第6話 episode 05 魔人襲来

 かつての凄惨な光景が蘇りそうな木々の間を海賊達はなに食わぬ顔で通り抜けるが、慣れないあたし達は恐る恐る遅れまいと通り抜けることがやっとだった。


「ふぅ。なんでこんなど真ん中を通るのよ」

「そりゃ近いからに決まってるだろうよ」


 ただの文句をカルディアではなくレディが応えてくれた。


「分からなくないけどさ、死者への冒涜とかは考えないのかしら」

「アテナ、ここにいるのは海賊だよ。命あっての物種と考えてる連中に亡くなった者への拘りなんてないのさ。

 特に知らない連中なら尚更さ」

「海賊って冷たいのね。あたしは好きになれないわ」


 もし、海賊達が死者のたましいを見て死者の声を聞いたら少しは考えが変わるのだろうかと不意に思っていると、大きな口を開けた廃城が待っていた。


「この中に入るのね。門もだいぶボロボロ、有って無いようなもんだけど大丈夫なの?」

「ああ、この中に宝はある。孤島の城だ、必ず・・ある」

「誰かが先に来て無いかも知れないじゃない」


 あたしの言った可能性を否定も肯定もせず、カルディア達は無言で城へと足を踏み入れる。

 海賊の勘だとでもいうのだろうと別段気にも留めず続いて城の中に入ると、崩れ落ちた壁やら傷つけられた絵画や階段が目の前に広がり、古くからの遺跡すら思い起こさせる雰囲気が漂っていた。


「すっごいわね。これがきらびやかな城だったなんて想像し難いわ。足の踏み場もないとはこのことね」

「ああ、中々のもんだよこれは。相当な争いがあって更に年月が相当に経っているってことだね。

 気をつけるんだよ、アテナ、ミーニャ」


 崩れた天井の隙間から僅かに光が射し込み、なんとか見渡せる明かりの中、瓦礫を踏みしめ海賊の後を追う。二階に上らず進む海賊達に少し違和感を覚えながらも、二つほど部屋を過ぎたところで立ち止まった。


「どうしたの? 城の中なら宝物庫とか探したら良くない?」


 強い臭気に顔をしかめながらカルディアに問うと、彼女は数人ほど指を指して奥の壁へ行くよう仕向けると自身もそちらへ移動し振り返った。


「レディ! これで貸し借りは無しだ。

 この場をやり過ごして必ず来てくれると信じてるよ。私と違ってあんたならね」


 一瞬なんのことか分からずレディを見てやると、険しい顔つきで静かに剣を抜き放った。


「何かいるのね!?」

「そういうことだ」


 至って冷静に返すレディの剣先はカルディア達に向けてはおらず、未だ見ぬ敵を探っているようだった。

 僅かに聞こえる足音と唸り声にミーニャはあたしの背中にへばりつくと、それに気を取られ気づいた時にはカルディアの姿はなかった。


「ちょっ!? ちょっと! カルディア達は!?」

「隠し扉の向こうだよ」

「あの壁が隠し扉になってたの?」

「そうみたいだね。それも簡単には開けられないとみた」

「この場をやり過ごすしかないってこと!?」

「そういうこと――来るよっ!」


 レディの言葉に続いて開かれた左右と後ろの扉。そこにいたのは数え切れないほどの魔者の姿だった。


「あいつらは何っ!?」

「やつらは喰妖魔グール! 人の肉を喰らう魔者だよ」

「この臭いもまさかっ」

「あぁ。喰っていたんだろうさ。

 しかもこの数相手に仲間も置いていくとは……変わったよ、カルディアは。

 いくよ! 海賊ども!!」


 この場を取り仕切るレディの号令に従い、海賊達も武器を手に魔者へと斬りかかっていった。

 四方を塞がれ輪になりながら喰妖魔グールを斬り倒すも、後から後から扉から入ってくる。そんな状況でもミーニャはあたしの背中から離れずにいる為、体術ですら覚束おぼつかずにいた。


「きりがないわよ、レディ!」

「仕方ないだろ、こんなにいるんだから!」


 そんなやり取りも余裕がないほど迫りくる中、突如としてミーニャは魔言語マジックワードを呟いた。


「今それを言うの!?」


 あたしの驚きと共にサークレットが光輝くと、腕を振り上げ爪を剥き出しの喰妖魔が次々と海賊達へと体を向け出した。


「あれ? 襲ってこない?」


 あたしとミーニャの前にだけ穴が空いたように空間が広がる。


「アテナ! 突破出来るなら先に行きな!!

 ミーニャもいるんだ、先に行け」


「カルディアを追うわね! レディも気をつけて」


 急ぎつつ気をつけながら喰妖魔の間をすり抜けて行く。理屈は分からないが本当に襲っては来ず、難なく部屋から部屋へと移動し魔者の姿が無いところで一息いた。


「何だって襲ってこなくなったのかしらね」

「魔力が解放されたことと何か関係がありそうですけど、何でしょうね」

「でも助かった――って言っていいのかしらね、レディを置いて来たけどミーニャには助けられたわ」

「そんな、私はただ唱えた方がいいと感じたのでやって見ただけなんです」

「何はともあれってね。

 さて、四つほど部屋を出て廊下を通ってこの部屋よね」


 あたしは短刀を取り出し床に傷を付け簡単に地図を描いてみた。


「入口はここで……城の大きさから見るとレディの居るところとは反対の一番奥って感じかしら」


 この部屋には入って来た扉以外出られるようなところはなかった。


「で、ここに隠し扉があってでしょ?

 宝物庫があるとしたら、大体は地下よね――っと、本当に宝物庫に向かったのかしら」

「何故ですか?」

「宝を探しにとは言ってたけど、魔者が来ることを知っていたかのように見計らって、隠し扉まで知っていたのよ?

 それでもって、一度はこの島を訪れている。

 もしかしたら城の中まで探索済みで、あたし達に隠してる何かを取りに来た、って考えても不思議じゃないのよね」

「あぁぁ! 確かにそうですね」

「でもよ? そうなると、どうしてあたし達の助けが必要なのに置き去りにしたかってことなのよ」

「あの魔者の囮ではないのでしょうか?」

「んー、それも考えたんだけど、それなら仲間を置いて行くかしらってね。

 囮としつつ何か他の訳もあるのかもって考えるしか今はない、か。って考えると、向かった先は宝物庫じゃなく……玉座、かしらね」


 と、答えを出したあたしにミーニャは不思議そうに見返してくる。


「他に考えられるところがそれしかないのよ。

 単なる宝探しならとっくに終わってる。けど、それ以上の何かとなれば串刺し公ツェペシュの居た部屋としか思い当たらないのよね」


「なるほどですね。では、試しにそちらへ向かうってことですね」

「そういうこと!!」


 言葉と同時に描いていた城の中心部にある謁見の間に短刀を突き刺し、ミーニャへと頷いてみせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る