第6話 確認事項

 ハヌ棟の自室に備え付けられていたベッドに腰掛けると、また小さな音がして、【設備を確認してみましょう】のクエストが開始された。


 クエスト開始を選ぶと同時に、机の上にカタログのように分厚い本が現れる。椅子に腰掛け、付箋の貼られたページをめくってみると、そこにはリーエンでの基本的な設備の利用方法とその効果が一纏めにされていた。

 まずはベッド。自室や宿泊施設で睡眠を選ぶことで安全なログアウトが可能で、リーエン内での日付を跨げば体力と魔力を全回復させることが出来る。しかし、治療が必要なバッドステータスが付与されている場合は、その限りではない。

 次にチェスト。これは予想通りに、個人の倉庫。アイテムボックスに持ちきれなかったり、今は使わないけど持っておきたいと思うアイテムを保管する為のシステム。チェストの中は空間魔法で繋がっていて、国や地域が違う場所から開いても、共通の中身を取り出すことが出来る。

 そして今俺がカタログに目を通すのに使っている机と椅子は、学習効果が上がる性能を持っているそうだ。自室に最初から用意されているものは一般的な向上効果しかないが、他にもっと学習効果を高めてくれる机と椅子もあるらしい。


「あとは各種クラフト用の設備と、戦闘スキルを練習出来る設備と……んん、まだ読めないページも多いな」


 ページの中身が灰色に塗りつぶされて読めない部分は、まだ読む資格がないってことか。レベルをあげたりスキルを得たりする必要があるんだろうな。


 読み終えた本をアイテムボックスに入れて時計を見てみると、そろそろ炎狼と約束した時間が近い。特に何かを整理する必要もないので、さっさと階段を降りてハヌ棟から外に出る。ハヌ棟の出口にある神像の前には、既に炎狼が待ってくれていた。


「早いな、炎狼」

「シオンも早かったな」

「あぁ、まだ出来ることが少ないし、貰った本の読めるところに目を通して終わってしまった」

「あのカタログみたいに分厚い本か。俺も同じだ」


 ハヌ棟の前に案内板の如く掲示されていた首都ホルダの地図によると、ホルダは大きく四つの地域に分かれているようだ。

 まずは、王国騎士団の詰所や貴族の住宅街がある上級区。次に、商人達が軒先を連ね、各種工房も密集している商業区。冒険者達が集う冒険者ギルドと酒場やレストラン、市民の住居などがある居住区。ちなみにハヌ棟とメロ棟が建てられているのも居住区だ。そして、産業廃棄物の処理場とスラム街がある貧民区。

 このうち上級区と貧民区には、【この地域にはまだ訪問出来ません】と赤文字のテロップが浮かんでいる。


「上級区と貧民区には、レベルが上がらないと入れないみたいだな」

「何かに巻き込まれそうだしな。まずは冒険者ギルドにでも行ってみるか?」

「まぁ、それがセオリーだよな」


 戦闘職に就きたいと思ったら、実際に戦ってレベルとスキルを上げる行動が必須だ。情報を手に入れたり仲間を探したりするのに、冒険者ギルドはうってつけだろう。

 生産職に就きたいと考えていても、素材を手に入れる為にある程度の戦闘が必要な場合は多い。そのうち、自力で収集出来ない素材の入手を冒険者ギルドに依頼することもあるかもしれない。


 そうなると、プレイヤーの足は自然と、冒険者ギルドに向かってしまう訳なのだが。

 実際外部SNSアプリを立ち上げてみると、冒険者ギルドで簡単な依頼を引き受けてみたとか、冒険者に声をかけられてクエストに連れて行ってもらっている最中だとか、幾つもの情報が寄せられている。

 しかし、俺は何だか、腑に落ちない。

 何せ『無垢なる旅人』は、リーエンを救う為に召喚された存在。

 それならば。


「……なぁ、炎狼」

「何だ?」

「試してみたいことがあるんだ。ちょっと俺に付き合ってみないか?」 

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