第12話 冒険者ギルド
ハヌ棟を出て合流した俺と炎狼は、冒険者ギルドに行ってみることにした。
昨日はスルーした大通り沿いに建つ大きな建物が、セントロの各都市に配置されている冒険者ギルドの本部だ。大きく扉が開かれていた入り口を潜った先は吹き抜けのロビーになっていて、中は大勢の冒険者達で溢れかえっている。
「それにしても、人だらけだ」
「元々冒険者ギルドに登録していたリーエンの住民達に加えて、無垢なる旅人達がこぞって集ってるからじゃないか?」
「だろうな」
まぁ、今から俺達もそれに倣う訳なのだが。
「まずはギルドのシステムを教えてもらうか」
「……あの受付嬢さんに?」
俺が指差した先の受付に座った制服姿の女性は、多分受付嬢なのだが。
「……ゾンビか?」
「やめなよ、可哀想だろ……」
カウンターの上に突っ伏しているその顔面は、青白いを通り越して青黒い。
どうやら無垢なる旅人達の冒険者登録ラッシュで、精魂尽き果てているご様子。そんな受付嬢の様子に、俺達だけでなく、新たに冒険者登録に来たらしい他のプレイヤー達も二の足を踏んでいる。
「説明書とかあったらいいのにな」
「いま準備してる途中かもしれないぞ」
何はともあれ、このままでは埒があかない。
いっそのことまた街の外に出てレベル上げにでも行こうかと話し合っていた時に、何やらざわざわとした喧騒が入り口の方から聞こえてきた。
「どけどけ!」
「……すまないが、道を開けてくれるか」
「邪魔だってーの!」
乱暴で偉そうな口調の声と、少し困った雰囲気を滲ませた声。
人混みを掻き分けて現れたのは、如何にも『俺様粋がってます』と言いたげに剣を担いだ剣士風の冒険者と、その男に肩を抱かれたローブ姿の少女、そして身軽そうな装備を身につけた男の三人だった。
「よぉ、受付のオネーチャン!」
受付嬢が具合悪そうに突っ伏しているにも関わらず、上機嫌の男は態とらしくカウンターの上に腰掛け、受付嬢の肩を乱暴に揺さぶる。
「彼女、ナヅミちゃんって言うんだけどさ。俺達のパーティに入れたいんだよね! でもまだ冒険者登録してないって言うじゃん? ちゃっちゃと登録してあげてくんない?」
「あの、ホクトさん……私は転職もまだですし、一次職もですが、冒険者ギルドにも、よく考えてから入りたいと思っているので……」
「そんなのヒーラーで決まりでしょ! タンクの俺と、シーフのユタカと、ヒーラーのナヅミちゃん。後は火力がもう一人ぐらい入れば、安定パーティ間違いなし! ね、今なら冒険者登録料も俺が出してあげちゃうよ! それでけってーい!」
どうやら、少女の肩を抱いていた剣士が「ホクト」さんのようだ。シーフは「ユタカ」だな。「ナヅミ」と呼ばれた少女はホクトの強引な提案に何とか反論しているが、ひどく困惑している様子だ。このままであれば、押し切られるのは時間の問題だろう。
何処かでソロ行動をしていたナヅミのピンチをホクトとユタカが救ったとか、その辺りかな?
どちらにしても、強引すぎる勧誘は褒められたものではない。
「……どうする?」
「普通こう言う案件は、ギルドマスター辺りが颯爽と出てきて、収めてくれそうなもの何だが」
その頼みの「ギルドマスター」と思しき初老の男性は、少し離れた場所に臨時で設置された冒険者登録受付カウンターで、やはり半ばゾンビ化している。
うーん。頼りにならない。
「そこの君、止めるんだ」
動向を見守っていた俺達の背後から掛けられた、凛とした声。
振り向いてみれば、そこに立っていたのは、すらりとした体躯を持つ金髪の男性だった。僅かに動いている尖った長い耳、透き通った白い肌。深い緑色をした瞳から注がれる視線は、ひたりとホクトに集中している。何だか、エルフみたいな外見だな。
「君の強引さで、彼女は萎縮して、自分の意見が口に出来ないでいる。冒険者は、誰かに強要されてなるものではない。自らの望みが、その意志が無ければ、すぐに死の翼が届くだろう」
「……何言ってんだよ、だいたいアンタ誰だ。俺達[無垢なる旅人]は、いずれリーエンを救う存在に……」
「君に救えるとは、思えないな」
「何だと!」
さすがに剣を抜くことはしなかったが、ナヅミの肩に回していた手を放して青年に掴み掛かろうとしたホクトの身体は、瞬きをする間もなく、床の上に組み伏せられる。
俺と炎狼は、同時に感嘆の声を漏らす。
一切無駄のない、流れるような青年の動き。振り上げられたホクトの拳は、掠りすらしていない。
「おい! 何だよ! 放せよ!」
喚くホクトの上で、青年はにっこりと微笑んだ。
「確かに名乗りもせずに、失礼だったね。私はアルネイ。アルネイ=ハナイ=ホルダ。ホルダの冒険者ギルド所属、S級クラン『ハロエリス』のリーダーだ」
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