第7話 レベル上げ
俺と炎狼が居住区近くの門から町の外に出ようとしていた時。
視界の片隅に常駐させていたSNSアプリのログ欄が、急に騒がしくなった。
「どうした? シオン」
急に立ち止まった俺を、炎狼が振り返る。
「初期組の何人かが、転職できたみたいだ」
「おぉ、ついにか!」
「……転職はレベル15から可能。各職業ごとに転職クエストあり、だとさ」
「ふむ……よくあるパターンじゃないか?」
「そうなんだよな」
そこら辺が少し、俺の【腑に落ちない】部分。
スクロールさせていたアプリのログを閉じ、俺は軽く肩を竦める。
「リーエン=オンラインの代表的な特殊システム、知ってるよな」
「当然だ。
メインシナリオの何処かで受け取ることになるらしい、生まれつき与えられている、もう一つの職業。それは『他人に知られてはならない』もの。
俺はその理由を、ずっと考えていたのだが。
「炎狼、プロレスって好きか?」
「……何だいきなり」
「覆面レスラーって、人前では絶対にマスクを取らないだろう? 試合中も、覆面レスラーの覆面を剥ぐ行為は禁忌で、大きな反則行為とされている」
正体を知られない為に、覆面をしたまま埋葬されたレスラーも居るぐらいだ。
「まぁ、ここまでが前説なんだが」
「長いな」
改めて門を潜って街の外に出た俺と炎狼は、街道の近くに広がる草原で、初期装備の[木製ナイフ]を構える。
「目標は?」
「ここの草原には、[ミニラット]っていう何処がミニだと突っ込みたくなるサイズのネズミ型モンスターと、[ワンダーラビット]っていうどうみても見かけが犬のウサギ型モンスターが生息しているそうだ。どちらも初心者向けらしい」
「……ここにモンスターを配置した時の運営は死にかけか?」
「遊び心だったと信じたいよな」
俺が炎狼に提案したのは、冒険者ギルドに頼らず、自分達だけで狩りをして、レベル上げに挑んでみること。効率が悪いのは判っているが、もしかしたらこれが、リーエン=オンラインの隠された側面を垣間見るキーポイントになるかもしれない。
黙々と二人でネズミとウサギを狩り、時たまドロップするアイテムを集めてはまた狩りを続けること、数時間。初回ログイン時のダイヴ時間リミットが近づく頃には、俺と炎狼は死骸の山を築き(ネズミとウサギだが)、それぞれレベルも13にまで達していた。モンスターの死骸は肉や皮に加工出来れば食糧になったり装備の素材になったりするみたいなのだが、今の俺達ではどうあがいても持て余してしまう代物だ。
「さて、これはどうしようか」
「放置しても多分大丈夫だろうが……血臭とかで他のモンスターを呼んだりしないか?」
「あーーあり得る。良くないよなぁ。街のすぐ近くだし」
単純作業が嫌いではない俺は、同じ敵を狩り続けるのも苦痛ではない。炎狼は少し怠そうにしていたが、文句ひとつ言わず最後まで狩りに付き合ってくれたのだから、俺が言っていた提案の理由に興味があるのだろう。
何かしら、面白いことが起きてくれると良いのだが。
とにかく燃やすか、いっそ埋めるか、などと二人で議論していた最中に。
「あのぉ、すみません……」
背後からかけられた、おずおずとした言葉。
俺と炎狼が振り返ると、そこにはいつのまにか、商人風の男が一人、揉み手をしながら佇んでいた。
「先程から拝見していたのですが、あなた様方は【無垢なる旅人】でございましょうか?」
「……だとしたらどうする?」
少し凄みを持たせて返した炎狼の言葉にも、その商人は動じない。
「お二人が処理に困っておいでと見えました、そちらのモンスターの素材、宜しれば、私にお任せ下さいませんか」
「なんだって?」
「へぇ」
プレイヤーの間だけで聞こえる軽い音がして、クエストの受注画面が浮かぶ。
【個人で行商をしている巡回商人を利用してみましょう】……か。成る程なぁ。確かめるように炎狼の顔を見ると、炎狼も軽く頷き返してくる。同じクエストを受注したらしい。
「……えぇと、それではミスター……」
「ルイボンにございます、無垢なる旅人の方。以後どうぞ、お見知り置きを」
「こちらこそ、よろしく頼む。それでこのミニラットとワンダーラビットの死体、買い取ってもらえるのか?」
「はい! ギルドなどでの正規の買取より少しお安い価格とはなってしまいますが、廃棄するよりは、ましでしょう。何より、実際に素材を利用させて頂ける方がありがたいです」
「構わないよ。じゃあ、頼む」
「お任せください!」
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