告白してみた

 唯音にアドバイスをもらってから一ヵ月と少しが経った七月中旬。


 梅雨も明け、定期テストも先日無事終了し、人々の心の中は解放感に満ち溢れている。テスト返却? んなもん知るかってんだ。


 そして、俺は唯音に言われた点を全て改善し、高木駿朔・改へと進化した!



 ……。


 ………………。


 いや、俺の頭がおかしいわけじゃないのよ、うん。

 これは一種の現実逃避であってですね……。


 ……まあ、どういうことかというと――



 ――俺、高木駿朔は、今から告白をしますっ!!



 朝のうちに我が思い人である七瀬さんには「昼休みに校舎裏に来てほしい」と、いわゆるラブレターと言うやつで伝えてある。もちろん、ラブレター――当然ながら唯音監修――は靴箱に入れました。我ながらベタすぎるとは思っているが、仕方ないじゃん。偉大なるラノベキャラ達先人達がそうやってるんだし。俺は真似しただけだし? ラノベを参考にするなってのはごもっともなんだけども。


 つか、んなことは今はどうでもよくて、だ。


 俺はもう既に校舎裏で待っている。

 まだ七瀬さんは来ていない。


 あーもーっ! 心臓がバクバクしててうるせぇよ心臓ちょっと黙ってろ! 死なない程度に!


 今更ながら、告白するのを止めたくなってくるが……この一カ月ちょっとの間、そんな弱音を吐こうものなら妹様に尻を蹴られる……もとい激励されてきた。その努力を思い出せば……頑張れるよな、俺?


 頬を両手でパシッと挟むように叩いて、喝を入れる。

 よしっ、やるぞぉっ!


 そんなこんなで数分後。


「ごめんね~っ。待った?」

「い、いや……全然待ってないデス」


 うっ……緊張して語尾が……うわぁぁぁぁっ(発狂)


「それで、私になんの用かな?」


 こてっ、と首を傾げる七瀬さん(可愛い)。


 どうせ、用件はわかっているはずだ。親切心でとぼけているだけだろう。いやまあだからどうしたって話だが。


 ふぅーっと深呼吸をして、俺は七瀬さんの目をしっかりと見据える。


 ――さあ、告白の時間だ。




「七瀬さん、好きです。俺と……付き合ってくださいっ!」








「――えっと……ごめんなさい。……友達からじゃ、ダメかなっ?」





 ……………………………………まーじかー。フラれたかー。


 確かに、俺は七瀬さんと関わりはほとんどない。

 そんな状況で告白されても、困るよな……。


 俺氏、無事撃沈。


 まあうん、成功するわけがないとは思ってたよ。

 でもさ、一ヵ月頑張ってきたし、「ワンチャンあるんじゃね?」みたいな変な自信もついてたわけよ。どうしよ涙出てきそう。


「え、っとぉ……高木君?」

「…………はい、何でしょうか」

「そ、その……振っといてこういうの言うのも変だけど、さっきも言ったみたいに、友達にだったらなってもいいというか……なんというか……」


 ……え、ちょっと待って。

 なんでこの娘がもじもじしていらっしゃるわけ? 告ったの俺の方だったよね?


 困惑して、思わずフラれたショックが消え去る……いや、思い出しちゃったじゃんフラれた事実。ショックは健在だよっ。


 もうどうにでもなれ。

 そんな投げやりな気持ちで俺は「……じゃあ、友達になりましょう」という変なセリフを吐く。コミュ障かよ――コミュ障だったわ。


 ――だがしかし。



「やたっ! 高木君と友達になれた……っ!」



 いや、なんで貴方がそんなに喜んでるんです……?

 え、俺フラれたんだよね? 恋愛感情持ってないんじゃないですか?


 あれれー。もうなにがなんだかわかんないぞー。


 そんな俺の戸惑いに気付いたのか、弁明するように七瀬さんは口を動かし始めた。


「あのっ、これはその……ほら、高木君って、よくライトノベル読んでるよね?」

「まあ、はい」

「それで、その……私の周りにラノベ読んでる人って少なくてさ、話が合う人がいなかったんだよね。で、高木君がよくラノベを読んでるっぽかったから、仲良くなってそういう系の話がしたかったの……ほら、私達ってほとんどしゃべる機会とかなかったでしょ?」

「…………ソウデスネ」


 悪かったですね、話しかけづらい陰キャぼっちなコミュ障男子で!


 まあでも、どうして俺と友達になりたがってたのかは分かったぞ。確かに七瀬さんがいつもいる、言わばリア充グループでラノベ読んでるっぽい人は居らんな。それに俺はカバーも書けず堂々とラノベを読む系男子なので、俺がラノベ好きなのは一目でわかっただろうし。


 七瀬さんと友達になれたことは、正直複雑だ。

 お近づきになれた嬉しさ。けれども恋愛対象として見られていないという悲しさ。

 それに、告ってフラれて、そっから何のしがらみもなく友情を育めるかと言われたら、難しいしなー。


「……あっ、もうこんな時間だ。お昼食べる時間が無くなっちゃう!」


 腕時計をちらりと見た七瀬さんはそう呟くと、そそくさとスマホを取り出した。


「ねぇ、高木君の連絡先教えてよ」

「……えっ?」

「ほ、ほら、その……ラノベの話とか、したいし……」

「……ああ、そういう」


 くっ……念願の七瀬さんの連絡先だけど、なんか思ってたんと違う……。

 まあ、普通に教えるんだけども。


 俺は最も普及率が高いであろう某トークアプリを開き、QRコードを表示させる。


「……はい、これ、QRコードです」

「ありがとー!」


 俺のことを友達追加した七瀬さんは、早速俺に「こんにちは」と可愛いアザラシが喋ってるスタンプを送って来た。いや、可愛いかよ。もちろん七瀬さんが。俺の返したスタンプなんて、よくわかんないゴリラがグッってしてるのだからな?


 そして七瀬さんはふと顔を上げて、俺のことを指差した。


「……あ、あと、これから敬語で話すの止めることっ!」

「んなっ……」


 いや、そんなこと突然言われてもなぁ……なんというか、緊張して普通に喋れる気しないんだけど。

 正直敬語のままの方が楽というか……。


 そんな俺の心の内を察したのか、七瀬さんは「勿論無理にとは言わないよっ!」と気を遣ってくる。


「……でも、距離置かれてる感じでなんかちょっとだけ寂しいし……だめ、かな?」

「勿論いいです……いや、いいぞ!」


 ……違うの。これは、その……上目遣いで見てくる七瀬さんにほだされたとかそう言うわけじゃ……なくもないというか……つか、んなことどうでもいいだろ! 七瀬さんは可愛い。これこそこの世の真理だ(唐突)。



「――じゃあ、これからよろしくね? 高木君っ」

「こちらこそ、よろしくな。七瀬さん」


 ――こうして、俺は七瀬さんと友達になった。

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