第101話 予想
ユージェンと一緒に部屋に集まると、肩に小鳥を乗せたハルとダグラスが待っていた。ハルの従魔であるシグマはさすがに部屋には入れず、宿に併設されてる獣舎で休憩しているそうだ。
「揃ったな。じゃあハル、説明してくれ」
「うん。食堂での僕達の会話を聞いてどこかに報告に出たのは、あの『チル』って給仕のお兄さんらしい。宿に着いた時に、部屋に案内してくれた男性だよ。確か名前は『トニー』だったと思う。彼が報告に行った先は、案の定というか、
「誰に……?」
俺が尋ね返すと、ハルは軽く頷いて、肩に乗せている小鳥の頭を撫でた。
「この子は
「それはつまり、加工工場で、誰にも会っていないということですか?」
ユージェンの問いかけに、ハルは、今度は緩く首を振る。
「いいや、それが誰かに会っているのは確かみたいなんだよ。でもそれがどんな人物かを報告出来ないみたいで」
「誰かに会っているのに、誰か分からない……?」
「……奇妙な話だな」
顎に指を当てて考え込むユージェンの隣で、ダグラスも腕を組んで首を捻る。
食堂に居たチルの兄であるトニーが報告に行った先が、併設されていた直売所などが閉鎖された加工工場。その加工工場では、最近になって、従業員が一斉に解雇されたという話がある。でも工場そのものは、以前と変わらず稼働している。俺と炎狼は、人手が要らなくなったのは機械を使ったオートメーション化が理由ではないかと推測しているが、まだ確証はない。
「……あ、もしかして」
俺の呟きに、三人の視線が集まる。
「シオン、何か思いついたことが?」
「確証はないんだけどさ」
「構わん。それを調べに来てるんだ」
ダグラスに促され、俺は炎狼と話し合っていたことを三人にも伝えることにした。
「まず、ニギ村は元々、肉や乳製品の加工業が盛んだって言ってたよな。でも、従業員を一斉に解雇している。それなのに、加工品の生産数は上向きになっている」
「うん。この前僕が、商人ギルドで聞いた話だね」
「更には、この規模の村にはあって然るべきの『護衛』の姿が見られない。そして加工工場を外部の人間に『見られたくない』みたいだ。ハルの小鳥が追いかけたトニーが『誰か』に会っていたけど、それが『どんな人物か』を報告出来ない」
「そうみたいですね」
「つまり、トニーが『会って』いたのは、人物じゃないってことでは?」
「っ!」
俺の見解に、三人は目を丸くする。
「加工工場から従業員が大量解雇されても生産数が上がる話は、機械を利用したオートメーション化があれば、十分可能だ。護衛が居なくても、何らかの警備システムみたいなものを村全体に配置することが出来れば、危険はぐっと減ることになる。でもそれを実現するには、結構な額の投資が必要になるだろう? ここはエヌ達の村よりかなり豊かだと言っても、村は村だ。全てのシステムを、一度に機械化出来るだけの余財があったとは思えない」
「……確かに」
「だったら、考えられることは一つ。別に、居るんだよね。ニギ村全体が機械化出来るように大金を落としたか、あるいは、機械そのものを提供した、誰かが。そして、そんな大掛かりなことを出来る相手は――」
「――神墜教団か」
ダグラスが、苦虫を嚙み潰したような表情になった。
「俺はまだ接触した試しが少ないんだけど。その可能性、高くないか?」
チチ、と鳴く小鳥を指先に止まらせたハルも、溜息と共に頷く。
「シオンの予想は、的を得ているよ。確か神墜教団は、大きな鏡みたいな機械を使って、遠方に居る相手であっても、互いの顔を見ながら通信が出来るって聞いたことがある。トニーがそれを使って遠方の誰かと会っていたのなら、この子が、追跡対象が誰かと会っていたのに、それがどんな人物なのか分からないと報告してきたことにも、説明がつく」
「背後に教団が居ると考えれば、全部が可能ですね。まさか、こんな辺境の地に教団の手が伸びているとは」
深刻そうな表情で溜息をついたユージェンは、窓の外に視線を向けた。
その先には緑に覆われた草原が広がっていて、遠くには雪を抱いた山脈の頂も目にすることができる。長閑で平和そうな、穏やかな辺境の村。
だけどその裏では、リーエンの全土で暗躍する神墜教団の手が、密かに浸透していきつつあったわけだ。
「さすがに、このまま看過は出来ないな。解決に至ることができなくても、情報を持ち帰る必要がある」
「もしかしたら、サウザラの水不足とも関連があったりするのかな」
「教団が絡んでいる以上、それも否定できない。……とにかく、工場に行ってみることにしよう」
ダグラスの言葉に俺達は全員で頷き、立ち上がった。
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