第23話 緊急クエスト

 それから数日の間。俺は[シオン]として冒険者ギルドで簡単なクエストをこなし、少しずつレベルを上げて行った。ログインしてきた炎狼に声をかけられて何度かパーティーを組んでもらった甲斐もあり、基礎のレベルは25、格闘家レベルも10に到達している

 毎日貰えるログインボーナスは、今のところ[体力回復薬]や[魔力回復薬]が中心で、珍しいものは[巻貝の貝殻]と[速度の靴]ぐらいかな。巻貝の貝殻は何かのモンスターのドロップアイテムのようだが、説明文が【海の響きを懐かしむ】となっていたので単なる洒落で作った可能性もある。速度の靴の方は【30秒間、移動速度を3倍にする。ディレイタイム:5分】という良くある効果なのだが、慧眼が使えたので確かめてみると、【30秒間、移動速度を3倍にする。ディレイタイム:5分。キキヌ山脈に住むグリフォンの翼から得た羽で加工を施すと、ヘルメスの靴に仕立て直すことが出来ます】となっていた。

 なんか後から役に立ちそうだし、大事に取っておこう。


 リーエン=オンラインが正式稼働となってから、そろそろ一週間だ。公式からの通達では、『第一次冒険者ランクアップ解放クエスト』が始まるらしい。当然ながら、どんなクエストになるかはまだ判らないが、結構楽しみだ。

 そんな俺が、ホルダの街を中心に展開する討伐依頼を、幾つかソロでこなした帰り道のことだ。


「そこの君……! すまん、手を貸してくれないか!」

「あ、はい」


 怪我を負い、街道近くの繁みに座り込んで助けを求めていた男性を見つけた俺に、【男性を冒険者ギルドまで送り届けましょう】という謎の強制クエストが発生した。

 実はそれこそが、メインシナリオに絡むランクアップ解放クエストの一つであったらしい。

 負傷した冒険者をギルドまで送り届けた俺は、自然な流れで、ホルダに一番近いダンジョン『ソクティ』でスタンピード勃発の兆しありの報告を、ギルド職員達と一緒に耳にしてしまっていた。

 スタンピードとは、ダンジョンからモンスターが溢れ出てしまう現象のことだ。モンスターが生み出され続けるダンジョンは、定期的に討伐や攻略を繰り返さないでいると、このスタンピードと呼ばれる災いを招くことがある。


「Dランク以上の冒険者達に招集を! E・Fランクの冒険者達は、隣国に救援を求めに行ってくれ!」


 ギルドマスターの指示に、冒険者ギルドの中は急に慌しくなる。

 ちなみに俺は、まだFランクだ。攻略組の中にはEランクに到達している猛者もいるらしいが、それ以上はまだ解放されていないとのこと。恐らくこの事件が、ランクアップ解放クエストの糸口になるんだろうな。

 ギルドマスターの言葉を耳にした俺の視界に、重要クエストを示す点滅を繰り返しながら、テロップが現れる。


【ホルダ近くのダンジョン『ソクティ』でスタンピードの兆しがあります。負傷したギルド職員の代理として、冒険者ギルドで書簡を受け取り、隣国の冒険者ギルドに届けましょう】【イーシェナ/ウェブハ】


 俺が街道で拾った人、ギルド職員さんだったのか。そして今回のクエスト、行き先が東西どちらかを選べるらしい。東に行くならイーシェナ、西に行くならウェブハってことか。

 ログインしているプレイヤーの全てに同じ通知が届いたのだろう、プレイヤー達が次々と冒険者ギルドに駆け込んでくる。俺はフレンドリストを開き、炎狼がログインしていないか確認してみたが、残念ながら不在であるか、ネイチャーで行動しているかのどちらかのようだ。


「E・Fランクの冒険者の皆様! 今回の依頼においては、冒険者ギルドより特別に地図の支給がございます! 配達対象の書簡と一緒に、お忘れなくお受け取りください!」


 声を張り上げている受付嬢のところに出来ている列に俺も並び、冒険者証を提出して、書簡配達クエストの受理手続きをしてもらうことにする。


「シオン様は、どちらの国に伝達に出て頂けますか?」


 受付嬢の問いかけに、俺は少しだけ考えてから、「イーシェナで」と答える。予備知識がないので、どうしてそちらを選んだかと言われても、何となくのフィーリングでしかない。


「イーシェナですね。それでは、こちらをお受け取りください」


 受付嬢から渡されたのは、封蝋の施された手紙と、四つ折りにされたマップだ。既に後ろにもクエスト受注待ちのプレイヤーが並んでいたので、俺はとりあえず受け取った書簡と地図をアイテムボックスに入れて列を離れる。同時にプンとテレビの電源を入れた時のような軽い電子音がして、視界の右上に半透明の地図が表示された。

 なるほど、マップを持っていると、こんな風に反映されるのか。


「セントロの首都『ホルダ』からイーシェナの首都『ヤシロ』までは……徒歩で、だいたい五日か。結構かかるんだな」


 当然、色々な移動手段を用いれば、それはもっと短縮できるのだろう。

 ただ俺としてはせっかくだから、自分の足での踏破を試みたい。


「そうと決まれば、まずは旅の準備だな」


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