第33話 シラウオへ
結局、アレはいったい何だったんだろうな?
ミケを乗せたバックパックを背負い、ツイ山脈を通り抜ける街道を歩きながら、俺はぼんやりと考える。
今日はしっかり朝食を取ってから宿を出てきたので、俺以外にもタバンサイを目指して歩いているプレイヤー達の姿が多い。街道の各所に立って伝令達が道を逸れないよう誘導してくれているNPCの冒険者達は、誰もが何処かに包帯を巻いていたり、杖をついていたりする。彼等が、療養中の冒険者達ってやつか。カラが副ギルド長と交わした契約が活かされている形だろう。
昨日。冒険者ギルドに持ち込んだ依頼を締結させる瞬間に何故かすっ転んでくれた副ギルド長のせいで、屈強そうな冒険者達に絡まれかけた出来事は記憶に新しい。しかもその後副ギルド長が今度はやけに丁寧な謝罪をしてくるものだから、居た堪れなくなった俺は依頼の釣り銭を貰うのも忘れて冒険者ギルドを逃げ出してしまった。うーん……勿体ないことをした。
それにしても、何故俺を見てあんなに驚いていたのか、今だに判らないのだが。
確か最後に俺が手を置いた金属板は依頼人の魔力を登録する為のもので、個人を識別出来るだけに過ぎず、鑑定などの効果は無かったはずだ。万が一、それでカラの職業が『宿屋』だと知れたとしても、宿屋の職業持ちは他にも存在するみたいだし、メインの格闘家の存在は明かされない。それなのに何故、副ギルド長はあんなに狼狽したのか。
残念ながら、今の俺にはとんと見当が付かない。
「ここから先は下りだ。水の補給が必要ならば、麓に『揺れ葦』という茶屋があるから、休憩がてら立ち寄ると良い」
街道が下り坂に切り替わる地点で、腕に包帯を巻いた冒険者が伝令達に声掛けをしてくれていた。幸い、俺はニカラグで充分な水を調達済みだ。冒険者に軽く頭を下げて下り坂になった山道を足早に下り、寄り道をせずにそのまま街道を進む。2時間ほど平らな道を歩いた先に、タバンサイの町が見えてきた。
「おぉ……あれがログ運河かぁ」
町の隣に流れるログ運河は、イーシェナとの国境を兼ねた大きな河だ。対岸に出来ている町は、イーシェナの町シラウオになる。イーシェナとセントロは友好国の関係を保っているので、互いの国を行き来する場合、運河を1日に何往復もする大きな船の渡賃が、通行料を兼ねてくれているそうだ。
ニカラグも活気のある町だったが、タバンサイは交易の町ということもあり、こちらもかなり賑わっている町だ。色々と見て回ってみたい気分でもあるが、俺はとりあえず、渡し船が出ている港に真っ直ぐ向かってみることにした。港の前は大きな市場になっていて、水揚げされた魚や運ばれてきた荷物を広げた屋台が所狭しと並べられ、多くの人々が忙しなく行き来している。
「いらっしゃい! イーシェナから運んできたばかりの新鮮な野菜だよ!」
「旬のイツマアジはどうだ! 脂が乗ってて最高だぜ!」
道の両脇に並んだ屋台から、威勢の良い声が通行人達にかけられる。物珍しそうな表情で屋台を見て回るプレイヤー達だけでなく、現地のNPC達と思しき姿もかなり多い。ここはタバンサイに暮らす人達の台所でもあるんだろうな。
やがて辿り着いた港の中は、予想通りに多くの人でごった返していた。正月の初詣みたいな密集具合だ。俺はミケに声をかけ、食堂の時みたいに、バックパックの上から俺の肩に移動してもらうことにする。万が一背中から落っこちたら、完全に逸れてしまいそうだ。ミケが尻尾を俺の首に巻きつけてミィと声を上げたのを確認してから港に入り、渡し船が出ている埠頭を目指す。
渡し船の出る場所は大きな看板が出ていたので判り易くはあったのだが、何せ利用する人の数が多い。通常でも混雑する船と聞いたのに、俺達のような伝令の冒険者までもが乗り込んでいるから、尚更だ。これは観光とか決め込んでいないで、さっさとシラウオまで渡った方が良さそうだな。
既に百人程が並んでいた切符購入の列に並び、ミケと遊びながら待機すること1時間。3銀ルキで手に入れた切符を手に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます