第10話 episode 08 海賊故に
日も暮れ、街に着いたあたし達は主要人物と
ざっと見積もっても十人。
中には船に居なかった人物も含まれていた。
「………………それでとりあえずは戻ってくることにしたのよ」
少なくなった海賊とカルディアのこと、あたしがこの目で見てきたことを説明せざるを得なかった。
「それでカルディアの戦友たるあたいが指揮を取ったって訳さ。
もし不服ならあたいが相手になるが」
剣の鞘に手をかけたレディだったが、誰も反発する者はいなかった。
「誰もいないのであれば、これからどうするかだ。これはあたいが決めれることじゃない。
何か意見が有る者はいるかい?」
「オレは頭に助けられた恩義がある。
だから
頭に布を巻いた男が口に出すと、何人かは頷いてみせた。
「よし、じゃあ決まりね。
そしたら、誰かがカルディアの後を継いで剣を探し敵討ちに行く!
あたし達はお役ごめんってことでこれで街を出るわね」
「ちょ、ちょっと待ちなアテナ」
あたしを引き止めるようにしたのは何故かレディだった。
「え? 何?」
「何もこうもないよ。魔人の討伐に行かないのかい?」
「行かないわよ、行く理由がないもの。
あたしはカルディアから情報を聞く為に手伝いをしたのよ? そのカルディアが居ないんじゃどうしようもないじゃない。
それに、無作法で柄の悪い海賊の手伝いなんかしたくないもの」
「んだと小娘!」
「それよそれ。すぐに威圧的に出て絡んでこようとする。そういうのが紳士的じゃないし、大人げないのよね」
声を荒げる髪のない男は、頭いっぱいに血管を浮きだたせ一歩力強く踏み出した。が、それと同時に後ろのソファでずっと足を組み
「なぁ、お嬢ちゃん」
「アテナよアテナ。
何?」
「アテナちゃん。
あんたの言い分は分かるし、理解も出来るよ。オレもこいつらの無作法には嫌気が差すからな」
「おい、クリスティアン」
「でもな、こいつらは皆互いを想える心を持ってるんだ。中身も知らずに嫌いだの一言で片付けるのは良くないぜ?」
「うっ……、それは、そうだけど。
でも嫌なものは嫌なのよ」
容姿端麗で笑顔を崩さず優しい口調で話すこの男にこそ『優男』という言葉があるのかも知れない。
「生理的に嫌いってのも分かるがね、むさ苦しい奴らだしな」
「おい、またかよ」
ちょいちょい入る突っ込みを優男は無視してそのまま続ける。
「ただ、そこのとこを目を瞑るとしたら、単純に手伝う理由が無いってことなんだろ?」
「はっきり言っちゃえばそうよね。宛もない旅をしてるって訳でもないしさ」
と普通に話すと、レディがあたしの肩に手を置いた。
「アテナ、あたいは手伝う気でいるよ。
カルディアと魔人の関係も分からないし、死んでいたと思っていた友の
だから、アテナにもついてきて欲しいと思ってる」
「レディ……気持ちは分かるけど、相手は魔人よ? どこにあるかも分からない剣を探したとしても、普通の魔者とは違うのよ。
あたしが居たって意味があるとは思えないわ」
「アテナちゃん。意味が欲しいのかい?
友の頼みだとしても?」
「そういう訳じゃないけど、あたしの力量じゃ役に立たないってことを言いたいのよ」
「なら、オレから一つ提案だ。
友が頼みたいと言ってる。けど、理由も力量もない。
だったらオレが理由を与えてやるってのはどうだい? 力量はこの際当てにしてないってことでさ」
こめかみに力が入ったのが分かったが、ここは我慢のしどころだろう。
「ムカつくけど、理由って何さ」
「アテナちゃんの探してる人物の行方を教えてやるって話さ」
驚いた。
カルディアしか知らないことだとばかり思っていたが、この男も知っているとは。容姿に惑わされがちだが、優男は底知れぬ何かを持っているのかもと感じざるを得なかった。
あたしは戸惑いつつも疑いの目で見つめ返した。
「本当に知っているの?」
「勿論だとも。カルディアよりは知っているよ、行き先もな」
「なんで知ってんのよ」
「カルディアは海賊の頭、オレは領主としているからな、表向きは。
本来はカルディアが仕切っているんだが、海に出ることもあるからオレが常にここにいる立場ってことになってんのさ」
「それでアリシア達と関わったってこと?」
「そういうこった。
だから、アテナちゃんに対する有益な情報も握ってるってこと」
納得がいった。
実際はカルディアの統率で動いているが、海賊を
「だったら仕方ないわね。レディの頼みでもあるんだから手伝うことにするわ」
「ありがとう、アテナ。それなら後はこれからどうするかだね。
何かそういった話は聞いたことないかい?」
正直、手伝う気はあったのだが、何せ相手は魔人。知性を有し、そこらの魔者とは別の存在であり、レディの気でも変わってくれないかと抵抗してみただけだった。
レディは剣の行方について海賊達を見回したが、各々口を開いてもこれと言った話は上がらなかった。
「参ったね、何も無し……か」
「一ついいですかい?」
「なんだい? 何でも言ってくれ」
「オレ達は海賊といってもここからそう遠くにまで行くことはないんだ。
だから他の海賊に聞くってのはどうだい?
根城を持たない海賊ってのは心当たりもあるしよ」
そう大柄の男が話すと他の海賊達は怪訝そうな顔をし出したのを見て、レディは頭を掻き始めた。
「それは悪くない話だとは思うが……皆何か言いたそうだね」
「そりゃそうよ。言ってる海賊に心当たりがあるからな。
宝という宝を自分達だけの物にする荒くれ者。他の海賊をも根絶やしにしようとしてる奴らさ。
到底話を聞いてもらえるとも思えなきゃ、情報を教えてくれるとも思えないからな」
「だとしたら、他に何か案はあるのかい?
このままだと
レディの問いに海賊達は困惑の表情を浮かべたままだ。
「なら決まりだね。
あたいらの相手は魔人。そこらの海賊とは訳が違う。その海賊に臆するくらいなら仇なぞ取りに行けないってことを心しておくんだね。
では明朝、ここで会議を始めたいと思う」
締めくくりの言葉を聞くと険しい顔に戻った海賊達が部屋を後にした。
ただ一人、優男を残して。
「レディ、だっけ?
あんた、オレ達の長になる気はないかい?」
「ん? あたいが長に?
察するにクリスティアン、あんたがなるんじゃないのかい?」
「んんー、本来ならそうなるとは思うがね。
でもオレは長って柄じゃあない。交渉には
それに今の連中はカルディアに着いてきた連中だ。女性に従うことを何とも思っちゃいない。奴らは統率力、頭の回転、武力が揃っていたら不満はないのさ。
それに、カルディアの友だったとなりゃ信頼だってしてるしな」
クリスティアンの身振りを踏まえた話術にレディはすぐに反論は出来ずにいた。
「……考えておこう」
苦笑いを浮かべ、あからさまな苦し紛れの言葉にクリスティアンは満面の笑みで返すと、何も言わずに部屋を出て行った。
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