第15話 転職準備

 俺と炎狼が受付嬢から傷の刻まれたプレートを受け取った瞬間に、通知音と共にファンファーレが鳴り響いた。


「おぉ!?」

「わ、何だこれ」


 驚く炎狼と訝しむ俺の頭上で、ラメの入った紙吹雪がキラキラと舞い散る。同時に、視界に浮かぶ二行のテロップ。


【冒険者ギルドに登録してみましょう。の実績が解除されました】

【基礎レベルが15に到達致しました。一次転職が可能です】


 どうやら、冒険者ギルドに登録するのも実績の一部に数えらえれる行為だったらしい。俺達は13にレベルを上げた状態でギルドに来ていたので、実績解除の報酬でもらった経験値加算で、そのまま一次転職の規程レベルに達してしまったようだ。


「もしかして、もう転職ですか?」


 受付嬢の問いかけに、文字を目で追っていた俺と炎狼は揃って頷く。


「ギルドに来る前に、少し狩りをしてきたもので」

「そうなんですか! 怪我が無くて良かったです。一次職の斡旋については、ギルドの二階で概要を確認できるようになっています。宜しければご利用ください」


 受付嬢が掌で指し示したのは、受付のカウンターから少し離れた壁際に設置されている階段。二階に続く上り階段と、ポールパーテーションで塞がれた下り階段がある。冒険者ギルドのロビーは入り口を抜けてすぐの一階にあるのだから、下に降りる階段の先は地下だろうか。


「あの階段の先ですか」

「えぇ、二階に上がっていただけるとまた職員が待機しておりますので、そちらでお尋ねください」

「因みに、下りの階段は何処に?」

「……地下は職員専用のブースになります。一般の冒険者の方は立ち入り禁止となっていますので、間違って下りないように気をつけて下さいね」

「そうですか」


 何だか一瞬、間があったな。

 炎狼も気づいたようだが、やはりまだこの先も、詮索するには早すぎるだろう。まずは転職を終わらせてしまおう。


 受付嬢の勧め通りに階段を上ると、そこには先刻ホクトを連行していった大柄な男性が二人、門番宜しく待ち構えていた。確かギルドマスターが呼んでいた名前は、モースとラースだったか。


「こんにちは」

「こんにちは、はじめまして!」


 軽く頭を下げて挨拶する俺と、ハキハキした声で二人に挨拶を投げかける炎狼。目をぱちくりと瞬かせた二人はそっくりの顔で笑い、「ようこそ」と手招いて、俺達を一次職斡旋ブースが準備されている所まで連れて行ってくれた。

 ローテーブルを挟み、二人がけのソファが対面に設置されたブースが何箇所か用意されていて、それぞれ衝立で区切られている。既に幾つかのブースは使用中で、冒険者がソファに座り、職員から転職についての説明を受けているようだ。何処となく、就職説明会を彷彿とさせる光景。


「ミーア、仕事だ」

「二人一緒でも、良い?」


 俺達が誘導されたブースには、大きな丸眼鏡をかけた制服姿の少女が待機してくれていた。弾かれたように顔を上げた少女の頭の上には、モースとラースと揃いの耳が二つ、くしゃくしゃの髪の間から元気に飛び出している。んん、もしかして兄弟とかだったりする?


「大丈夫だよ! お兄ちゃん達、ありがとう!」


 あ、ビンゴ。


「二人とも、そっち、座って」

「ミーア、頼んだよ」

「はぁい!」


 俺と炎狼をミーアと呼ばれた少女の対面に座らせたモースとラースは、再び階段の方に行ってしまった。ミーアはローテーブルの上に重ねていた資料を手に取り、俺と炎狼が見やすいように広げてくれる。


「まずは自己紹介ですね! 私は、冒険者ギルド職員のミーアと申します。冒険者の皆様の、初めての転職をお手伝いしています」

「俺はシオンです」

「俺は炎狼だ!」

「シオン様と、炎狼様、ですね。それでは説明に入る前に、基礎レベルの確認をさせて頂きます。お二人とも、こちらの水晶に手をかざして下さい」


 俺と炎狼の前に予め置かれていた、透明な水晶。まずは俺が手をかざすと台座に乗ったそれが薄らと輝き、水晶の中に[16]の文字が浮かぶ。続いて手をかざした炎狼も同じ[16]だ。


「基礎レベル16。お二人とも、一次転職の要件を満たしています。それでは早速、転職について説明を始めさせていただきますね」



 



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