第5話 episode 04 狂公爵
カルディアからの話に腕組みをし素直に聞き終えたレディは、振り返ると
「疑問ということはないんだ、アテナ。
だがね、それだけの理由であたいらの力を借りたいってのがどうにも引っかかってね」
「そうなの? あたしは別に分からない話ではないと思ったけど」
「それはそうなんだがね。
何か……第六感と言うべきかな、過去のわだかまりで引っかかってるってだけじゃない気がしてさ。
彼女は二手三手先を詠むことに長けていてね、剣技のみ成らず策士としても功績を上げていたのさ。
そんな彼女が単純に力を借りたいと……ってね」
「んー、それなら確かめることは出来ないわよね。聞きに行ったところで教えてくれるわけもないだろうし。
だとしたら、あたし達がするべきことは何かに備えておくしかないってこと、か。
ミーニャには船に残ってもらおうかと思ってたけど、一緒に行ったほうが良さそうね」
チラリとミーニャを見ると不安げな表情で首を縦に振った。
「それなら荷物は持って行くしかないからミーニャに任せようかしら」
「分かりました。お嬢様の荷物くらいは運べます」
というのも、レディは荷物と呼べるほどの物はなく手ぶらに近い状態なので、実際はあたし達の荷物しかない。
「ん、なんだ? あれか?」
急に海賊の怒号が響くと船上が慌ただしくなり、それに気づいたレディは何かに気づいたようであたしも身を乗りだし船首の先を見据えた。
「あれね!? これからあたし達が行くところは。
小島だと思っていたけど、この距離であの大きさ。結構広そうね」
目指す島はあそこだと云わんばかりに船は真っ直ぐに進んで行く。
「降りる支度をするわよ。万全の準備をしなきゃね」
そう言って与えられた部屋へ向かうあたしの後ろを二人が黙ってついてくる。
「さて、何を身に付けて行こうかしら?」
「あたいらは宝を探すよりも身を守る物を重視したほうが良いだろうね」
部屋に入るなり
「すると、これとこれは要らない。……これはどうする?」
レディに見せたのは旅で見つけた
「身に付けて行った方が良いだろう。とは言っても魔法は使えないが、何もないよりは良いだろうね」
「ま、そうね。魔法の罠なんかあったりしても不思議じゃないだろうし、何も無いよりはってことよね。
そうなると、ミーニャには近くにいてもらわなきゃだわ」
「は、はい」
あたしは魔力の欠片もないようで、冠に秘められた魔力を解くにはミーニャが必要だった。
彼女からは少なからず魔力を感じると行く先々で言われていたが、これまで魔法を披露することもなければ覚えようともして来なかった。
「ちゃんと覚えてるわよね?
「大丈夫です、お嬢様。しっかりと覚えてます」
これを見つけた後、
ただし、魔力が封じられていること以外の詳しいことは分からず、魔法を使う者に更なる鑑定をしてもらわなければならないのだとか。
「よし! あとはこれとこれね。
さて、あたしは準備出来たわ。良いわね、みんな」
普段より多少の武具を身に付け二人が首を縦に振るのを確認し甲板へ出ると、遠くに見えていた島は既に船の間近まで迫っていた。
砂浜に降り立ったあたし達は目の前の森へと足を踏み入れる。普段の森とは違い動物の足跡も見当たらず、あたし達が進む道ですら海賊達が以前通り多少歩き易くなっただけだという。
「どこまで行くの?」
列のやや後ろを歩かされているあたしは前を行くカルディアに声をかけた。
「多少は歩かなきゃならないよ。
これから少し行ったら斜面になる。それを登ったら見えて来るからそれまでは我慢してくれ」
「そう。やっぱり緩やかな山のままになっているのね」
というのも、船から見ただけでも島の木々が半円を描いていた。
地図では一段高くなっていて、昔は陸続きで人がいたであろうというカルディアの憶測を元に考えると山の中腹、あるいは頂上に宝が眠っていることは容易に考えついていた。
「それにしても嫌な所ね。鳥の鳴き声だって少ないし、動物すら影がないんだもの。
一体ここはどんなとこだったのかしら」
「調べた限りでは狂公爵が本当に存在したとかの記述は見たが、この地が本当にそれなのかは謎さ。
地続きであったなら考えられなくもないって話で、定かではないんだ」
「狂……公爵?」
「知らないのか? と言っても、旅人であれば知らないのも無理はないか。
昔話でね、立派な公爵がいたらしいのだが一変、乱心して
その公爵は一旦は行方知れずになるのだが、数年後に狂公として民を、貴族を串刺しにするといったことを行ったんだとさ」
「なんだか物騒な話ね。
そしたらこの地が行方知れずになった後の地かも知れないのね……って、それじゃあ串刺しにしてたのはここ!?」
「それだと辻褄が合うのさ、これから目の当たりにする景色にね」
その言葉に一瞬背筋が氷る感覚を受け、言葉を喉に詰まらせる。
戦場を経験した者達にはさほど気にも止めないだろうが、幾多の人が命を落とした場所をあたしは中々受け入れることが出来ない。
無数の死者をこの目で見て想いを聞いた経験があるからそれは尚更のことだった。
「もうすぐだ。足元に気をつけろよ」
カルディアがあたし達に声をかけたことで不意に足元を見ると、そこには白い棒のような物が落ちていた。
「今のは? 枯れた木なの?」
「はっはっはっ! 確かに似ているんだよな、感触もさ。
あれは人の骨だよ。風化した骨さ」
「えぇっ!! うわぁっ」
「お、お嬢様っ……」
気持ち悪いと言っては失礼なのだろうが、どうにも言い表せない気持ちが鳥肌となって表れていた。
どうやら飛び付いてきたミーニャも同じ思いのようで、あたしの腕から離れないようにしている。
「さあ、見えてくるよ。
あれが私の考えを確かにしてくれた物だよ」
足元から目線を先に伸ばすと森の木々が少なくなり、その先には大人の背丈より少し高い朽ちた木々が見えている。
「あれって、もしかして……」
「そう、その通りだよ」
近づくにつれ全容が明らかになると、あたしとミーニャは足を止めざるを得なかった。
木々の先は尖っているものもあれば途中で折れているものもあり、根元には先ほどの骨のようなものも散らばっている。そして、小高い丘の上にはかつては立派であっただろう廃城がそびえていた。
「本当にこんなことが……」
あたしは震えを悟られないよう腕にしがみつくミーニャの手を上から押し付け力を込めた。
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