけど、言っといたほうがいい感じだし。


 そして俺は勇気を出して、口を開いた。



「――俺、好きな人既にいるんだけど」


「うん、知ってた」

『知っとるが?』


「……………………あっれれぇぇ?」





☆あとがき

面白いと思った方は是非☆等を付けていって下さい……!

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