第22話 呪いの(?)指輪

 驚いている俺を置いてうんうんと満足そうに頷いた妖精さんは、背中の透明な翅を広げ、引き止める間も無く草原の向こうへ飛んでいってしまった。

 ちょっと待って、と手を伸ばした形のままフリーズしている俺の右小指に燦然と輝く、金色の指輪リング


「いろんなこと、いっぺんに起こりすぎだろ……」


 右手で額を押さえ、俺は「はぁ」と溜息をついてしまう。

 敵対モンスターが出ない筈のリラン平原に現れた、謎の変テコ機械。そして機械に追われていた、王子様風の妖精。宿屋の主人スキルのおかげで機械を撃退出来たけれど、恐らくあれは、基礎レベル20の格闘家[シオン]程度では、到底太刀打ち出来なかったエネミーの可能性が高い。

 多分、亡霊チュテと同じように、リラン平原で遭遇出来るシークレットクエストの一つ。しかも本来は、完全な『負け確定』クエストじゃないだろうか。

 妖精を保護した後に機械から交渉を持ちかけられ、それに応じて妖精を引き渡せば大金が手に入るが、当然ながら妖精からの親密度は思いっきり下がる。

 逆に敵わないと判っていても機械に立ち向かえば、敗北して本拠地のホルダに死に戻るしお金も貰えないことになるが、生命に変えても救ってくれようとしてくれた冒険者のことを、妖精は忘れないだろう。

 しかし俺は偶然とは言え、敗北クエストの想定結果を無視して、くだんの機械を倒してしまった。妖精から貰った指輪が、説明文を読もうとしても[???]のままであるのも、通常、俺のレベル帯が手に入れる代物ではないからという可能性が高い。当然ながら、[慧眼]も何も教えてくれない。


「そうは言っても、手に入れちゃったもんは仕方がないよな」


 どんな効果があるのかは判らないが、まぁ、悪いものじゃないとは思う。それに細かい彫金が施された指輪は、見た目にも相当カッコイイので、装飾品として良い感じだ。俺は目の高さに右手を掲げ、太陽の下でキラキラ輝く指輪を眺めた後で、それを指から外してアイテムボックスに入れようとしたのだが。


「……抜けないじゃん」


 右小指に嵌められた金色の指輪が、皮膚に異常な迄のミラクルフィットをおこしていて、どう頑張っても抜けない。


「まさかの呪われてる指輪!?」


 妖精さん、マジか。

 暫く悪戦苦闘して、どうあがいても指輪が抜けないことを悟った俺は、仕方がなく、リラン平原に展開させていた[宿屋レベル1]を、指輪を嵌めたまま撤去リムーヴする。

 あ、そうだ。妖精が指輪をくれた後、【宿屋の運用条件が満たされました】って通知のテロップが入ってたよな。

 確か宿屋の運用条件は、宿泊客が個室で休息を取ること、食堂で食事を取ること、対価を支払うこと。

 保護した妖精が気を失っていたので、俺はドロップアイテムを拾ったりスキルを確認したりする間、妖精を『個室』として設営したテントの中に寝かせていた。その後目を覚ました妖精が腹を空かせていたので、『食堂』として設営した焚き火の前に置かれた椅子に座らせて、花の蜜を食べさせた。そして最後に妖精は、俺に指輪という対価をくれた。

 ……成る程。

 またもや偶然が重なって、条件満たしちゃったんだね……。


「次はもうちょっと考えて行動しないとな……目立つのは駄目だ、目立つのは」


 残りの宿泊客確保目標は、19人。テントは頑張れば二人は泊まれるかもしれないが、快適性を考えると、概ね一人用と考えた方が良いだろう。メインの格闘家を鍛えつつ、どこら辺が宿屋の展開に向いているか情報を集める必要があるよな。だけど、あんまり目立ちすぎたら良くない。慎重に行動しないと。


 そう自分を戒めながら、リラン平原からホルダに戻った俺だったのだが。


 右小指から離れないこの指輪リングが、後からとんでもない騒動を巻き起こすことになるなんて、思ってもみなかったのだ。

 


 



 


 

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