第39話 首都ヤシロ
夜が明けて、一時間ほど歩き続けただろうか。
峠の山道を抜けた先に、かなり大きな町並みが見えて来た。街道沿いに小店が立ち並び、辺りが賑やかになってくる。
「……漸く到着かぁ」
イーシェナの首都、ヤシロ。
想像通りに、かなり和風の雰囲気が漂う町だ。往来の町民達はみんな着物っぽい服を身につけているし、建物も石造りより木造が多い。ゴザを並べて野菜を売る露店の雰囲気も何処か懐かしい。
さて、まずは冒険者ギルドに報告するとして、せっかくだから幾つかクエストを受けていこうかな。ホルダにトンボ帰りしてスタンピード迎撃戦に参加してみても良いけれど、多分、死んでは戻り死んでは戻りのゾンビプレイになるだけだと思うし。そこら辺は、攻略組に任せよう。
「号外号外! セントロのダンジョン『ソクティ』で、スタンピードの兆しありだよ! こうしちゃいられねぇだろう!」
大通りの真ん中で、紙束を抱えた男性が大声で宣伝しながら、瓦版めいたものを撒いていた。次々と瓦版を手にする町人達に倣い、俺も号外と大きく記された瓦版を拾いあげる。
[昨今のリーエンは何かと不穏だ。異常気象に天変地異、民族間の諍いに魔族の台頭と、不安材料には事欠かない。そんなリーエンの中央に位置する神護国家セントロの首都ホルダ。そしてホルダの近郊にあるダンジョン『ソクティ』。そのソクティでスタンピードの兆しがあると報告が齎された。ホルダの冒険者ギルドはすぐに隣国に救援要請を出すと共に、ホルダを本拠地として活動するS級クラン『ハロエリス』を先鋒隊としてソクティに派遣、スタンピード発生を少しでも遅らせようと試みている]
……ハロエリスっていうと、確かあのアルネイ様とやらのクランだよな。S級とは言え一介のクランに過ぎないのに、スタンピードの対応に派遣されるとか、国の騎士団とかは何やってるんだろ。あぁ、あれかな。ソクティがホルダに近いから、むしろ国王と首都を護る方に戦力を割く感じか。どちらにしても、頑張って欲しい。万が一ホルダが被害を受けて、無垢なる旅人達の本拠地であるハヌ棟とメロ棟が破壊とかされたら、目も当てられないしな。
俺は目を通した号外を折り畳んでポケットに突っ込み、再び冒険者ギルドを目指して歩く。すぐに見つけることが出来たヤシロの冒険者ギルドは、時代劇に出てくる武家屋敷のような外観をしていた。それでもちゃんと『冒険者ギルド』の看板が出ているから、ちょっと面白い。
人の出入りが激しいので既に門扉は開かれていて、[ホルダから到着した伝令の冒険者はこちらで報告を]と、わざわざ道案内の高札まで掲げられていた。俺も例に漏れず、指示された受付に向かってみると、まだ朝の早い時間帯だと言うのにかなりの人の列ができている。そして何故か、受付の周りには俺達よりランクが高そうな冒険者達がソワソワしながら集団で待機していた。どうやら伝令の冒険者達から救援要請の手紙を受け取り、それが一定数たまったごとに、救援の冒険者達が出発出来るシステムらしい。
さほど待たずに順番が来て、俺は首に掛けていた冒険者証を取り外し、アイテムボックスの[貴重品]タブに入っていた救援要請の手紙と一緒に受付嬢に手渡した。……受付嬢がどう見ても巫女さんの格好をしているのは開発の趣味かな?
「冒険者ランクF[格闘家]の[シオン]様。救援要請の書簡、確かに拝領致しました。ありがとうございます」
石板の上に置かれた俺の冒険者証が、青色に光る。
同時に、視界にテロップが浮かぶ。
【冒険者ランクアップクエストを達成致しました。シオン様は冒険者ランク[C]まで到達が可能となりました。冒険者ギルドへの貢献を重ね、一流の冒険者を目指しましょう】
おぉ、なんだか嬉しい。今回も後ろに報告の伝令が並んでいるので、冒険者証を受け取った俺は一旦横に出て、自分のステータスを確認してみることにする。
「……あれ?」
アバター名の横に記されていた冒険者ランクの[F]の文字が、点滅している。半透明のパネルを軽く指先でスライドさせて確認してみると、どうやら今の緊急クエストを受けた段階で、俺の冒険者ギルドへの貢献度が[F]の上限に達してしまったらしい。一応、出発前に貢献度の溜まり具合はチェックしていて、緊急クエストとは言えFランクの上限に達するまで貢献度はもらえないだろうと踏んでいたのだけれど、ログをみる限りではどうやらソロ達成ボーナス辺りが加算されたようだ。
「えぇ……じゃあ、ホルダにトンボ帰りしないといけないのかぁ」
冒険者ランクの更新は、自分の所属する冒険者ギルドで行う必要がある。現在はホルダを本拠地としている俺は、当然ながらホルダの冒険者ギルドだ。ヤシロの冒険者ギルドでクエストを受けてみようと思っていたのだけれど、ここでクエストを受けても、Eランクに上がっていない俺では、貢献度を貯めることが出来ない。ヤシロで受けられるクエストには興味があったのだが、こればかりは仕方がないから、次の楽しみにしよう。
「まずは買い物だな……あ、米だけは売ってるか確認しよう。あとは炎狼に連絡して、ミケの首輪に使う布を買って……」
todoリストを指折り数えつつ冒険者ギルドを後にした俺は、ひとまず目についた食堂に入ってみることにした。
「へい、いらっしゃい!」
入り口に掛けられていた暖簾を潜って中に入ってみると、4人がけのテーブルが三つと、壁際にカウンター席がずらりと並んだ、小料理屋と言った雰囲気の店だった。食事をしているのは殆どがNPCの住人達らしく、着物姿が目に入る。
「おはようございます。えぇと、朝ご飯とか、食べれますか」
「おう、ちょうど朝の定食が残ってるぜ、食っていけ!」
「じゃあそれで」
せっかくなので料理をしている大将の近くに座り、料理をする姿を見せてもらうことにした。あ、米がちゃんとある。後で買って帰ろう。
お盆に乗って出てきた定食は白飯に味噌汁、鮭の塩焼きに青菜の和物と生卵、というまさに定番の朝食だった。まぁ、生卵は日本以外では食べる習慣が少ないものだけれど。
俺がカツカツと朝食を掻き込んでいると、近くの席で交わされている噂話が耳に入る。
「いや……そんなことを言ってもユズ姫様はお輿入れが決まっているだろう」
「だから、これが最後の機会ということだろうな。冒険者として身を立てられると証明されなければ、姫様と言えども我儘は続けられない」
「それはそうだがな、お輿入れの相手は何せあの『蝦蟇』だろ?」
「馬鹿、声がでけぇよ」
……変な話を聞いてしまった。
イーシェナは確か、セントロみたいな国王主権の国家じゃなくて、共和制を取ってる国だ。ヤシロにも、そこの当主一族みたいな存在が居たはず。そこの姫君が冒険者……? そして、お輿入れが決まっているとか……なんかもう、明らかに厄介事の気配だよね。
……何だか、嫌な予感なんですけど。
俺はその予感を振り払うように頭を振り、朝食の勘定を支払ってから、ヤシロの市場に、買い物に繰り出してみることにしたのだった。
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