第4話 episode 03 古びた地図

 各々が飲み物を口にしながらカルディアからの取引内容を耳にしている。あたしは短い話なのでまとめることもせずそのままを聞かせていた。


「って感じだったのよね」

「するってぇと、あいつはあたいの力が必要ってことなんだね」

「あたしよりもレディが必要ってことは、経験か剣技が欲しいってことだと思ったわ」

「そいつは多分両方だろうさ。宝は欲しいが厄介ってことはそういうことだろうね」


 いまいちピンとこないあたしにレディは続けて話した。


「もしかすると魔者かトラップ、その両方があるかも知れないってことさ。宝を護る何かがあるんだろ」

「そういうことね。だったらどうする?」

「あたいには断る権利は無さそうだよ。返しきれない借りを作っちまったんだからね。

 それに、アテナの力にもなるなら断る理由はないさ」

「まさか、そこまで分かった上で取引ってワケじゃないでしょ?」

「どうだかね。彼女は頭も切れる傭兵だったんだ。断れないと踏んでいても不思議じゃないさ」

「そう。なら、いいのね?」

「あぁ、構わないさ」


 これで決まりだ。

 あたしは酒場のマスターに取引は行う旨をカルディアへ伝えてくれと頼み、ついでに料理も注文しておいた。


「さてと、これからすべきことも決まったし腹ごしらえでもしようかしらね」

「そうですね、お嬢様」

「アテナ、あたいとカルディアの話はしなくてもいいのかい?」

「へ? 別にしたければ聞くし、したくなければ気にしないわよ。過去に何かあるのは誰だってそうでしょうに。それを聞いたところでってことよ。

 それよりも今と明日が大切なんだもの」

「はっはっはっはっ! アテナらしいね。

 そういうとこが気に入ってんだよ、あたいは」

「あら、ありがと。

 話さなきゃならないときに話してくれたらそれで充分。今は過去の話は大事じゃないからね。

 さてさて、料理も来たし食べるわよっ!」


 運ばれて来た料理を頬張りミーニャとレディに目を向ける。ミーニャはいたって普通に食事に手を伸ばしていたが、レディはどこかいつもと様子が変だった。


「どうかしたの? 冷めちゃうわよ?」

「いや、ちょっと気にかかってね。……ほら、アテナの力も必要だって言ってってたんだろ?」

ほーよそうよほえらそれがなにかした?」

「剣技や知識が必要だってなるなら、初めて会った相手にそれを求められないんじゃないかってね」

「どうして?」

「そりゃあさ、どれだけの技量や知識があるかなんて分からないだろう。

 それなのにってことさ」

「あたしが強そうに見えたとか?」

「いくら強そうに見えたって女子だろ? ここには屈強な男達が沢山いるんだ。

 その中に小さな女の子が一人増えたところで大したことはないだろ」

「ま、確かに。だったらお世辞なんじゃないかしら?

 レディに頼みたいけど、あの場にいたあたし達を無下には出来ないって。あたしの存在を無視出来ないのは分かってたはずよ」

「あっはっはっ!

 確かにそんなことしたら喰ってかかられるのは分かってたとは思うがね。だとしても、彼女がそれだけの理由でってことの方が考えにくいな」

「だったら簡単なことよ。あたし達は万全の準備をして望む。何も分からない以上はそうしてその時に対処するしかないわ。

 ……ってことで、さっさと食べて準備だけはしておきましょ」


 それから食事を済ませると宿へと向かい、お呼びがかかるまで入念に準備を済ませることになった。


 蒼く澄みわたる空と心地よい海風が頬を撫でる。あたし達は海賊船に乗り込むと甲板に出て海を眺めていた。

 結局のところ、連絡が来たのが夕暮れ時であり出発は次の日の昼間ということになり、こうして海に出ている。


「船って初めて乗ったけど退屈なものね」

「そうですか? 私は楽しいですよ」


 声の弾むミーニャは大海を眺めては笑顔を絶やすことがなかった。


「それはそうとアテナ。カルディアに聞かなくていいのかい?」

「何を?」

「これから向かう所のことさ」


 手摺てすりに寄りかかり、腕組みをしたままのレディは表情も変えずに海賊達を眺めながら話をしている。


「そうねぇ……別に聞かなきゃ聞かないでもと思っていたけど、少しでも詳しいことが分かれば対処も楽かも知れないわね」

「彼女のことだ、あたいが行っても素直には話してくれないだろうから、そこはアテナにお願いしたいとこなんだが」

「良いわよ別に。

 そもそも、あたしが知りたい情報と交換なんだから聞いてくるわ」


 レディの返事を待たず甲板から一階層降りた船長室をノックすると返事があり、それに応える形で名乗りつつ扉を開けた。


「おや、アテナ。どうしたんだい、一体」

「ちょっと聞きたいことがあってね。ってのも、今向かってる場所のことが聞きたくて来たのよ」

「あぁ、そういうことか。

 だったらこっちに」


 扉から離れカルディアの机の前まで行くと、地図らしきものが広げられていた。


「こいつは海図っていってね、航海に使う地図なんだがさ。

 ここが私の町で、今はこの辺りだろうね」


 細かく線が引かれ、普段の見慣れた地図とは違い陸地が分かりづらくなっている。


「それで? どこに向かってるの?」

「向かっているのはここさ」

「まさに離れ小島って感じのとこなのね」

「そう思うだろうが、私の見解はちょっと違うのさ」


 地図で見る限り、陸地から離れた小さな島にしか見えず、あたしはカルディアを見上げた。


「ここを見てごらん」

「小さな島があるわね」

「そして、ここ」

「小さな島ね」

「更にこことここ。バラバラに見える小島があるだろ?

 これに私が手に入れた過去の地図の破片を重ねると……この小島は陸地より一段高い山だったことが分かる」

「確かにそうね。けど、それが?」


 破片は山になっている以外はおかしな点は見られなかった。


「こいつは海図じゃない、陸地を主に書いた地図さ。山の周りには海が記されていない。

 それを踏まえて見てみると……どうだい?」

「……これって……。

 まさか陸続きだった!?」

「そういうことさ。

 元々は陸地だったのが、なんらかで海に沈んでしまったってこと。

 そうなると予め隠していたのではなく、有ったものの誰の目にも触れることがなくなった宝ということになる」

「んー、ってことは何か仕掛けがあったり魔者がいてもおかしくはないっと。

 だから、仲間でもなくなんらかの経験があるあたし達に手伝って欲しい」

「そういうこった。私らは絆ってものだけで生きてるんでね、これでも仲間一人欠けて欲しくないのさ。

 それに、陸地に上がるってのは船上とは違うから陸地での経験が必要になるってことなのさ」


 カルディアの話には納得がいった。

 仕掛けや魔者の類いは船の上では経験出来ないだろう。更に元々は人がいたであろう地では何があるかは分からない。


「分かったわ。それだけ分かればあたし達も考えておけるわ」


『頼んだよ』との言葉を受け部屋を出てると、レディとミーニャのもとで今の話をして聞かせた。

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