第109話 修復ロボット
俺とユージェンが精霊蛇の女王が産卵している湖に連れて行ってもらう一方で、貯水池の壁をどうにかするのはシリトとダグラス達の仕事になるらしい。
リーエンの世界において機械文明はオーパーツ扱いされていて、元を正せばそれは現実世界の技術が持ち込まれている部分が多い。だから地底に作られたこのダムも、プレイヤーである俺が良くみる構造をしているみたいだ。常に水を流しているオリフィスゲートの上に作られているクレストゲートを全部開けばとりあえず水は流れ出すだろうけど、クレストゲートは壁のてっぺんに作られる排水扉だから、貯水池の水位が下がればそこで排水が止まってしまう。
そうなるともう貯水池の壁を壊した方が良いという結論になるから、大蛇達が必死に繰り返していたみたいに壁を削ろうとするのが正しいのだけれど、その都度あの小さな修復機械が大量に湧いてきて、あっという間に壁を修復してしまうわけだ。
試しに大蛇がどんと尻尾で壁を叩くと、その一部が小さく欠けた。すぐに何処からかやってきた修復ロボットをダグラスが一匹捕まえてくれたので、モゾモゾと動いている半円状の身体をひっくり返して腹側を観察してみる。移動するための歩脚と、壁に張り付くための吸盤、修復液を吹きかけるためのマズル。透明なガラス板が嵌め込まれている部分の奥には、カメラのレンズっぽいものも見える。これで壁が損なわれた部分を見つけて、集団で修復するシステムみたいだ。
「……でもなんか、思ったより、簡単なつくりだ」
大蛇達に壊された時もダグラスが捕まえた時も一切抵抗を示さなかったのは、おそらくはそれが壁の修復に特化して製造されたからだ。多少の被害が出ても、他の個体が補う。数で攻めているタイプということになる。壁が壊れたら振動あたりをシグナルに損傷場所に集い、あらかじめインプットされている壁の「正しい姿」に戻るように修復する。実に、単純な指令だ。
「つまりこれは……あれだ、
ぐるぐると小型ロボットをひっくり返しながら呟く俺の見解に、ダグラスとハルはきょとんとしている。
「電波塔も電線もないんだから、そりゃあ遠隔操作はちょっと無理だよね……でもカメラはあるから、録画は出来てるのかもしれない」
そういえば以前ベロさんを追いかけていたロボットも、脚の関節部分についたカメラにベロさんを映して何かと『照合』してる感じだった。あれもこの修復ロボットよりは高度なシステムを組まれているけど、自動で動く機械で、誰かが操作をしているものではない雰囲気だった。だったら、スタンピード迎撃戦の時にどさくさに紛れてホルダの街を破壊しようと現れた五色の雲も同様である可能性が高い。
「……ん?」
そこまで思いついた俺は、あることを思い出す。確かあの五色の雲を作っていた機械の残骸は、撃墜した『
――でも、そのあとは?
……なんだか、嫌な予感がするな。
うーん。でもまぁ取り敢えずは、目先の問題を解決することが先決だよね。
「多分この貯水池って、重力ダムの構造だと思う」
「重力ダム?」
「うん。こっち側から対岸まで、貯水池を支えてる壁がまっすぐに通ってるだろ。そんで壁そのものは、下の方に行くにつれて、厚みが大きくなってる。水の圧力を、壁の重さで支えてるんだ」
土台が岩盤などの強固な地層である時に選ばれるダムの構造で、造りも難しくないから、
俺が簡単にその仕組みを説明すると、シリトがふむ、と腕を組む。
「だが、壊すしかないのだろう? それは俺に任せてくれて構わない。低い位置から壊した方が良いならそうしよう。厚みがあろうとなかろうと、あまり関係ない」
わぉ、すごい自信。
「壁を壊すのはシリト様に任せるとして、僕たちは移動方法を考えないといけませんよ」
「あ、そっか。なぁ、卵がある湖までって結構遠い?」
『かなり、遠い。人間、簡単に、辿り着けない場所』
「そりゃそうか……どうするかな」
考え込む俺の前で、大蛇がゆらりと尻尾を振る。
『人間、頑張れるなら……俺が、連れて行く』
「え、どうやって?」
『……呑み込んで。後で、吐き出す』
……マジですか??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます