真相を聞くのって、結構勇気いるもん
☆まえがき
ここから少し雰囲気が重くなります。
部屋が、ドンドンと壊れそうなほど強く叩かれる音。
それとともに、怒っているのかうるさく喚く若い女の声が聞こえてきた。
「兄貴! 昼ご飯くらい食べるでしょ!」
……またですか、我が妹よ。
俺の睡眠を邪魔……ん? 今、昼ご飯って言った?
慌てて時計を見れば、、長針が指し示すのは十二の数字。短針は、六を指している。……つまり、十二時半。
……うん、寝すぎた。
俺は個人的なポリシーとして、必要以上に寝ないようにしている。理由は、なんつーか、寝てる時間が無駄だと思っているから。
いや、矛盾してるとかそういうことじゃないのよ。
俺の場合は、寝るのは好きだけど、必要以上に寝て時間が無くなるのも嫌だ。
なので、気持ちよく寝て、事前に決めた時間以外は寝ないで起きている時間でしかできないことを目一杯楽しむことにしていた。
それにほら……決めてた計画が狂うのって、なんか悔しいし。
ということで、俺は勢いよくベッドの上に立ち上がる。
そしてベッドの上から飛び降りれば、狭い室内を走るような速さで歩き、急いでドアを開けた。
「きゃっ!」
「起こしてくれてサンキュ!」
俺は起こしてくれた唯音に一声かけ、ドタバタと階段を駆け上がって二階にある食卓へ向かった。
足を滑らせることもなく無事に階段を登り切る。
「……どうしたのよ、そんなに急いで」
母さんが、ジトーッとした目をしながら俺のことを見つめてきた。まあ、珍しいことだしな。当然の反応だろう。
「いや、ちょっと寝過ぎちゃったからさ」
「二度寝したんでしょう? 唯音から聞いているわ」
「聞いてる……って、どこまで?」
もしかして……朝、神様から言われたことについても聞いてるのか? あの科学では到底解明なんて不可能そうなことを、説明したのか?
「多分、全部よ。唯音が隠してない限りね。……信じられないと言ったら、嘘になるけれどね」
「ま、まじかぁ……」
と、いうことは、俺達が本当の兄妹でないことを知っていることまで知っているのか? 日本語おかしくなってる気がしないでもないけど、これは取り敢えず知っておきたい。
俺達に何も言わずに隠してたんだから、それなりの理由でもあったんだろう。
でも、俺達は本当の兄妹でないことを知ってしまった。ついでに運命の相手同士だ、と言われて。
そんな俺の内心を読んだのか、母さんが口を開く。
「駿朔と唯音が本当の兄妹じゃないっていうのは本当よ。でも……真実は、唯音と昴さんが揃ってから話すことにするわね」
昴さん、ってのは俺の父親の名前だ。ちなみに、母さんは咲恵という。……当然のことだが一応、苗字は高木だ。
「ああ……って、もう二人とも来たけど」
唯音がスタスタと階段を上ってくる音と、俺の背後で寝室の扉が開く音がした。
なお、父さんは俺と違って二度寝したわけではないだろう。寝室は書斎も兼ねているため、本でも読んでたんじゃないか? 父さん本好きだし。まあ何でもいいんだけど。
「……取り敢えず、座ろうか」
全員揃ったことで俺たちの間に緊張が走り、一瞬沈黙が訪れた。が、父さんによって一先ず俺達は席についた。
俺と唯音が隣同士で、向かいには父さん。斜め前に母さんが座る。
神様の前では「本当の家族じゃなくたって何か変わるわけでもない」といった旨のことを言ったが、自分の親が本当は親ではないのかもしれないなどと考えると、少しだが不安にもなってくる。
事実を知りたい、と思うとともに、知ることが「怖い」と思っている自分がいる。
ちらりと唯音を見れば、神様の前で俺と言い合いをしていた時の威勢はどこへやら。
如何にも「緊張してます」といった趣で、まさに判決を言い渡される直前の被告人のようだ……って、机の下だからって足を蹴るな。普通に痛い。つか、俺の心を読めるわけ? 唯音さんや。
とはいえ、空気が空気なので、聞くわけにもいかず。
俺は唯音を睨むのを止めて、父さんの方へと目を向ける。
そして、まず始めに父さんが切り出した。
「まあ、もうすでに二人とも知っているみたいだけど、二人は――正確には僕と唯音は、血が繋がっていないんだ。唯音は、咲恵の連れ子だ」
スッと、息を飲む音がした。
それは、俺たちのどちらが発したのか。はたまた二人とも発したのかは定かではない。
だが、息を飲んでしまったのもしょうがない。それ程までに、たとえ覚悟をしていたとはいえ衝撃だったのだ。
当の本人である唯音の顔を覗けば、流石に動揺している様子。大袈裟に変わったことはないが、下唇を強く噛んでいるのが見えた。
そこでふと、俺も母さんと血が繋がっていないんだということに気付く。唯音が母さんの連れ子だということは、そういうことだろう。
いわゆるマザコンというやつではないが、それなりに好きではあった。もちろん、家族愛としてだがな。
ぐちぐち説教をしてくるわけでもなく、かと言って不干渉というわけではない。時には親身になって接してくれたり、嫌なことがあってそっとしておいて欲しいと思った時は、陰から見守ってくれていた。
そんな母さんと血が繋がっていなかったという事実は、やはりどんなに「ずっと一緒にいた家族なんだから、何か変わるわけではない」と理解していても、辛い。悲しい。
「そう……なんだね……」
普段あまり見ない、唯音のしゅんとした姿でさえ、どこか寂しさが感じられる。
「なるべく、本当に血が繋がっている家族同然に接して、二人が大人になるまでは隠しておこうと思ったんだけど……まさか、そんな風に知られてしまうだなんてね」
見ると、父さんもどこか歯切れが悪く、辛そうだ。確かに、こんなことを自らの子供に告げるのは酷だろう。
でも、父さんは誤魔化さずにしっかりと話してくれた。それがたょっぴり、嬉しかった。
「長い話になるけど、聞いて欲しい。二人には知る権利があるからね」
一瞬だけ。
刹那の間だけ俺は唯音と顔を見合わせたが、すぐに父さんの方を向き直して、大きく頷く。
そして父さんが話し出したのは、俺達が生まれるずっと前の、過去の話だった。
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