第26話 episode 23 聖王の墓

 頭にもやを抱えながら洞窟から出るとレディに向きなおった。


「ねぇ、どうする? 行っても無いみたいだけど、ファルの言ってたのはここじゃなかったのかしら?」

「そうとは限らないとは思っているんだがね。これだけの材料が揃っていてここじゃないってこともないだろうさ。

 そもそも聖なる王と呼ばれていた人物なんてそうそういるもんじゃないしな」

「だったらなんでファルは物の無い場所になんか導いたのかしら」

「そいつを知る為には行ってみるしかないと思うんだがね。

 ときに、カマル達はどうするさ」


 カマルは変わらずそっぽを向いているが、タグはカマルを心配そうに見つめている。


「ま、ここでお別れの方がいいでしょ。

 道案内はもう必要ないんだし、カマルを危険に晒す必要もないんだから」

「……オレは行く」

「――カマル。呪いを忘れたの? 死んじゃうかも知れないのよ? 私と街に戻ってゆっくり過ごしましょ? もう、敢えて危険を犯すことはないから」

「ま、墓だって言うから危険はないかも知れないけど、それでもそれが一番だと思うわ」

「……関係ない、オレは行く」

「どうする? タグ」

「私には……止められないわ。

 ……だったら私が守って死なせない。これしか今出来ることはないのかも。そう思ったのは私だけじゃないと思いますけど、どうでしょう」


 これはこれで厄介だとは思いレディに目配せすると、彼女は腰に手を当て頭を掻いていた。


「これじゃあ仕方ないね。置いていくと言ったところで先に行かれたり着いてくるならあたいらが守るしかないだろうさ。

 分かった、一緒に行こうか」


 タグは一礼するとカマルと共に砂漠馬サファバに乗る。それを見届け腹をくくるとミーニャの乗る砂漠馬にまたがり谷の出口を目指した。


「ねぇレディ? さっきの紋章さ、見たことない?」

「紋章? ああ、聖王のね。

 あたいは知らないねぇ。それがどうかしたのかい?」

「いえね、どっかで見たことがあるような気がしてるのよ。それも最近のことのような昔のことのような」

「最近? アテナと旅をしている間には見てないはずだよ。

 あたいが知らないんだもの」

「そうよね、そうなのよね。でも、ごくごく最近の感じもしてるのよ。とは言ってもそれらしい物すら見てないのは事実なのよね。

 すっごいモヤモヤするわ」

「あたいとアテナが一緒にいない時ってことになるがほとんどは一緒の景色を見ているし、そういった武具に関しては同じ物を見てきたからね。

 一緒じゃなかったのは最近だと魔人王の城内と、その後の洞窟くらいかい?

 船の宝はあたいも見ているしな」

「いえ、城内にはそんなのは無かったし洞窟も合ったのは布切れだけだったし。

 一体どこで見たのかしら……」

「ま、最近って話だとその内思い出すさ。金字塔ピラミッドに行けば何か分かるかも知れないし」

「んんん、だと良いんだけどね」


 もやが取れないまま視線を前にするといつの間にか谷の出口が見えていた。


「お前ら、あの先にある」

「でしょうね、話からすると。

 それより『お前』っての止めてくれない? あたしはアテナ!」

「アテナさん、カマルに言っても無理ですよ。誰に対してもそうですから、慣れるしか無理なんです。慣れないかも知れないけど、それならそれで無視するしか。と言っても、無視したらカマルと同じなんですけどね。

 受け入れるしかないんですよ、受け入れるしか」

「タグは良く一緒にいれるわ。あたしじゃ絶対ムリよ。一瞬でお別れだわ。

 よくもまぁ……もしかして、金字塔ってあれ!?」

「だろうね、墓にしたらデカイったらないが」

「ああ、聖王ジェセルの墓。あれが金字塔だ」


 谷間から見えているだけで相当に高さがあり、地に広がっている先から徐々に細くなっている整った山といったところだった。


「あれ墓ってもんじゃないわよ。城と同等、もしかしたらそれより大きいわ。

 あんなの魔術を使ってもすぐには出来ないでしょうに」

「だろうね。あれは凄いよ。

 復活の儀式にする為だと知らなきゃ理解出来ない大きさだね」


 近づくにつれて大きさに圧倒されるほどに大きく墓という実感がまるで沸かなかった。

 谷を抜けきり金字塔ピラミッドの傍まで行って見ると、おあつらえ向きに入り口らしき空洞が二本の柱の間にあった。


「あれよね、きっと」

「だろうね。行ってみるとするかい」


 砂漠馬サファバを降りたあたし達は人一人通れる入り口にレディを先頭にして足を踏み入れた。


「ふぅぅぅぅ。

 日がないだけでかなりひんやりとしてるわね」

「ここは特別な感じがします。

 精霊達のバランス調和が良いという感じですかね、不思議な感覚です」

「にしても、この暗さじゃ前には進めないわよ?」

「だね。もしかすると何か仕掛けがあるーーのかも、知れないが……」


 レディは言いながら付近の壁を手探りで触っていると、急に目の前から奥へと順番に天井から近いところで灯りが点いていった。


「すっご……」

「こいつは見事だね。どうやって点いたのか分からないが」

「ここからはオレが先に行く」


 三歩ほど前から通路が広く二、三人は並んで歩けるようになっていた為か、あたしとレディを押し退けカマルが先頭に出た。


「ちょっ、ちょっと。

 はぁ、ホントあんたってば」

「では、私も前に行きますから。アテナさん達は後ろをお願いします」

「タグまで、もう」

「いや、これで良いさ。何があってもミーニャが安全に歩ける隊列だからね。

 これで行こう」

「分かったわ、レディに従うことにする。

 って!! あんた達、待ちなさいよ」


 あたし達を無視するかのように足取りを緩めないカマルに着いていくタグ。見通しもよく何もなさそうなので別に良かったのだが、少しくらい待つという配慮はしてくれても良い気がした。


「………………ねぇ、これ下ってない?」


「緩やかだがそんな気がするね。

 カマル、前の方には何かあるかい? 罠とかも注意しなきゃならないからね」

「……ただの道だ。罠ならばこいつが口を挟む」

「罠があると風の流れというか音というか、違いが出るので気づけると思いますよ。なのでカマルと私が前に行ったんです。

 私達にも未知の場所ですが、これも砂漠の民が造ったものならばアテナさん達よりも地の利があるというもので」

「ちゃ、ちゃんと考えてたのね……。

 ねぇレディ、下ってるけどこのまま行くの? 最悪は戻って、どうにか外から登るって手もあるのよ?」

「どうだろうね。

 墓と言っている以上は下って行っても間違いはないんだが、それだと今までの話とは食い違ってくるとは思っているんだが……」

「おい、お前ら。別れ道だがどちらに行く」


 カマルの肩越しに灯りが二手に別れているのが見える。

 真っ直ぐの道と右に曲がる道。

 そして、近くまで来てみると若干の高低差があることに気づいた。


「これはどう見ても右よね」

「確かにね。歩いた感じからここが中心の位置だと考えると、これ以上くだるのは違う気がするよ」


 レディが言い終えたと思ったらカマルは既に歩き出していた。


「もう! 何か意見でも言ってから動き出したらどうなのよ」

「そろそろ慣れなよ、アテナ。どこに行ってもカマルのような人はいるもんさ」

「そんなこと言ってもさ、あたしにはあたしなりの感じもあるんだから。それを曲げたらあたしじゃなくなっちゃうじゃない」

「ホント頑固というか信念が強いというか。それも嫌いじゃないがね。

 旅をするなら柔軟にならなきゃならない時もあるのさ」

「そんなもんなの? 今回はカマルが勝手に着いて来ただけで、そんな人とは一緒に行動しなきゃ良いだけじゃない」

「それだけなら楽だろうさ。そうもいかないのが人生ってもんなの。

 アテナもこれから色々と経験したら分かるさ。受け入れなきゃならない時、拒否しても良い時とね。

 もしかしたら、それを超えた先にファルが言っていたとライズが言った人間を愛してるってことに繋がるのかも知れないね」


「ん? 嫌いとか合わないとかそんなのも全て受け入れるってこと? そんなことって、ねぇ。神々だって戦争するくらいなのよ? 邪神と反りが合わないからってことでしょうに。

 それなのにあたし達が受け入れるってさ」

「そいつも考えものでね、邪神は邪神だと思っているのかってことになるのさ。邪神から見たら聖神の方が邪神なのかも知れないし」

「え? どういうこと?」

「あたいらが邪神って呼んでいるだけってこと。

 あたいらが魔者を異質な存在だから魔者と言っているけど、魔者から見たらあたいらが異質な存在なわけさ。

 概念で言ったらね、聖神側は秩序を重んじ邪神側は欲望に忠実なわけ。あたいらはその半々な訳だが、理性がある分だけ欲望を抑えている。亜人達は秩序を守る為に外部の助けを拒み隠れ住んでいただろ?

 一方的な目で見ていて決めつけているだけなのさ」

「だったら魔者と共存出来てもおかしくないってことよね。亜人達にも道は開けたんだから」

「はっはっはっ! どうだかね。

 あのらもこれからが大変だろうからね、道は開いたと言っ――!」

「何!? 今の!?」


 話をしながら幾度か曲がり階段を幾つか登ったところでうめき声のような叫び声のようなものがけたたましく響いた。

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