第16話 一次転職

 ミーアが見せてくれた資料によると、一次職に選べる職種は、全部で10種類あるらしい。


「一次職は、戦闘職が6種類、生産職が4種類に分かれます。一次職の間はそこまで苦労をせずに転職の手続きが可能ですので、最初から一つの職業を極めようと高みを目指すもよし、自分にあった職種を探して色々なものに手を出してみるも良しです」

「一番人気って何の職業なんだ?」

「男性の方が選ぶのは、剣士がダントツですね。剣士は派生する上級職もかなり豊富ですし、生産職に転向したとしても、流用できるスキルが多いからです。女性ですと魔力の素養が高い方が多いので、魔術師もよく選ばれます」


 剣士の次に選ばれることが多いのは、身軽さと弓術に長けるシーフ。魔術師の次に女性が選びやすいのは、回復・支援魔法のスペシャリストであるヒーラーだ。因みに俺が選ぼうとしている格闘家は、召喚士サモナーと並んで人気がイマイチなのだそうだ。解せぬ。


「生産職ですと、武器を鍛え上げる鍛治師、あらゆる防具を作り上げる装具師、薬を調合できる錬金術師がそれぞれ同じぐらいの人気です。特に装具師は、派生職が豊富ですよ。最後の一つは家具師なのですが、これはかなり癖がある職業で、一次職に選ぶのは家具師の上位職についている方のご家族が殆どです」


 家具師ってことは、建築や各種設備、家の装飾品とかかな? そこそこ面白そうなのにな。癖があるってことは、何かしらの特殊スキルが必要だとか。


「ふむ、やはり俺は、最初は無難に剣士と行きたいところだ」

「俺は格闘家で」

「剣士と格闘家ですね。お二人とも基礎レベルは満たしていますが、実力を示すために、討伐クエストを達成する必要があります」


 俺と炎狼にそれぞれ課されたクエストは、俺が【街の外に出没するワンダーラビット20匹退治】で、炎狼が【街の外に出没するミニラット20匹退治】。


 ……んんん。


「ハハハハハ!」


 急に笑い出した炎狼に、ミーアがびくりと身体を震わせる。俺はと言えば、炎狼への申し訳なさに、ローテーブルの上に突っ伏してしまう。


「ど、どうなさいました?」

「ナンデモナイデス」

「気にするな! ハハハハハ!」


 無駄足を踏ませてすまないと肩を落とす俺の背中を、炎狼は笑いながらバンバンと叩く。


「良いじゃないか! 面白い経験も出来たし、クエスト対象のこともよく判っている。クリアが楽だ」

「……お前、良い男だな」

「うむ! よく言われる!」

「自分で言っちゃわなければ更にカッコ良かったのになーー」


 笑顔の炎狼と共に冒険者ギルドを後にした俺達は、街の外に出てものの10分もしないうちにクエストを完遂してしまった。何せ昨日、売るぐらい倒した相手だ。倒し方はもう判っている。

 今回は依頼クエストだったので、俺と炎狼には、討伐したモンスターの持ち帰り用に時間制限付きのアイテムボックスが支給されていた。俺達もそれぞれアイテムボックスは持っているのだが、容量がそこまで大きくない。ギルドから支給されたアイテムボックスは高度な魔法技術が応用されているらしく、普通の鞄に見えるのに、モンスターの20匹や30匹は楽に収納できてしまう代物だそうだ。良いよな、そのうち個人的に欲しい。


 クエスト一覧の中で討伐クエストが【報告】になっているのを確認した俺と炎狼は、早速冒険者ギルドに戻る。

 受付嬢にクエストの達成報告をして、討伐したモンスターを詰めた鞄を渡せば依頼完了だ。


「シオン様、炎狼様、転職おめでとうございます。お二人の更なるご活躍を期待しております」


 受付嬢に預けていた冒険者証プレートの裏に、炎狼は剣の刻印が、俺の物には拳の刻印が刻まれて返却される。ステータス画面を確認してみると、職業の部分が[無垢なる旅人]から[格闘家]に変わっていた。判り易い印だが、まぁ特に文句は無い。これで無事に、一次転職完了だ。


「良い滑り出しだな」

「同感だ」


 攻略組ほどガツガツとしてないが、足元を固めながらの成長は、後々から良い影響を与えたりもする。まだまだリーエンの世界は、始まったばかりだからな。

 職種に合わせたステータスの変化を確認したところで、お馴染みの通知音が鳴る。同じパーティを組んだままだった俺と炎狼の前に浮かぶ文字は【冒険者ギルドで依頼を受けてみましょう】だ。


「ほう、初依頼ってやつか」

「依頼掲示板を見に行ってみよう。確か、Fランク向けとEランク向けの依頼まで受注して良いんだったよな」


 俺が振り返りがてら尋ねると、受付嬢は「えぇ」と頷いてくれる。


「ただお二人とも戦闘職になりますので、差し支えなければ、討伐依頼を優先して受注して頂けると嬉しいです。採集依頼は低ランクの生産職が経験値を稼ぐ貴重な機会ですので」

「ふむ、成る程」

「じゃあ採取依頼は別にして……討伐依頼、討伐依頼……これはどう? 【リラン平原のフォルフォ退治】……あ、でもEランク任務だ」

「あぁ、それはお勧めですよ。フォルフォはリラン平原に生息するバタフライ種のモンスターで、畑の野菜に卵を産みつけられる虫害が多発しています。Fランク冒険者でも充分対処出来るぐらいの、あまり凶暴なモンスターではないのですが、完全に夜行性なんです。ですので、依頼がEランクに上がっています」


 なんだか、かなり有用な情報をもらってしまったぞ。

 キャンディ効果かな?


「ありがとう、メリナさん。この依頼、俺と炎狼で受けます」

「転職して初任務だな! 腕がなる!」


 俺は掲示板からフォルフォ退治の依頼書を剥がし、二人分の冒険者証と一緒に受付嬢に手渡した。受付嬢が小さな石板の上に依頼書と冒険者証を乗せると、ふわりと緑色の光が溢れる。どうぞと返された冒険者証に変化は見受けられないが、何かしら証明の魔法が入れられているのだろう。


「はい、承りました。どうぞ、ご武運を」

「行ってきます」

「行ってくるぞ!」


 にこやかに手を振る受付嬢に見送られ、俺と炎狼は冒険者ギルドを後にした。





 


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