第11話 episode 09 壊滅された船
町に戻ってから三日。
『海の支配者バルバレル』と呼ばれる海賊を探す為の会議を開き、現れそうな場所を選んで船を出した。が、簡単には見つからず、町を往復しつつ今もまた海に出ていた。
「そろそろ魚料理にも飽きてきたわね」
「そうですか? 私は味が違うので飽きてはきませんけど。
お嬢様は何が食べたいのですか?」
「肉に野菜よ! 野にあるものが食べたいの。
味は違っても食感が変わらないもの」
「はっはっはっ! アテナは育ちが良いからね、仕方ないのかもな」
「レディも飽きないっての?」
「あたいは口に出来れば何だって平気さ。
旅に出始めの頃はアテナと同じだったがね、今となっては食にはこだわらないさ」
「慣れってやつ? そんなのに慣れたくないわね。お酒も苦いからイヤだし、海賊には不向きのままで結構だわ」
実際、黙って相手が来るのを待つのも精神的に辛く、
今は正にその時で、見渡す限り海で居るかも分からない相手をただ探し廻るだけ、更にはずっと同じ船の上で歩き廻る場所もない。
「アテナ、それなんだがね。あたいが海賊になったらどうだい?」
「どう? って言われても……。
賛成はしたくないわね。一緒に旅を出来なくなるもの」
「あたいもそれがあってね。
海賊になりたいともなりたくないとも思っちゃいないんだが、アテナと旅をするのが楽しいからね、今は。
だけど、カルディアがいない今は誰かが指揮を取らねばと思っているのも事実でさ」
「それはね。だからこうして船長室で食事もしてるんだもの。
今は仕方ないとは思っているわよ。魔人を倒すまではね――で、実際はどうなの?
剣が見つかったとして勝ち目はあるの?」
「そいつは分からないね。
あたいの力量がどこまで通じるか分からないし。けど、魔者の
本来であれば国に頼みたいところではあるけどね」
「海賊だからね。国がまともに取り合ってくれないでしょ」
「だったら海賊を辞めたらどうなんでしょう?」
ミーニャの言葉にあたし達は呆然とした。
「い、いや、待って、待ってね。海賊を辞める?
……そ、それは……どうなるのかな、レディ」
「あいつらは行き場を無くした連中で、国に仕えようって気はないと思う。
それに海賊を辞めたら生きていくのも困難になるかも知れない。ただ、表向きは国に属してる街ってなっているからね……もしかしたら利用出来るかも知れないね、それは」
「そうなの? 難しいことは分からないから、そうなったらレディに任せるけど」
話を聞くと、国から追われる立場の者や住む場所を失ったもの、生きていくことに絶望した者など様々な者がカルディアに拾われ海賊になったらしい。
それが国の命に従って動くとは到底思えなかった。
「レディ! レディは居るか!?」
急に激しく扉を叩く音にあたしとミーニャは体をびくつかせる羽目になった。
「どうしたい? 開けな」
「船を見つけた! 今すぐ来てくだせぇ!!」
体ごと部屋に入ってくる様子に、慌ててる様がありありと伝わってくる。吉報なのかは分からずとも進展があったことには違いなかった。
急ぎ甲板に出ると、数名が
「どこだい? 見つけたって船は」
レディの問いに皆が海を指差し、一人は筒状の
「あれかい!? 見つけたってのは。
……煙が出ているね。
誰かどういうことか分かるかい?」
「あの海賊旗はバルバレルのもんじゃねぇです。ですが、バルバレルにやられた可能性もあるってことで呼んだんでさ」
「よし。進路をあの船へ!!
争う意思がないことも忘れるなよ!」
レディの号令にざわついていた船上が一気に慌ただしくなると、船頭がゆっくりと黒煙の上がる船へと向き出した。
「何かありそうね、レディ」
「あぁ。彼らには申し訳ないが、バルバレルにやられたことを願うよ。
そもそも生き残りがいるかも分からないが」
「確かにあの煙じゃ派手にやられたみたいだからね。
誰かしら居るといいんだけど」
黒煙が近づくにつれ海風に流された焼けた匂いが鼻を突く。火の手はない様に思うが、船の機能は失われているであろうことが目に見えた。
「ここからはゆっくりと近づくんだよ! 近づいたら船を横に着けな」
舵取りが大きな声で返事をすると海賊達の雰囲気が一変、各々に武器を携え真剣な面持ちで船を見つめていた。
そして、真横で停止すると長い板を架け橋に
一人、また一人と海賊が乗り込んで行く。
「アテナとミーニャはここで待っておきな。
あたいも呼ばれるまではここを離れないからさ」
「そうさせてもらうわ。
あの板二枚じゃ海に落ちそうだもの」
冗談ではなく本気だった。
揺れてる船を行き来するのに板が一枚や二枚だと命の保証は出来ないだろうと。
「レディ!! 生き残りが何人かいる!
そっちへ渡らせるぞ!」
探索に行った海賊の一人が向こうから大声を上げると、血にまみれた海賊が数名板を渡りこちらへ辿り着いた。
「結構な傷だね。
誰か! 手当てしてやってくれ!
……あたいらは争う気はないが、助ける義理もない。だけど、情報が欲しい。
手を貸すから力を貸してくれないかい?」
レディは座り込む筋肉質の大男に声を掛ける。見た目から指揮をしている海賊だと踏んだのだろう。
「……ふんっ。
壊滅まで追い込まれたんだ。オレ達にとやかく言う権利はないだろうさ。
それで、何の話だ?」
「話の分かる男で良かったよ。
あんたらをこうまでした相手を知りたいと思ってね」
「それを聞いてどうする?」
「あたいらはバルバレルって海賊を捜してる。
そいつらに聞きたいことがあってね」
「……はんっ。そいつはどんな奴らか知らないのか?」
「聞いたことはことはある。無尽蔵に宝を集めてるってことはね」
「その程度なら辞めといた方が身の為だ。この有り様を見たならな」
どうやら当たりだったようで、あたしはレディと顔を見合せた。
「バルバレルにやられたんだね?
奴らはどっちに向かった?」
質問に口を開かずレディを黙って睨み返す。
「…………本気なんだな。
奴らは南へ向かった。オレ達の宝があると言ったからな」
「そいつはどこだい?」
「ここから半日、南へ向かった先に島がある。
それが見えたら西へと向かうと小さな孤島があってな、そこを教えてやったのさ」
「よし! あたいらもそこを目指すよ。
ちなみにだが、あんたらは魔人に対抗する剣ってのは聞いたことないかい?」
「……魔法を帯びた剣ってな話は聞くが、そいつは知らねぇな。
それから、孤島に向かうなら一つ忠告だ。歌声に気をつけるこった」
「歌声?」
「あぁ。その孤島に近づくと歌声が聞こえるのさ。
そいつに耳を貸すと人が変わったようになっちまう。ヤバイと感じたオレ達は命からがら帰路に着くことが出来たんだからな。
バルバレルの奴らにも同じ目に遇わせてやろうと教えてやったのよ」
「分かった、肝に命じておくよ。
……全員の治療も終わったようだね。あんたらは船に帰りな。
あたいらは急ぎ奴らを追う」
レディの差し伸べた手に海賊は掴まり立ち上がると、生き残った海賊らと共に自らの船へ帰っていった。
その後、すぐに出発させると航路を南へ向けバルバレルの後を追うことになった。
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