第25話 episode 22 王家の紋章
あたし達が追い付く前にカマルは戦闘を始めていたが、それは得体の知れない者だった。
「なにあれ!? 何者なの!?」
「やつらは
「あんな気持ち悪いのが十体以上!?
よくあんな曲がった剣で相手してるわ」
「
さあ、あたいらも蹴散らすよ!」
レディはあたしよりも先に剣を抜きカマルの後ろにいる包死体に斬りかかるとそのままカマルの背中に張りついた。
「背中は任せな! アテナもタグも後ろにいるから前だけ見てればいい!」
「ふん! 余計な事を!!」
声とも違うような低い唸りを上げる包死体を次々と切り裂く二人の邪魔にならない程度に援護していると、矢が飛んで来るのが見えた。
「弓矢よ! この場から退かなきゃ!!」
と言ったが即座に矢が在らぬ方向へと突き刺さる。
「大丈夫。私が休んでいた
お願いしただけで契約していないのですから」
「どいつもこいつも……オレの邪魔をするな!!」
カマルは怒号と共に弓矢を飛ばした先へと走り出した。
「本当に死にたがっているのね」
「あと数体で片が付く。アテナとタグはカマルを追って!」
「分かったわ!」
行く手を阻むように包死体は立ち塞がるが、難なく避けて通ると黒装束の人々を切り裂くカマルが目に映る。凄惨な光景とはこのことで、それはその場に血の雨が降り注いでいた。
「あれが戦場……」
人同士が切り合う戦場は今まで経験はなかった。
あたしの国は他国と小競り合いを起こしていると聞いてはいたが、王都の隣街で戦場とは程遠い所で平和に暮らしていたから。
「タグ、あそこにいる全員の動きを止められないの!?」
「
「それだともう遅――何あれ!?
カマル!! 気をつけて!」
大声で叫んだが届いていないように不乱に湾曲刀を振るうカマルの奥で一人が薄黒い膜を張り出していた。
「カマル終わりよ! 相手は無抵抗になったわ」
やっとのことで追いついた頃には黒装束に顔に模様を描いた相手は三人になっていた。
「……うるさい!」
と肩にかけた手を振りほどき一人ずつ切り裂くと最後の一人、黒い膜を張った男は血を吐きながら何か言いたそうにしていた。
「ふふ、ぐっ。貴様にかけた呪い……味わうがいい。
死の恐怖を……ぶふっ」
「オレは――死など恐れてはいない」
カマルは低く応えると一刀し、ここで息をしているのはあたし達だけになった。
「カマル……。
何も殺さなくても」
「奴等は最後までオレを殺すつもりだった。だからそれに応えたまでだ」
「だからって……。
そんなことしても亡くなった想い人は喜ばないわ」
あたしが不意にした言葉にカマルは横目であたし達を睨み返した。
「話したのか、タグリード」
「もう辞めて欲しかったから、カマルに……死んで欲しくなかったから」
「あたしはその亡くなった女性のことは分からないけど、こんなことしたりあんたが死んでもその人は喜ばないのよ」
「……お前に……お前にあいつの何が分かる!」
バチンっ!!
あたしの右手が衝撃に痺れている。
「分かるわよ!
……分かるのよ……。
あたしだから言えるの。
人は亡くなっても想いは生きているの、忘れない限りその人は願い続けるの。だから、死に急ぐことはないのよ。
全うに生きて幸せに生きて、そのあとで自分の元へ来て欲しいと死者も想いを持っているの、見守っているの」
「……ふん! 今更そんなこと言ったとしても、もう遅いがな」
「どういうこと?」
「これが奴等にかけられた呪いだ」
自分の服を左半分引き剥がすと、
「この模様がそうなの?」
あたしが口にすると岩影から黒装束を纏い背筋の曲がった老人が姿を見せた。
「わしも斬るかね? 斬るならばそれでも構わないがね」
「武器も戦意も持たず者を相手にしたところでだ」
「だったらば、その呪いの意味を見てやろうかえ?」
「お爺さん、あなたも末裔の一人で?」
「そうじゃそうじゃ。
だが、我ら信者は最早滅びの道を探っておった。だから、あんたらは救世主といっても過言ではないかな。
ふぉっふぉっふぉっ。
どれどれ見せてみなされ」
カマルの左半身をなぞるように見ると、カマルの顔を見上げた。
「我が同胞たる者の命奪いし
意味が分かるかえ?」
「言われずともな」
「どういうことなの?」
カマルは初めから知っていたかのような素振りだった。
それは死と直結しているのだと。
「己の命と引き換えにこの男にも無慈悲な死を迎えることを願ったものじゃな。
こんなことをしても無駄じゃろうて」
「でもそれって、カマルはいつ死んでもおかしくないってことじゃないの?」
「そうじゃ。この男は近い内に死ぬ。それは避けられぬな。
無駄と言ったのは生き残りはわし一人になったことじゃて。
これで血縁は途絶える、呪われた我が一族の血も絶えるというもの」
「カマル……」
あたしは死を宣告された仲間にかける言葉を持っていなかった。
「ならばこの旅が最後かも知れないんだな?」
「そうかも知れないが、そうでないかも知れない。
それは我が神のみ知ることぞ」
「ねぇお爺さん。この先には聖なる王の墓があるんでしょ?
何故その血縁が邪教徒になるわけ? それに呪われた一族って?」
「質問が多いの、娘よ。
確かに我が先祖たる聖王ジェセルの墓はこの先じゃ。
ジェセルは民を想い、この大地に水の恵みを求め魔の者を一掃し、聖なる王として崇められていた。
しかし、この地に巣食う魔の者がジェセルに呪いをかけたのじゃ。
『末代まで我が信者となり神に仕えよ』とな」
「ジェセル王の子達がその呪いを受け継ぐことになったと言うわけか」
「レディ! それにミーニャも無事で」
振り返るとレディが手綱を持ちミーニャを連れて来てくれていた。
「そうじゃて。王の墓の護り手としてな。
ある夜に王が邪神の名を口にし、民を酷使するようになり墓を建てたのじゃ。いずれ復活を遂げるようにと。
じゃがな、王の死後しばらくすると、仕えていた騎士達によりひっそりと
「え? それってまさか、砂漠の地に聖なる王と墓……天に還る場所、それは墓……。
ここに魔力を断ち切る剣がある!?」
「ほうほう、聖王の剣である
神秘術を施し邪神すら斬り裂くと言われた剣よ。しかしな、後に何者かに奪われてしまったのじゃ」
「ええ!? 今は無いの!?」
「今だにな。故に神秘術の効力も弱まりつつあるのじゃ」
ここにあった。
しかし、今はどこにあるのかも分からないのではファルの助言とは異なってしまう。
「どうするの? レディ」
「今は無いと言ってもな。ファルの言葉は別のことを指しているのか?」
「お主らは剣を求めて来たのか? ならば良い物を見せようかね。
救世主たるお主らならばその剣を託しても問題あるまいて。
着いてきなされ」
老人が谷の合間をゆっくりと歩き出す。
剣が無い以上あたし達は老人に従い、少しでも在りかを探る必要があった。
「ここじゃここじゃ。さ、入っておくれ」
岩場に掘られた穴が老人達が住まう場所だったらしく、階段を降りどんどんと奥へと向かうと大きな祭壇のある場所へと案内された。
「あの壁に描かれた紋章こそが我が一族の証。
聖王ジェセルの剣にも描かれていたとされるものじゃ」
「あれが剣に……ね。それ以上に何かないの?
誰がどこに持ち去ったとかさ」
「さあな、大分昔の話じゃて。そういったことは伝えられておらんな」
手詰まりとはこのことだろう。
紋様だけで探すなんて出来っこないのは明らかで、この後どうすべきなのか悩むところなのだが、何かあの紋章が引っかかってしかたなかった。
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