第11話 慧眼
翌日の夜。
炎狼と約束した時間が近づいた俺は、リーエンにダイヴしようとする前に、公式からメールが届いていることに気づいた。
メールの内容は初めてのアンクロークを祝う言葉と、本来ならばプレイヤーの誰かが初めてのアンクロークに成功した場合、ワールドアナウンスが流れる手筈だったものが、不具合でアナウンスされなかったことを詫びるものだった。
しかも不具合の修正直後、俺がログアウトしている間にアンクロークに成功したプレイヤーが他に現れたので、既にそのプレイヤーの功績として、ワールドアナウンスが流れてしまったらしい。
希望するならば、内容を修正したアナウンスを再度流すと言われたが、俺はそれを迷いなく断った。功績を得て喜んでいる他のプレイヤーをがっかりさせるのは申し訳ないし、何よりワールドアナウンスで名前を周知されてしまうのは逆に困る。何せ俺の目標は、大虐殺だ。
俺はその提案に断りを入れるのと同時に、功績を挙げた場合もワールドアナウンスが流れないように設定できないかと質問を入れてみた。すぐに公式から返ってきた返事によると、功績獲得時のアナウンス有無は、ゲーム内の個人設定から行えるとのこと。ダイヴしたら忘れずに設定することにしよう。
改めてリーエンの世界にダイヴすると、目を開けばそこは、ハヌ棟の自室にあるベッドの上だった。
まずは忘れないうちに、個人の環境設定だ。俺はコンソールを開き、デフォルトではOnになっていた功績獲得時のワールドアナウンスの有無を、種類を問わずにOffに変える。後で炎狼にも教えてやらないとな。
ログアウト時に流れたワールドアナウンスのログを覗いてみると、転職に到達したプレイヤーの数は結構なものになっているらしい。その他にも、既に隣国にまで足を運んだプレイヤーまでいるようだ。俺と炎狼は少し出遅れた形になるが、まぁ良いだろう。
ゲーム開始から百日間の間は、冒険を助ける[ログインボーナス]がランダムで貰えることになっている。アイテムボックスに届いていた小さな包みを取り出して開いてみると、パステルカラーの包み紙でラッピングされたキャンディが、掌の上にコロコロと転がる。
「疲労回復と、微細なHP回復効果のある飴玉……疲労の概念まであるのか」
キャンディの上に吹き出しに囲まれてポップアップしている文字に目を通していた俺は、スクウェアな形をした吹き出しの右上が、少しだけ違う形になっていることに気づく。
「……何だこれ?」
個人情報を守る目隠しシールや、中身を見えなくするくじ引きの紙に使われているような、[ここからめくる]を指示する形。吹き出しに手を伸ばし、その場所を指で摘むようにしてみると。
「!」
キャンディの上に表示されていた吹き出しが、ぺろりと一枚、シートを剥がすように捲れてしまった。そして吹き出しの中には、新たな一文が現れる。
【疲労回復と、微細なHP回復効果。七歳以下のNPCにプレゼントすると、親密度をかなり向上させることが出来る。リラン平原に出没する亡霊『チュテ』が、この飴玉が欲しいと泣いています】
おいおいおい。
何か凄い情報が一気に来たんだけど。
個人設定と同時に開きっぱなしになっていたステータスバーの上に、目の形をしたアイコンが浮かび、青白く光っている。確認してみると、これは[慧眼発動中]を示すアイコンだ。
「何だこれ……昨日貰ったスキルが原因か?」
首を捻っているうちに炎狼から個別チャットが飛んできた。
ダイヴした炎狼は早速移動してきて、既にハヌ棟の前で待っているらしい。
「考えるのは後だな、まずは転職を目指そう」
そう結論付けた俺はキャンディをアイテムボックスの中に突っ込み、ハヌ棟の前で待つ炎狼の元へと走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます