第13話 S級クラン
S級クラン。
その言葉に、冒険者ギルドに集っていた[無垢なる旅人]であるプレイヤー達は、一様に驚愕の声を漏らす。NPCである住人達には有名な人物なのであろう、其処彼処から「アルネイ様!」「アルネイ様だ」と囁きが広がっている。
「アルネイ様⁉︎」
ゾンビと化していたギルドマスターが、NPC達の漏らす声に飛び起き、アルネイに駆け寄ってきた。
「アルネイ様、何故本部などに! タタント山脈のヒュドラ退治に向かわれているのでは」
「ギルドマスター、久しぶり。討伐は無事に成功したよ。ホルダに戻ったのが昨晩遅くだったから、今朝報告に来たんだ。そうしたら、この騒ぎだろう?」
「そうか、お騒がせして申し訳ない。おい、モース! ラース!」
ギルドマスターに呼ばれて姿を現したのは、見上げる程に大きな体格を誇る、そっくりの見かけをした二人組の男性だった。二人共ギルドの職員らしく制服を身につけているが、くしゃくしゃの髪から飛び出している毛の生えた丸い茶色の耳が、彼等が人間ではないと教えてくれている。
「どうした、マスター」
「呼んだか、マスター」
のっそりとした動きと言葉は、何処となく熊を連想させるものだ。ギルドマスターは頷き、アルネイの下でまだジタバタしていたホクトをちょいちょいと指で指し示す。
「そこの無礼な冒険者を反省室に突っ込め。カタリナの説教つきでな」
「……了解、カタリナ、忙しいな」
「……反省室、フル回転」
アルネイの下から引き摺り出されたホクトは、首の後ろを掴まれて、猫の子を下げるみたいに片手で持ち上げられる。ぷらーんと下がったその姿に、NPC達のみならず、プレイヤー達の間からも失笑が漏れた。あれは恥ずかしい。
「なっ……何するんだよ!」
再び暴れるホクトの抵抗など物ともせずに、モースとラースは首を傾げる。
「聞いて、なかった?」
「お前、反省室で説教」
「大丈夫、痛いのは、心だけ」
「カタリナ怖いから、頑張れ」
ホクトをぶら下げたままズンズンと何処かに歩いて行く二人を、ナヅミに頭を下げたユタカが、急いで追いかけて行く。
「大丈夫だったかい?」
茫然とそれを見送っていたナヅミに、アルネイが柔らかく声をかけた。弾かれたように顔をあげたナヅミは、こちらも慌てて頭を下げる。
「ありがとうございました!」
「良いんだよ。困っている女性を助けるのは、男として最低限の礼儀だからね。君も[無垢なる旅人]の一人?」
「は、はい」
「今度はどうか、気を付けて。若い女性は特に、油断をしてはいけないよ。君の旅路に幸多きことを祈ろう」
「はい……心得ます」
頷くナヅミに軽く頷き返したアルネイは、それにしてもと呟きながらぐるりと周囲を見回し、溜息をつく。
「創世神の啓示が降りたと出先で聞いてはいたけれど、凄い人数だね」
「えぇ……一定時間ごとに、リーエンに降り立つ旅人は増えるばかりです。いっそのこと自治区でも準備するべきでしたかね」
「そのうち、ディランと会談の場を持つ必要があるだろうな。教団との諍いもあるのに……過労で倒れたりしなければ良いけれど」
周囲のざわめきを他所にギルドマスターと会話を続けるアルネイに注がれる旅人達の視線は、興味津々だ。
S級クランということは、セントロでもトップクラスであることは、間違い無いだろう。そんなクランの団長である上に、家名が『ホルダ』で、更には国王を呼び捨てに出来る人物。
明らかに、何かのキーポイントとなるNPCだ。
「……しかしまぁ、時期尚早だろうな」
アルネイに話しかけるタイミングを見計らっている他のプレイヤーを尻目に、俺と炎狼は空いたカウンターの前に立ち、漸く少し回復してきたらしい受付嬢に声をかける。
「すみません。冒険者登録の説明をお願いできますか」
「は、はい!」
弾かれたように顔を上げた受付嬢はカウンターの下から数枚の書類が挟まれたクリップボードを二つ取り出し、俺と炎狼にそれぞれ差し出してくれた。ボードを受け取る拍子に、俺はアイテムボックスからログインボーナスで貰ったキャンディを一つ取り出し、彼女にどうぞと手渡す。確か、疲労回復効果があった筈だ。
「まぁ! 宜しいのですか」
「俺達の仲間がたくさん押しかけて、疲れてるでしょう。良かったらどうぞ」
「ありがとうございます……優しいのですね」
制服姿の受付嬢は、俺が手渡したキャンディを見つめて、嬉しそうに笑う。
同時に、俺にだけ聞こえる通知音が、鳴った。
【七歳以下のNPCに、親密度アップ効果のある飴玉を渡すことに成功しました。冒険者ギルドの受付嬢[メリナ]から[シオン]に対する親密度が、大幅にアップ致しました】
……まさかの七歳以下なのか?
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