第24話 旅支度
旅の支度には、それなりに金が必要だ。
そして俺にはちょっとした幸運で手に入れた金が、ある程度あったりする。そうは言っても、アイテムボックスに入る量には限度があるから、多少は考えないといけない。
まずは食糧と水。マップでは徒歩五日となっていたが、俺は旅慣れていないのだから、1週間分は準備した方が良いと思う。途中の町で補給出来る可能性も高いけど、過信は禁物だ。
それと、野営に備えての寝袋とランタン。これはもう危険を感じるようなら、ちょっとずるいけど、リーエンで経過する夜の時間帯だけログアウトして凌ぐって手もある。
「確か、ダンジョンに潜る冒険者用の保存食が、雑貨屋とかに売ってたよな」
それなら、数を合わせてストックできるタイプのものが、何種類かあるはずだ。ちょっとぐらい値段が高くても、質が良いものを選ぶとするか。
「あ、そうだ」
折角なので、この旅程の途中で、近々検証したいと考えていたことを試そう。
それを踏まえると炎狼を誘うことが出来なくなるので、現状が好都合と言えば好都合だ。
俺は早速雑貨屋に赴き、ストックできる瓶詰めの水と、燻製肉の塊、乾パンなどの日持ちが効く食料と、ランタンに寝袋、小さなナイフなどの雑貨品を買い込んだ。買い物をしながら雑貨屋の店員に聞いてみたところ、料理人という職業と調理というスキルはあるのだが、一般家庭の食卓に上る家庭料理程度であれば、スキルのない人でも料理することが出来るとのこと。まぁ、確かにそうでないと、世のお母さん方が困ってしまうよな。
あらかた準備を整えてホルダの東門に行くと、そこは出立準備を整えたプレイヤー達で溢れかえっていた。その中にはちらほらと、プレイヤー達とは雰囲気の違う冒険者達の姿も見える。多分彼等は、NPCの駆け出し冒険者達。
討伐依頼や採集依頼と違って、整備された街道を隣国まで行くだけで完遂出来るこのクエストは、NPC達にとっても美味しく感じるのかもしれない。
「イーシェナまでの臨時パーティ、ヒーラー、募集中!」
「タンク入れるところありませんかー!」
ホルダを発つ前に臨時パーティを募集する呼びかけが、プレイヤー専用の掲示板で盛んに交わされている。パーティを組むと前提した場合、
「その点、格闘家はちょっと便利だよな」
俺のメインである[シオン]の格闘家は、打撃と蹴りを主体に戦う職種であるが、ヒーラーには及ばない程度であるが回復とバフの付与、肉体強化スキルを応用した一時的なタンクの代役など、器用貧乏にはなるがスキルの裾野が広い。
しかしその分、どの役割も一人でこなせる、いわゆるソロ特化型に育てていくことも可能だ。まぁ、最終的にシオンをどう育てていくかは、まだ模索中なんだけど。
ごった返ししている東門をさっさと抜けようと、衛兵に冒険者証を提示して通行の許可を求めたのだが、何故か首を傾げられてしまった。
「……えーと、冒険者[シオン]。その子も一緒に、旅に出るのかい?」
「え?」
「ミャア」
衛兵と俺と、そして三つ目の声が、俺の足元から聞こえる。
慌てて視線を下ろすと、脹脛の間から、三色の毛皮を持つ生き物がするりと滑り出してきた。
「え……猫……?」
「ニャン!」
ごろごろごろ。
靴を履いた俺の足首あたりに、喉を鳴らしながら頭を擦り付けてくる、一匹の仔猫。俺が抱き上げようと手を伸ばすと、ぴょんと腕に飛び乗り、たたっと腕を伝って肩まで駆け上がり、今度は俺の頬にすりすりと身体を寄せてくる。
ふえぇ、可愛い……。
「よく懐いているねぇ」
「シオン君とやら、テイマーの素質があるんじゃないかな?」
「いや、俺は格闘家なんですけどね?」
俺は手を伸ばし、上機嫌に尻尾を揺らしている仔猫を改めて抱っこしてみた。
何を訴えているかは判らないが、ピンク色の肉球でぷにぷにと俺の腕を押しながら話しかけるように鳴き続けるその姿に、何処となく見覚えがある。
何より耳の上につけている、三色の小さな花飾りは。
「あ!」
あぁ、そうか。あの『華宴の広場』で、初めて作った花飾りを上げた、小さな三毛猫だ。
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